第59話 異常事態だよぉっ これぇ!!

 パッ

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 【HP】ヒットポイントの枯渇を確認。

 【逆境忍耐ペイシェンス】を発動します。

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 ぱぁぁ……

 バチンッ!


「かはっ!?」


 パッ

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 勇者魔法【逆境忍耐ペイシェンス】が発動しました。

 対象者の意識覚醒を確認しました。

 現在、HPは【10】に回復しています。

 ステータス異常、【毒】を検知しています。

 速やかな対処をお勧めします。

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「い、いったいなにが──んくっ」


 目を開けただけで激しいめまいがして、気が遠くなる……

 まっくらな視界──というかぼくの頭の中に、

 【万物真理ステータス】からのメッセージだけが、真っ赤な文字で表示されていた。


「うぅ、HPが……10しかない? くぅぅ!?」

「え? 【逆境忍耐ペイシェンス】が発動してる? なんで──」


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逆境忍耐ペイシェンス

 種別:勇者魔法

 状況:常時

 対象:術者

 効果:MPを消費する事で、HPを【10】まで回復することができる魔法。

    攻撃によるHPの枯渇、もしくは即死魔法を受けた際に自動発動する。

    発動時には術者の意識を強制的に覚醒させ、戦闘の継続を可能とする。

    なお発動にはMPが必要で、MPがゼロであれば発動不可となる。

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「しかも毒? な、なんで……うぐぅっ」


 なにがなんだかわからない……けれど、

 死にかけてる……それだけはわかる。


「くっ【異空収納インベントリ】!」」


 ぼくは目を閉じたまま【異空収納インベントリ】を発動させ、右手をさしこんだ。

 そして中から小ビンをとりだし──


「ぷあっ!?」


 じぶんのお顔にぶっかけたんだ。


 ぱぁぁ……


 ぼくのカラダを暖かい光が包みこむ……

 激しかった息が落ち着いてきて、すうっと楽になるのを感じた。


「はぁぁぁ……たすかっ……たぁぁ」


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【ハイパーマルチポーション】

種 別:マジックアイテム

制 限:1回のみ

価 値:金貨30枚

性 能:この薬を服用、もしくは身体に振りかけることで、

    対象者のHP及びMPを全回復、さらに麻痺、眠り、混乱、毒、呪いなど

    あらゆる異常状態を解除する事ができる。

    効果は1人のみで、一度に全量を使用する必要がある。

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 ぼくが使ったのは、全回復するマジックポーション。

 いわゆるゲームなんかでいう【エリクサー】。


「はぁっ はぁっ ゆ、勇者時代も…一度も使ったこと、なかったのにぃ」

「まさか……こんなところで使うなんて」

「でも、おかげで助かった……はぁぁぁ」


 前世の魔王討伐のとき、手に入れたは良いけど?

 けっきょく使わなかったんだよねぇ

 だから【異空収納インベントリ】に、前世から入れっぱなしだったんだ。


「ぼくゲームとかでも【もったいなくて使えない派】だったから……」

「って、アプリルさんは!?」


 覚えてるのは……アプリルさんが【毒】を飲んだ、そういったこと。

 そしてぼくにキスをして──


「【万物真理ステータス】っ! アプリルさんはどこっ!?」


 パッ!


 ぼくのアタマのナカに、レーダーがあらわれて──


「って! レーダーのまんなか? ココにいるの!?」


 慌てて立ちあがるぼく。

 HPも全快したし、毒の効果はもうないからなにも問題ない。

 はずだったんだけど──


「えっ!? なにこれ……高い!?」

「えっえっ!? っていうか……なんでぼくっ」

「スカート履いてるのぉぉぉ!?」


 しかも見覚えのある赤いチェック柄、そして首にリボンを結んだブラウス。


「まま……まさかっ!?」


 慌ててぼくが窓のガラスにお顔を映すと──


「ぼぼっ ぼくっ アプリルさんになってるぅぅ!?」


 ◇◆◆◇


「あうぅぅっ 走りにくいぃぃ!?」


 ぼくはいま……アプリルさんのカラダのまま、神殿に向かって走ってるんだ。

 だけどいつもと背の高さ、そして脚の長さがちがうから、とにかく走りにくい。


(それにぃぃっ!? おっぱいが、こんなに揺れるだなんてぇぇ!?)


 この世界にも【ブラ】はあるけれど、それはあくまで【ビキニ】のブラ。

 現代日本の【全体を包んで寄せあげる】っていう機能はかなり低い。

 しかもアプリルさん、おっぱいが意外と──


(アマーリエさん級……とまではいかないけど、アルタムさん級くらい?)

(アプリルさん、日本なら高校生だし? けっこう大きいほうだよねぇ)

「ってぇ それどころじゃないんだってばぁ!?」


 ぼくは両手でおっぱいを押さえながら、ひたすら走る。


(とにかく……認めるしかないっ)

(いまのぼくが、アプリルさんのカラダになってること!)


 そして【万物真理ステータス】でみたぼくの名前も──


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・名 前:アプリル(エルフ)

・性 別:女

・レベル:LV22

・状 態:正常

                            下画面があります▼

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「って、なってたしぃぃ!?」

「しかも【正常】ってなに!? 異常事態だよぉっ これぇ!!」

「あっ いたっ!」


 そのぼくの視線の先には、あろうことか【ぼく】がいた!


「やっぱりぼくとアプリルさんのカラダが、入れかわったんだ!?」

「止まってっ アプリルさ──ん? ぼくだからクリス?」


 そんなぼくの声に、ぼくのカラダが立ち止まる。

 そしてこっちを振り向くと──


「えっ どうして死んでないの!?」

「や、やっぱり殺す気だったの!?」


 ぼくのお顔で……ぼくの声で……ぼくみたいな話し方でおどろく【ぼく】。

 けれど【ぼく】は背中を向けて、裏路地へ逃げていった。


「くっ 逃げたって、こっちにはレーダーがあるんだ!」


 けれど、【ぼく】はそこで待ち構えていたんだ。

 剣を構えて。


「どうやってあの毒を解毒したのか知らないけど……」

「ぼくとしては【アプリル】さんに生きてられると、困っちゃうんですよね」

「ぼ、ぼくの姿と声で……なんてことを!?」

「だからちょっと痛いかもだけど、死んでくださいね? アプリルさんっ」

「……なっ」


 そういうと【ぼく】は剣を構えて、ぼくに斬りかかってきた!?

 ──けど


 ヘロヘロ~


「あうっ」

「………え?」


 すっごい【へっぴり腰】で、カンタンに避けられちゃいました。

 そして何回かまた襲ってきたけど……


「ハァっ ハァっ な、なんなのっ!? このカラダっ」

「【二つ名】持ちの冒険者だって聞いてたのに……」

「まるでシロウト! ぜんぜんダメじゃないかぁ!?」

「えー」


 完全に息があがってる【ぼく】

 ええと……なんでそんなに弱いの?

 ぼく、【タフクの塔】だって攻略済みですよ?


「ええと……とりあえず、確保ぉぉ!」

「ふぐっ!?」


 ぼくは【ぼく】の後ろに回り込むと、その首に腕を廻して……きゅっと締めた。

 無手でも【格闘術:LV77】【体術:LV82】【暗殺術:LV85】のスキルがある。

 そんな絞め技を喰らって、あっけなく落ちる【ぼく】。


「とりあえず、なにか縛るもの……あった♪」


 【異空収納インベントリ】から縄を取り出して、手足を縛る。

 そしてそのカラダを抱きかかえて、歩きだしたんだけど……


「うわっ 軽いなぁ、ぼくのカラダ」

「それにしても、なんだかこれ……」


 路地の窓ガラスに映るぼくの姿は……

 まるでコドモをさらう、女子高生の誘拐犯みたいだった。


 ◇◆◆◇


 そして、案の定……


「え……アプリルさん? ご無事で──えっ!?」

「く、クリスをどうする気ですか!?」

「ちがうんだっ アイナママ!?」

「貴女に【ママ】と呼ばれる覚えはありませんっ」

「そんなぁ!?」


 神殿の前を通りかかったとき、アイナママと鉢合わせちゃって──


「ともかく、クリスをこちらに渡してくださいっ」

「ち、ちがうんだよっ アイナママっ ぼくがクリスなの!」

「は? アプリルさん……やはりなにか悪いものでも食べて──」

「ぼ、ぼくがアプリルさんにっ カラダを入れ替えられちゃったの!?」

「入れ替える……そんな事が、できるのですか?」

「うぅ ぼくもなんでかは、わからないよっ」

「けど、アプリルさんがヘンな術を使ったせいで、こうなったんだ!?」

「し、信じがたいです」

「ですよねー でも信じてぇ!?」


 とにかくアイナママに、信じてもらわないことにはどうしようもない。

 そんなふうにぼくがオロオロしていると……


「では……お伺いします」

「貴女が本当にクリスだと言うなら、わたしの問いに答えられるはずです」

「わ、わかったよ、アイナママっ」

「く……話し方だけはクリスに似て──では、わたしの【娘】の名前は?」

「レイナちゃんっ」

「正解です……では、あなたの【ご両親】の名前は?」

「ええと……【産みのママ】のステラママ、【義理のママ】のルシアママ」

「【育てのママ】のアイナママ……パパの名前は知りませんっ」

「せ、正解です……お父様の名前は、引っ掛け問題だったのですが」

「だったら!?」

「ですが、ルシアから聞いていたのかもしれません」

「そんなぁ!?」


 たしかにその可能性もあるけどぉ

 アイナママ、慎重すぎるぅぅ!?


「では──」

「ええと……きのうの晩ゴハンはハンバーグ、おとといは肉団子のスープ!」

「きのうはレイナちゃんが1回おかわりして、ルシアママは2回してた!」

「な、なぜそれを……」

「ぼくがクリスだからだよぉ!?」

「で、ですが──」

「だったら!?」

「ゆうべの【レッスン】は、まずアイナママがぼくの上になって……」

「な──」

「つぎはおくちでキレイにしてくれてから、おっぱいでもして……」

「ちょ──」

「そのつぎはうしろからっ そのつぎは──」

「わ、わかりましたからっ お願いだからやめてぇぇ!?」


 アイナママ、お顔をまっかにしてへたりこんじゃった!?

 でもなんとか説得……できたのかなぁ?


 ◇◆◆◇


「と、ともかく……貴女の言う事が事実であることは認めましょう」

「アイナママっ♡」

「ですが最終的な判断は、クリスが目覚めてからです」

「そんなぁ」


 そして【ぼく】のカラダはアイナママに奪われて、お膝の上に乗ってるんだ。

 確かに目覚めてみないと、中身がぼくじゃないなんてわからないしなぁ。


「でもっ そっちの【ぼく】は、ぼくに斬りかかってきたんだよ!?」

「それは……貴女がそう言っているだけかもしれません」

「で、でもぉ……」


 そっちの【ぼく】が目覚めたら、いったいなにをするかわからない。

 それでもいちおうぼくを信じてくれるのか……

 両手両足を縛ってる縄を外すのは、待ってくれてるみたい。

 だけど……


「え? なにあれ?」

「よくわからないけど、アイナ様とクリスくんと……ほら、あっちのエルフのコ」

「なにあのコかわいいっ!?」

「エルフってホント美形しかいないのね~」

「って、なんでクリスくん縛られてるの?」

「わかんないけど……あのエルフのコと関係あるっぽい?」

「もしかしたら……クリスくんのカノジョ!?」

「ルシア様が選んだ【許嫁】いいなずけ……とか?」

「「「「きゃぁぁぁんっ♡」」」」

(うぅ……すっかり人が集まってきちゃった)


 ぼくたちは冒険者ギルドの前にいるんだけど……

 ぼくたちの周りは遠巻きに、たくさんの人たちが集まってる。


「うぅん……」

「クリス? 大丈夫ですか?」

「あ、アイナママ? なんでぼく……え? 縛られてる!?」

「え、ええ……」

「なな、なんでぇ!?」

「……あなたには、アプリルさんと入れ替わっている容疑があります」

「ですので、それが晴れるまでは──」

「ひっ ヒドいよぉ!? アイナママぁ!」

「ぼくを、信じてくれないの?」

「あぁっ クリス」

(ちょっ!?)


 ぼくの姿でそう言われ、アイナママはすごく揺れてるみたいだった。

 そんなあっちの【ぼく】は目を潤ませて、アイナママを見つめてる。


(い、いけないっ このままじゃ、アイナママが堕ちちゃうぅぅ!?)


 と、その時──


「あっ アイナママっ!?」

「え?」


 思わず叫んでしまたぼくを、アイナママは振り返る

 けれど、ぼくが叫んだのは悪手だった。

 なぜなら、アイナママがこっちを見てしまって【それ】に気づけなかったから。

 あっちの【ぼく】の目が、赤く光っていることに。

 あのアプリルさんと入れ替わったあの時と、同じように──


(いけないっ)


 【ぼく】がアイナママにキスっ しようとしてるっ

 そんなぼくが駆け出そうとした、そのとき──


「ダメぇぇぇっ!?」

「えっ!?」


 どんっ


「んちゅぅぅぅっ!?」

「んむっ!?」


 人垣のなかから飛び出してきた女の人──若いメイドさんが、

 アイナママのお膝の上から、あっちの【ぼく】を突き飛ばして……

 キスしちゃった!?


 ◇◆◆◇


【おっぱい番付】

 21年4月場所時点


横 綱:ミヤビ   「あぁっ 見られてるぅぅ あふん♡」

大 関:アイナ   「は、はずかしい……です、うぅ」

関 脇:ルシア   「ん? 見られて恥ずかしい身体はしていないぞ(どやぁ)」

小 結:クラウ   「防御力アップの為とはいえ……理解し難い文化だねぇ」


前 頭:アマーリエ 「か、ハリとカタチには自信がありますわ!?」

十 両:アルタム  「だらしないカラダでごめんなさいぃぃ!?」

三段目:アプリル  「いつかルシアさまと釣り合う為に、がんばりますっ!」

序二段:ミラ&マハ 「「決して小さくないはずなのにこの順位……せぬ」」


序ノ口:レニー   「ふふ……燃え尽きたよ……真っ白にね……」

番付外:レイナ   「ぐぬぬ……わたしほんとうにママの子?」

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