第51話 御姫様ってよばないで
「なんと……男子だったのか」
「いやすまない……魔法を使うと聞いていたのでね、てっきり女子かと」
「あー、そうでしたねぇ」
このギルドのトップ冒険者、クラウさんがそう思うのもしかたない?
この世界の冒険者で魔法を使えるのは、ほとんど女の人なんだ。
(それに……ぼくが【土魔法】の【ケースショット】を使ってるの……)
(何人かの冒険者さんに、見られてるからなぁ)
とはいえアイナマママいわく、ケースショットのような初級の魔法なら、
たまに男の人でも使えるひとはいるみたい。
でも中級以上の魔法は、あまり人目につかないようにって、いわれてるんだ。
「いや、ならば……むしろその二つ名が際立つな」
「そ、そぉですか?」
「ああ、確かに【かわいい】♡」
「か、かわいいっていわないでぇ!?」
◇◆◆◇
「ええ、きっかけは、クリスくんが数々の【塩漬け依頼】を達成し──」
『あの【救国の英雄】アイナ様の息子くんが、すごい活躍してるっぽい』」
『しかも、すごくかわいいんだって♡』
『じゃあ……【かわいい英雄】ね♪』
「──と♪」
「ひどすぎる!?」
「ええ……ひどい誤解ですよねぇ」
「アマーリエさん♡」
「クリスくんのお母様は、ステラ様なのに」
「そっち!?」
まーでもぼくも『ママ』って呼んでるし?
アイナママの子供だと思われても、そこはしかたない──
って、そこじゃなくて!?
「いやいや、聞けば聞くほどすごい話だね」
「あの【大陸最強の魔女】の血を受け継ぎ……」
「【斬撃妖精】と【慈愛の聖女】に育てられたとは……まさに未来の英雄だ♪」
「ええ、しかもクリスくんは、その力で『困った人を助けたい』と♪」
「いやはや、本当に大したものだな、君は」
「そ、そぉですか? えへへ♪」
「ですが……クリスくん? こちらのクラウさんもクリスくんの様に……」
「魔物に困っている依頼主からの依頼を、主にこなしていらっしゃいます」
「あっ そうなんですね」
「ですからぜひ、ご紹介をと思いまして♪」
「ありがとうございます、アマーリエさん♪」
「あぁ……そんな澄んだ瞳で見つめられたら、私ぃぃ♡ あふん♡」
なぜだか自分で自分を抱いて、ぴくぴく☆してるアマーリエさん。
なんだかウットリしてるから、ほおっておいてあげよう……
「でもクラウさん、ずっとソロでやってるんですか?」
「ああ、実は私はとんだ田舎者でね」
「いなかもの?」
「遠い国から旅をしてまわっているのさ、見聞を広める為にね」
「かっこいい!」
「なに、そういえば聞こえがいいが、実は地元から逃げ出しただけさ」
「幸い、旅をする力も時間もあったのでね」
「旅……かぁ♡」
旅といえば……前世の魔王討伐を思い出す。
けど……
(いつかはママたちと、ゆっくり楽しく旅をしてみたいなぁ♪)
(あんなギスギスした【業務】っぽいヤツじゃくて~)
まぁ? 確かに【世界を救う】という大事な旅ではあったけれど?
「それで、どうして依頼をメインでやってるんですか?」
「ああ、依頼を受けているとね、その土地の姿が見えてくるんだ」
「とちのすがた」
「どういった魔物が悪さをしているのか?」
「そしてどんな人達が、どのような被害を受けているのか?」
「それを実際に見聞きし、依頼を達成することで見えてくるモノ……」
「そんな人々の暮らしを感じるのが、私は好きでね」
「おぉう」
クラウさんはそうはいうけれど……
じっさいには高レベル冒険者ほどダンジョンに、こもりきりになっちゃうんだ。
効率よく経験値ももらえるし、おかねも儲かるし?
(だから【レベル上げ】と【魔石集め】ばっかりになっちゃうんだよね……)
もちろん大半の冒険者は【食べてゆくため】にやってるんだから……
それもまた、正しくはあるんだけど。
「なので時折、パーティー加入の誘いを受けるのだけどね……」
「私の目的が【依頼】メインだと聞くと、折り合いがつかなくてね」
「なるほどー」
「ただ幸い、私にはそれをこなす力がある様なのでね」
「それでひとり寂しく、だが気楽にやっているという訳さ」
「クラウさん……かっこいい!」
「ふふ、面と向かってそう言われると、恥ずかしいものだね」
「ああ、この国にやってきて……」
「初めてこのビキニを装備した時の事を思い出すよ」
「おぅふ」
ごめんなさい……それ、
ぼくとミヤビさまのせいなんですぅ
◇◆◆◇
タイミング悪く、レニーさんは長期の依頼でお留守でした。
なのでセッケンは、アマーリエさんに預けて渡してもらうことにしたんだ。
「……ごくり」
「アマーリエさん? ちゃんとレニーさんにあげてね?」
「………………はい」
そしてルシアママは……
久しぶりに同郷のエルフさんたちとお話できて、ゴキゲンです♪
「ああ、改めて紹介しておこう」
「故あって私が養子にした──クリスだ」
「あ、ぼくクリスです」
「ミラにございます」
「マハにございます」
「えへへ♪ これからもよろしくおねがいしますね?」
「ははっ、命に代えましても」
「何なりとお申し付け下さいませ」
「だから土下座はやめてぇぇ!?」
その後……ねばり強く交渉したけっか……
なんとか土下座はヤメてもらいました。
「あとぼくのこと、『
「「えー」」
「ぼく、男のコですからね!?」
そしてルシアママのことについては──
「ん? さっきもあの者たちが話していたが──」
「神々が眷属として精霊を元に【妖精】を作った時に……」
「もう少し、他の眷属たちに近づけて作った種族があってな?」
「それが【エルフ】だ」
「そうだったの?」
「妖精は随分と小さいからな、他の種族と釣り合いを取るためだろう」
「サイズが原因だった!?」
「それでまぁ、元が精霊だけに精霊との意思疎通には長けていてな?」
「ただ、それも代を重ねるごとに失われてしまったのだ」
「そうなの?」
「ただ、一部の氏族にはその能力が残り……」
「エルフにとっては【それ】が、たいそう大事なものに感じたらしい」
「だいじなもの」
「それでその能力の残る氏族は【真のエルフ】の姿であるとかなんとか──」
「ともあれエルフの【象徴】のように扱われてしまってなぁ」
「しょうちょう」
「それが私の氏族……ただそれだけの話だぞ?」
「そ、それって……」
ほ、ホントに【尊い血筋】というソレなのでは~?
思わずお顔を見つめあっちゃう、ぼくとアイナママ。
「いや、だから……その氏族が民を導いていた数千年前ならいざしらず」
「今では特になんの役目も勤めもない、ただのいち氏族なのだぞ?」
「取り柄といえば、ただ少し他のエルフより精霊の声が理解できるだけ」
「それに少々、他のエルフより寿命が長いだけだ」
「え? エルフさんって……500年くらいあるんだよね? 寿命」
「ん? それは我ら氏族のコトだな」
「他のエルフはおおむね300年というところか」
「なな……もしかして、ルシアママの氏族って……」
「【ハイエルフ】っていうんじゃ──」
「ああ、年寄り共はそう呼ぶ者も多いな」
「だがじっさいはこんなモノだ、さしたる違いもないだろう?」
すごく……あるんですけど?
というわけで──
(ぼくのママ、やっぱりエルフえらいひとでした)
(って……ひとじゃなくてエルフだけどね)
◇◆◆◇
「ゲコ──っ!?」
風刃が【ドクオオガエル】をまっぷたつにすると……
そのカラダから大量の返り血が吹き出してきた。
でもそれは──
「とまぁこの様に、風の防壁を纏っておけば、それも簡単に防げる」
「返り血を避ける挙動も必要ではあるが、乱戦を想定するとどうにも無駄が多い」
「う、うん」
ぼくたちは【タフクの塔】に来ています。
それで、修行の成果をルシアママに見てもらおう! ──って、
ぼくは、はりきってたんだけど~
「あっ こんどは【ミラージュモス】! しかも4体も──」
シュバッ
あっけなく風刃で、まとめてバラバラにされるミラージュモス。
そして4体がすべて、その姿を魔石に変えた。
「あいつらは毒粉でこちらを混乱させるからな」
「そもそも近づける事、それ自体が間違いだ」
「う、うん」
こんどもルシアママがぜんぶ倒しちゃった。
というかぼく……
(まだぜんぜん、魔物を倒してないんですけど?)
なんてぼくが、しょぼんとしてたら……
「もう……ルシア! さっきから見ていれば、なんですか!」
「ん? いや私はだな、クリスに効率のいい倒し方の指導を──」
「その指導にしても、貴女にしか出来ない倒し方をして……」
「それが何の指導になるんですか?」
「え? いやだが、クリスは風の精霊魔法が──」
あわててぼくのほうを見るルシアママ、だけど……
「ええと、ぼく【ソニックブレード】しか、使えないよ?」
「な、なん……だと?」
「というか、ぼく……あんまり【筋力】も【攻撃力】もないから……」
「まずは剣の切れ味をよくしないと……って」
「そ、それで……魔法防壁は──」
「あ、うん……魔法防壁がほんとうにいるときは、アイナママにお願いするし?」
「なっ!?」
ショックを受けるルシアママ、
そして【おすまし顔】で何度も頷くアイナママ。
「そもそもクリスは剣士、しかもまだ【レベル10】なのですから……」
「ルシア? 貴女ほど精霊魔法が使いこなせるわけがないでしょう?」
「だ、だが……」
「しかも……なんですか、貴女ばかり魔物を倒して!」
「え? ダメだったのか!?」
「もう……クリスはですね、見て欲しかったんですよ?」
そういって、ぼくを優しい目でみつめるアイナママ。
ルシアママも、その視線を追ってぼくのお顔を見てる。
「貴女に教えてもらった剣で……こんなにも魔物を倒せるようになった」
「それで張り切って、ここへやって来たというのに……」
「ねえ? クリス」
「う……うん(ぽっ♡)」
「んなぁぁっ!?」
なぜだかすごく、ショックを受けてるルシアママ。
「も、もしや……私は──」
「ええ、その手柄を何度も横取りして、晴れ姿を邪魔し……」
「なっ!?」
「しかも【英雄級】の貴女でしか出来ないような倒し方で……」
「ぐぅ!?」
「よくやくレベル10になった弟子に、【ドヤ顔】をキメる大人げない師匠です」
「ぐはぁ!?」
あぁっ ルシアママが【つうこんのいちげき】をくらった!?
「じゃ、じゃあアイナは……」
「ええ、わたしはクリスに助けや指導を求められるまで……」
「手出しはしないようにしていましたが何か?」
「なん……だと?」
え、ええと……アイナママ?
初日に神聖魔法の最上級防壁【アスガルド】、タヌキさん相手に使ってたよね?
とはいえ……
(ああ……ショックの連続で、ルシアママが真っ白に!?)
ぼくは慌ててルシアママに駆け寄って……
「る、ルシアママ? けどぼく……もっと風の精霊さんと、なかよくなりたいんだ」
「だからこれからも……精霊魔法を教えてくれる?」
「く、クリスぅ♡」
ルシアママの目に、生気がもどった。
よかった♪
なんだかすごいエルフだってわかって、驚いちゃったぼくたちだけど……
やっぱりぼくたちがよく知ってる、いつものルシアママだった♪
◇◆◆◇
それからルシアママは、ぼくの戦いに手を出さなくなって──
「いや、だからっ そこはもっと引きつけてからだなぁ」
「それに今の場合は、下からこう……すくい上げる様に──」
その代わり、口をだすようになりました……
だからぼく、ついレイナちゃんのマネをしちゃって──
「ルシアママ、ウザい」
「がーんっ!?」
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