第43話 ルシアママと、ステラママのこと

「むふん♡ クーリースぅ♪」

「やぁん、ルシアママったらぁ~」

「ぬふふ、よいではないか~♪」


 ルシアママが帰ってきてから数日……

 あいからわずルシアママはぼくにべったりです。


「ああ……クリスはほんとうにかわいいなぁ♡」

「か、かわいいっていわないでよぉ?」

「ぼく、男のコなんだからね?」

「あぁっ♡ そんなふくれた顔までかわいとか……あぁっ クリスぅぅ♡」

「やぁん~」


 そうやって、ルシアママに押したおされて……

 ぼくのお顔じゅうにキスされるもの、今日で4回め。

 もちろんルシアママのことは大好きだから、うれしいけど?

 アイナママやレイナちゃんに見られちゃうから、ちょっと恥ずかしい♡


「る、ルシアママぁ お仕事は?」

「2月以上も、城塞の防衛戦をやらされたのだ」

「しばらくは【休暇】というやつを楽しませてくれ♪」

「それは、そうだけどぉ」


 ルシアママのお仕事は、【村の自警団の名誉隊員】ってことになってる。

 けどじっさいは、さっきみたいな、

 【軍じゃどうしようもない魔物や魔族の討伐】に引っぱりだされることが多い。


(それだけで、すっごいおちんぎんをもらってるんだけどね~)


 だからふだんは、村のまわりのパトロールとか、

 定期的な魔物の討伐とかをしてるんだ。


(あ、そっか)

(ルシアママがしばらくいなかったら……)

(レニーさんたちのパーティーが来てたんだよね、きっと)


 レニーさんといえば……

 あの闇ギルドに行ったあと、冒険者ギルドにもおわびに行ったんだけど。


(逆にレニーさんたちから『失礼をした』って、謝られちゃったなぁ)


 レニーさんたちも、闇ギルドの依頼でぼくとアイナママを狙ってる人たちを、

 警戒しててくれたみたいで……

 そんなときに、ルシアママが大あわてで押しかけたから──


(てっきり闇ギルドの襲撃かと思っちゃったんだって)


 それでまぁ? とっさに聖防壁とか張っちゃって?

 それをルシアママに【風刃】で瞬殺されちゃったから……


『あの時のゴーレムから逃げた経験なんて霞むくらい……確実な死を覚悟したよ』

『この街のどの冒険者よりも、私のほうが死に近い場所に居たと、確信しました』

(って、ちいさく震えながら、とおい目でいわれちゃったなぁ……)


 おわび、ってわけじゃないけど……

 ルシアママも、改めてギルドに登録することにしたんだ♪

 というのもルシアママって、ギルドじゃなくて【国軍】に籍があるんだって。

 予備役だけど~


(でもルシアママが冒険者ギルドに入ったのは……)

(ぜったいぼくといっしょに行きたいからだよねぇ?)


 もちろんぼくはルシアママが大好きだから、うれしい♪

 でも……


(大陸最高の【神聖魔法】と【精霊魔法】の使い手がいっしょかぁ)

(なんだかすごすぎない?)

(前世の記憶がないぼくなら、ふつうによろこべたんだけど~)


 今までも、討伐した大型の獣とか、魔物の魔石をよく見せてもらってたから、

 記憶を取りもどす前は……

 『ルシアママは魔物に負けないくらいつよい!』

 そんなイメージだったけど……


(勇者の従者にえらばれて、救国の英雄だったんだもんね)

(そりゃあ国軍の助っ人に呼ばれるくらい、強いはずだよぉ)

(って……ん?)


 そういえば……

 どうしてその3人で、いっしょのおうちに住んでるんだろう?


(あの魔王討伐の旅で、なかよくなったから?)

(って、そんなんじゃなさそう)


 今までのぼくにとっては、アイナママとルシアママがいるのがあたりまえ。

 どうしてかなんて、考えたこともなかった……


(ルシアママ、すっごくゴキゲンだし?)

(聞いたら、教えてくれるかなぁ?)


 そうだよね……勇者のことはともかく、

 いっしょに住んでることくらいは、聞いてもヘンじゃないよね?


「ええと、ルシアママ?」

「なんだ? クリス♡」

「あのね? ルシアママとアイナママ、それからステラママは……」

「とってもなかよしだったの?」

「ん? それはどういう意味だ?」

「だって~ おなじおうちに住んじゃうくらい、仲がよかったんでしょう?」

「ああ、それはそうだが……」

「アイナママも、前は【王都】ってところにいたっていうし?」

「こっちに来ちゃうくらい、なかよしさんなの?」

「あー、それはだなぁ……ふむ」


 そういうと、ルシアママはちょっと目を閉じて、考えてるみたい。

 たぶん『どこまで話すか?』みたいなかんじ?

 そしてそれは、あたりだったみたいで……


「そうだな……そろそろクリスにも話していい頃か」

「いいころ?」

「ああ、クリスも一人前の歳になったし……な♪」

「えへへ♪」

「ちょっと長い話になるぞ?」

「うん、ルシアママのお話……聞かせて♪」

「ははっ クリスはほんとうにかわいいなぁ♡」


 そしてルシアママはぼくを抱っこして…

 少しづつ、昔のことを話してくれたんだ。


 ◇◆◆◇


「あれは……クリスが生まれる1年くらい前の頃の話だ」

「当時、私は王都で軍の指南役の仕事をしていてな」

「しなんやく」

「その時に、とある大規模な魔物討伐のパーティーに誘われたのだ」


 魔王討伐の勇者パーティーですね? わかります。


「そしてそのときの他のメンバーが……アイナとステラだった」

「要は最上級の【神聖魔法】【元素魔法】【精霊魔法】の達人が集められた訳だ」

「すごい!」

「そしてそのリーダーである【とある男】と、私たちは旅に出て……」

「3月後に、その討伐はなんとか達成したのだ」

「おぉぉ」

「だがしかし、そのリーダーは魔族のボスと相打ちになり、死んでしまった」

「あいうち……」

「そしてその男は……アイナの恋人でもあったのだ」

「そ、そうなんだ」

「故に……その祝賀の最中に、アイナは姿を消してしまった」

「えっ!?」

「部屋には『今はひとりにして欲しい』、そんな書き置きがあったそうだ」

「そ、そうなんだ……」


 うぅ、やっぱりアイナママ……

 前世のぼくが死んじゃって、そんなにショックだったんだ。


「もちろんアイナは当時、現職の【聖女】だ」

「本来ならそんなことは許されないのだが……」

「う、うん」

「誰よりも【その男】の死を悲しんでいた、アイナの気持ちを察すれば……」

「誰も責めたりなど、できなかったのだ」

「それがたとえ、王であってもな」

「うん……」


 王さま、そして神殿のえらい人……ありがとう。

 アイナママを許してくれて。


「そして私は、残と──いや、引き続き討伐を依頼されてな」

「今度は国軍の指揮をすることになったのだ」

(魔王軍の残党……だね?)

「私はそれを引き受け……そしてステラは──」

「いっしょに行ったの?」

「いや、『自分の村に帰る』と言い出し、依頼は断ったのだ」


『王都の大騒ぎにはもうウンザリ』

『そこはド田舎、身を隠すには最適』


「そういっていたな」

「そ、そうなんだ」

「まぁ……残党程度なら、私だけでじゅうぶんだろう」

「周囲もさほど引き止めるでもなく、ステラは帰っていったよ」


 ルシアママ……また【残党】っていっちゃってますよ?


「それから半年ほどが過ぎた頃か……」

「私はその任務を終え、王都に単独で帰還する途中──」

「ひとりで帰ってきちゃったの?」

「私ひとりなら、飛んで帰れるしな」

「そうでした」

「ふとした思いつきで、ステラの元を訪れることにしたのだ」

「それが今、私たちがいるこの村でな」

「そうなんだ?」

「そして……その【思いつき】が、私の運命の分かれ道だった」

「わかれみち……」


 ルシアママはしみじみと目を閉じて、そういったんだ。


「もちろん【先触れ】など出せるはずもないからな」

「突然行って脅かしてやろう、そんな気分で私がステラの元に行くとだな……」

「おどろいた?」

「ああ、たいそう驚いたとも、この私がな」

「そうなの?」

「それというのも……ステラの腹が、すっかり大きくなっていたからだ」

「そうなの!?」

「しかも聞けば……種を仕込んだのは例の討伐依頼の前だとかで」

「ななな……」

「つまりあいつは妊娠初期とはいえ、身重でその【依頼】をこなしていたのだ」

「びっくり」


 というか、やめてよステラママ!?

 無事だったからよかったけど!?


「しかもステラは──」

「クリスは……ステラのことを覚えているか?」

「……ううん」


 【クリス】としてのぼくは、ステラママを覚えてない。

 でも前世の【勇者】の頃のぼくなら【従者ステラ】のことはよく覚えてる。


「ああ、それは仕方ない」

「なにぶんクリスはまだ小さかった、それこそ2歳にもなっていなかったからな」

「そうなんだ?」

「そしてステラは……うん、変わり者だった」

「かわりもの」

「【大陸最強の魔女】と言われるほどの、元素魔法の天才でな」

「一緒に戦えば、それは心強い味方だったが……」

「こころづよい」

「なにぶん何を考えているのか、よくわからないやつでなぁ」

「そ、そうなんだ」


 あきれたようにいうルシアママ、だけど……


「まずほとんど喋らない」

「こちらが問いかければ返事はするが……」

「『そう』とか『違う』とか、一言しか話さない」

「下手をすると『……(こくり)』『……(ふるふる)』みたいに首を振るだけ」

「おぅふ」

「しかもいつも同じ表情をしている」

「【すまし顔】というか……」

「たった今、寝て起きたばかりのような、ぼーっとした表情だったな」

「そ、そうなんだ」


 うん、そうなんだ……

 ステラママ、いつもそんな感じだった。


(ときどき、勇者だったぼくをだまって『じー』っと見てたり)

(あれこれ日本のことを聞いてきたり……)

(かと思うとお話のとちゅうで、ふいっといなくなったりして)

(なんというか……気ままな【ネコさん】みたいな人だったなぁ)


 あのころは、まさかぼくのママになる人だとは思わなかったけど?


「そして……ふむ、ちょうど今のクリスと同じくらいか」

「それくらいの背格好の女が妊娠しているものだから……」

「どうにも危なっかしくてなぁ」

「ですよねー」

「しかも、その子の父親らしき者のハナシはいっさい口にしない」

「おぉう」

「まぁ……私もそれを無理に聞き出すほどヤボではないのでな」

「ついには最後まで聞く事がなかったのだ」

「そうなんだ……」


 ぼくのパパ……だれなんだろう?


「しかも、例の【討伐】で、ステラも少々恨みを買ってなぁ」

「うらみ?」

「ときどき、村に襲撃があったそうだ」

「なっ!?」

「それまではあいつが撃退していたそうだが、さすがにあの腹では辛そうでなぁ」

「で、ですよねー」

「そして幸い、私は任務明けで、子育ての経験もある」

「なので私が、護衛と出産の助力を申し出たのだ」

「おぉぉ」


 ルシアママきた! これで勝つる!


「もちろんその後は、私がすべて蹴散らし──」

「ステラもそれで少しは落ち着いたのだろう」

「それからは健やかな日々が続いたよ」


 そういうと、ルシアママはぼくのことを優しい目でみつめながら……


「そしてステラは無事に男子を出産」

「ステラも私も、その新しい命を心から祝福した」

「クリス……お前のことだ」


 あたまをそっとなでてくれた。


「ルシアママ……」

「ステラはな、初めてクリスを抱いた時……泣いていたぞ?」

「あのいつものすまし顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をいくつも零していた」

「とても愛しげにクリスを見つめながら……幸せそうにな」

「す、ステラママぁ」


 それから……ぼくは泣いちゃって……

 そんなぼくを、ルシアママはそっと抱きしめてくれたんだ。

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