第18話 神官のお姉さんは好きですか?

 ぼくの記憶が戻ったことと、この前冒険者ギルドで聞いたことで……

 いままで【よくわからなかったけど、なんとなくそういうもの】

 と思っていたことが、それなりに整理がついてきた。


「そのひとつが……」

「うちの村のうら山の、魔物討伐をしてくれる冒険者、だね」


 こういうのって、じつは【定期的な駆除】がたいせつなんだ。

 というか【何かあったら】じゃ、もう遅い。

 だから冒険者に定期的に来てもらって、こまめに駆除してもらう。

 でも、それにはお金がかかる。

 そのうえ【まだ起きていない事故】だから、なんとなくお金を出しにくい。


「そこで、ギルドの【社会貢献】ってヤツだね」


 冒険者という人たちは、【魔物を討伐する人】だ。

 だから基本的に、魔物と戦えない人たちは、冒険者たちに感謝してる。


「そう、感謝はしてるんだけど~」


 そして冒険者という人たちは、【自己責任】で動いてる。

 なのに危険なお仕事なので、どうしても【癒し】がいる。

 それはお酒やおいしいものだったり、異性だったりといろいろだけど……

 ともかく【ガッと稼いで、パーっと使う】という人がけっこう多い。


「もちろんしっかりはたらいて、コツコツ貯めてる人もいるだろうけど?」


 しかも冒険者の武器・防具・アイテムとかは、とにかくお高い。

 でも、命がかかってるから、少しでもいいモノを買う。

 さらに冒険者は商売がら、ケガもよくするんだけど……

 その治療代がまたお高い。


「そしてうごけなくなると、さらに稼げなくなっちゃう」


 なので防具や回復アイテムには、とにかくお金をかける。

 それはもう……貯めただけ、ぜんぶ使っちゃうくらいに。


「だからだいたい、いつもビンボーなんだよねぇ」


 なのでじっさいこの世界の冒険者は、前世日本でいうところの、

 【ウェイ系】っぽい人が多い。

 しかもあんましお金を持ってない、わりと【育ちが悪そう】な人たち。

 日本のそういうかんじの人たちが、酒場とかで──


『ウェーイwww』


「なんて大さわぎしてたら……」

「そりゃぁ……チンピラあつかいされちゃうよねぇ」


 と、いうわけで……

 冒険者ギルドとしては、冒険者の好感度を少しでも上げたいんだ。

 つまり──


「今日の冒険者さんたち、たぶんギルドの【社会貢献】で依頼を受けてるっぽい」


 そもそもぼくの村は……

 彼らのベースとしてるケストレルの街からけっこう遠い。

 しかも魔物のレベルも低めで、ぜんぜんおいしい【狩り場】じゃないんだ。


「ほんとうにかせいでる冒険者は……」

「ずっとダンジョンにもぐりっぱなしだっていうしなぁ」


 だから……

 定期的に魔物を駆除してほしいけど、あんましお金は出せない辺境の村。

 少しでも冒険者の好感度を上げたい、冒険者ギルド。

 とてもお安いおちんぎんで依頼を受けて、恩を売る。

 まさに【社会貢献】というわけだ。


「このあたりが、おとしどころなんだろうなぁ」


 なんて考えながら、ぼくはいま村長さんのおうちへむかって歩いてる。

 手にさげたカゴには、アイナママが焼いたほかほかの焼きたてパン♡

 しかも! いつものカチカチの黒パンじゃなくて……

 保存とか考えてない、ふわっふわの白パンなんだ♪

 この白パン……何代か前の勇者が広めたっていうけど──


「えへへ♪ あったかいうちに、はやくもっていってあげようっと♪」


 というわけで……

 今回みたいな【定期的な魔物駆除】は、おちんぎんがお安いことが多い。

 だけど冒険者の人たちも、それが【社会貢献】ということはわかってるので、

 ノルマをこなす為に、ガマンしてるところはある。


「だから村の人たちは、せめてもの心づくしとして……」

「お金をもらわないで泊まってもらったり」

「こうやって食べものを持ちよって、ごちそうしてあげるんだ♪」


 そしてぼくのおうちはいつも【アイナママの焼いたパン】なんだ♪

 もちろんそれは、アイナママのパンがとってもおいしいから♡

 それはもう……村でいちばんおいしいんだ♪


「えへへ~ おかげでぼくたちも、白パンが食べられるし♪」

「やっぱり冒険者さんたちには、かんしゃしないとね~」


 そうしてぼくが、村長さんのおうちにたどり着くと……


「あれ? あの人……さっきの神官のお姉さん?」


 村長さんのおうちの外で、神官のお姉さんが座ってるのが見えた。

 おうちの中からは、にぎやかな声が聞こえるのに……

 ひとりでなにをやってるんだろう?


「あのう、どうかしたんですか?」

「おや? さっきのボクじゃないか」

「ボクこそどうしたんだい? こんな夜更けに」

「ええと……ぼくはクリスです。【ボク】じゃないですぅ」

「あはは☆ ゴメンねぇ」


 さっきは……

 剣士のお兄さんに、鬼の形相でアームロックを極めていたお姉さんだけど。

 こうやって笑ってると、とっても優しそうで……きれいな人だった♡

 いまはベールを付けてなくて、後ろで結んだ髪が見えてる。

 しゅっとしたスリムな身体つきで、腰とかすごく細いかんじ。

 ちょっとタレぎみな目がチャームポイントっぽい♡


「あ……これ、ぼくのおうちで焼いたパンです」

「とってもおいしいから、食べてください♪」

「お? これは嬉しいね♪」

「前に来た時に出たパンが、えらく美味しかったけど、ボク──じゃない」

「クリスのおうちで焼いたパン、だったんだねぇ♪」

「えへへ♪」


 お姉さんはカゴを受け取ると、おうちの中に入っていった。

 そしてすぐ出てきて……手には3個のパンがあった。


「あれ? ここで食べるんですか?」

「ああ、あいつら……もうすっかり出来上がっちまっててねぇ」

「やかましいから、あたしだけ外でゆっくりしてたんだよ」

「な、なるほど」


 やっぱり……冒険者は【ウェイ系】なんだなぁ。


「あたしは【レニー】、見ての通りの神官さ」

「で、さっきの剣士は【ユカイ】、あたしの弟なんだ」

「あ、さっきお兄さんに聞きました♪」

「きょうだいで冒険者をやってるんですね」

「ああ、あいつがどうしても『冒険者になる』っていうんで……ね」

「あいつ、見たまんまのバカでさぁ」

「危なっかしくて、放っておけなくてねぇ」

「それでまぁ? なんだかんだと世話してやってるうちに……」

「あたしまで神殿勤めを辞めて、冒険者になっちまったってワケさ」

「おー」


 そういうレニーさんのお顔は、とっても優しげで……

 神官らしい慈愛に満ちたステキな笑みだったんだ♡


「そういうの……とってもステキだと思います」

「そうかい?」

「ユカイさんもきっと、レニーさんにありがとうって」

「いつもそう思ってるって……ぼくも思います!」

「ふふっ だといいんだけどねぇ」


 ぼくがそういうと、レニーさんは照れくさそうに笑う。

 歳上のお姉さんにこういうのは失礼かもだけど……


(レニーさん、かわいい♡)


 ◇◆◆◇


 そしてぼくは……

 レニーさんといっしょに、ぼくのおうちにむかって歩いている。

 それは──


「ええと、ホントにいいんですか?」

「ああ、いいっていいって」

「それにクリスは、ギルドの依頼を受けてみたいんだろう?」

「は、はい!」

「なぁに、これも【縁】ってヤツさ」

「あたしでよかったら、その最初の依頼に付き合ってあげるよ♪」

「ほんとに!?」

「ああ、でもその前に……」

「あー」


 それというのも──

 さっきぼくは、おいしそうにパンを食べるレニーさんに聞いてみたんだ。

 ぼくみたいな【入門者】が、ギルドの依頼を受けるには? って。

 そうしたら……


「それにはまず……」

「あたり前だけど、ギルドのあるケストレルまで行かなきゃねぇ?」

「ですね」

「そしてその前に、クリス?」

「はい」

「アンタの親御さんに、許可を取らなきゃいけない」

「ですよねー」

「で、アンタはそれをまだ許してもらってない」

「はひ……」

「だから、あたしが頼んでやろうってハナシさ♪」

「あ、ありがとうございます!」


 とまぁ……レニーさんは、

 見た目のとおり(?)姉御っぽいお姉さんだった。


(とってもたのもしい♡)


 まぁ? 中途半端とはいえ、中身は勇者なぼくだ。

 たいていの依頼はこなせると思うけど……

 このまえの魔物の時みたいに、やらかさないとも限らないし。


(それに街に行くことじたい、ハードルが高いしなぁ)


 ぼくひとりで街に行くのを、心配性なアイナママが許してくれるはずがない。

 かといって、アイナママといっしょに街に行けるのを待ってたら……


(いつになるかぜんぜんわからないし~!?)

(でも、レニーさんはレベル30オーバーの【上級者】!)


 レニーさんが引率してくれるなら……

 アイナママも許してくれるかも?


「で、どうなんだい? クリス」

「アンタのオヤジさんとオフクロさん、どっちが手強そうなんだい?」

「ええと、ぼくのおうちはパパがいないので……」

「そのぉ、ママがとってもしんぱいするっていうか……」

「ああ、そりゃそうだろうよ」

「女手一つで育てた息子……そりゃぁ大事だろうさ」

「……ですよね」

「でもまぁ? 子供なんてのは、いつかは親元を離れるもんさ」

「そうやって手の離れた所で見守るってのも、親の務めなんだ」

「おぉう……レニーさん、かっこいい!」

「あはは、そうかい♪」

「それにまぁ、あんな美味いパンを焼けるオフクロさんなんだ」

「きっとクリスの事を想って、わかってくれるさ(ニコっ)」

「レニーさん(キュン♡)」


 な、なんという【姉御力】!

 レニーさん、かっこよすぎるぅぅ♡


(ぼくが女のコだったら、スキになっちゃってるかも!?)

(って、ぼくは男のコで、レニーさんは女の人だってば!?)


 ◇◆◆◇


「れ、レニーさん……」

「しししっ 失礼しましたぁぁっっ!?」

「………こほん」


 レニーさんはアイナママの前で、腰を90度に曲げて【ピシっ】と頭を下げてる。

 そうだ……そうだった。

 ちょっと考えればわかることだったんだ……


「まままっ まさかクリス── いえっ クリスさんの御母上様がっ」

「【救国の英雄】にして【慈愛の聖女】!」

「神殿最高位の神聖魔法の使い手!」

「アイナ様であらせられるとは!!」

「たたたっ たいへん失礼おばっ いたしましたぁぁぁっ!?」


 そう……アイナママもレニーさんも、神殿の神官。

 しかもレニーさんはバリバリの体育会系(?)。


(やっぱり、アイナママには勝てなかったよ……)

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