第10話 ぼくだけの、ひみつだもんね♡
「んー、やっぱりさいしょの魔物といえば……」
「【スライム】だよねー♪」
この世界でもスライムは、いわゆる【最弱】の魔物で、
冒険者になりたての【入門者】は、このスライムか角の生えたウサギ、
【ジャッカロープ】の相手をすることが多いんだ。
「でも、さすがに弱いといっても魔物は魔物……」
「ゆだんすると死んじゃう冒険者も、いっぱいいるって聞いたなぁ」
とはいえこんな山の中だし、危険な獣だっていっぱいいる。
このあたりだと、オオカミやクマ、イノシシなんかも出るって聞いてる。
「そういえば日本にいるころ、なにかで読んだっけ」
「どうぐも服もなしで、【本気】で【殺しあい】したら…」
「人が勝てるのは、家ネコがギリギリなんだって」
もちろん鍛えてる人や、なにかしら格闘術を身につけてる人は別だろうけど?
いわゆるフツーの人は、中型犬くらいだともう勝てないらしい。
「うん、勇者スキルのないぼくなら、ネコさんでもあやしいね……」
ちなみに、魔物と獣の違いはナニかというと……
まず魔物には体内に魔石があるけど、獣にはない。
そして獣が【生きるため】【身を守るため】に人族を襲うのに対して、
魔物は明確な【人族への殺意】をもって襲ってくる。
「魔物は人族をおそうコトが、本能にきざまれてる……」
「そうアイナママが教えてくれたっけ」
「って、いけないいけない。まずは魔物をやっつけないとね」
ぼくの持つ【気配遮断】のスキルを使えば、安全に近づけるけど……
ここは実験ということで、わざと足音を立てて近付いてゆくぼく。
すると、明らかにスライムの意識がこちらに向いたのがわかった。
「と、いっても? お顔もナニもないけどねー」
丸っこいなみだ型をしているとはいえ……
さすがにあの間の抜けたような、愛嬌のある顔はついていない。
その見た目はまさに、ゼリー状の大きな水袋、といった感じ。
この個体の色は青く、そしてその体内には1センチくらいの赤い石が見える。
「あれが魔石だけど……いかにも【弱点】ってカンジだよねぇ」
この世界のスライムは、人の顔に張り付いて窒息させたり……
強酸で溶かしたりもしないし、ましてや人体の【穴】に入り込んだりもしない。
基本、体当たりをかましてくるだけ。
そして仕留めた相手を、ゆっくりと溶かして補食する。
「でも、あの大きさなら50キロくらい?」
「それがおもいきり体あたりしてくるなら……」
ぼくなんかはあっけなくふっ飛ばされちゃうし、
大の大人でも、当たりどころが悪ければ骨や内臓をやられちゃう。
「さて……【剣術】のスキルだけで、どこまでやれるかな?」
「えいっ!」
ぼくが剣を構えてスライムに駆け寄ると……
スライムは大きく身を反らして、その反動を使ってこちらに近付いてきた
その動きはまるで、生きたボールが跳ねるようで──
しかも跳ねるごとに反動を増してゆき、どんどん速くなってゆく!
「さぁ こいっ」
わざとギリギリまで引きつけると、
スライムは高く飛んでぼくの頭めがけて突っ込んでくる!?
「──くっ」
一瞬、その核を剣で突いてやろうか? と思ったけど……
いまのぼくに、この重量の魔物の突進を、受けきれる自信がない。
なのでとっさに身をひねって、その体当たりを避け──
ドッ!
「んあぁぁっ!?」
スキルがまだ馴染んでいないのか、避けそこなって肩に体当たりをくらう。
そして──
(もっ ものすごくっ 痛いぃぃぃっ!?)
それでも転ばずに、なんとか耐えたぼくをホメてほしい。
なみだ目でなんとか振り返って、スライムに向かって剣を構える。
(痛いのガマンガマンガマン~~~っ!?)
スライムは、ぼくにぶつかったことで勢いを殺され、
そして地面に落ちて……その場でまた、身を反らした。
「い、いまだっ」
身を低く伏せたまま、がむしゃらに走ってスライムに駆け寄るぼく。
そして身体を横にひねりながら──
思いきり地面を蹴った!
「たぁぁぁっ!」
地面ぎりぎりの高さを水平に飛ぶその姿勢のまま、剣を突き出すぼく。
その切っ先は、的確にスライムの魔石を── 貫いた!
ピキッ!
「やった!」
するとスライムの身体は、ざばりとお水みたいに地面に落ちて……
ぱぁっと光って消えてしまった。
そして剣に貫かれた魔石は……
「あぁっ 割れちゃったぁ!?」
それはもうあっけなく、コナゴナになっちゃった。
「うぅ……転生して、はじめての魔石だったのにぃ」
「……とりあえず、ひろっておこう。ほぼコナだけど」
地面にしゃがみ込んで、ちまちまと魔石を拾うぼく。
戦いには勝ったのに、なぜだかすごく負けた気がした……
◇◆◆◇
「ふう……ではだい1回、クリスくん反省会をおこないまーす」
「わー ぱちぱちぱち♪」
あのスライムを討伐した後も、ぼくは何匹か魔物を狩り続けたんだ♪
その数はスライムが3匹、ジャッカロープが2匹。
まぁ、その討伐する時間は、そのつど速くはなったのだけど……
「まずはスキル、かなぁ」
剣術スキルはそこそこうまく発動してくれた。
けど、【回避】や【痛覚遮断】のスキルは最初、動いてくれなかった。
「でも『ガマン~』って思ってたら……」
「とつぜん痛くなくなったけどね~」
やはりスキルは持ってはいても、
いちど使うなりして、馴染ませないとダメっぽい。
「そのあたりをゆだんして、ぶっつけ本番でやったおかげでこのざまですぅ」
「んー、それに高レベルのスキルのおかげで、身体はかってに動くけど……」
なにせぼくの【筋力】と【攻撃力】がレベル1相当なんだ。
与えるダメージがとにかく少ない。
しかも【防御力】も低いので、攻撃を喰らうとけっこうキツい……
「ただ、HPだけは10万もあるんだよねぇ」
おかげで今日のダメージも、HP総量の0.01パーセント程度。
ほぼ無傷といってもいい?
「コレってひょっとして……どんなにいまの防御力が低くても、ぼく」
「そう簡単には死なないんじゃないの?」
ぼくのステータスさんもいっているとおり、
生命力を数値化したものじゃない。
なので、10万もHPがあるということは……
「ぼく、とっても【打たれ強い】んだ……」
たとえ爆発に巻き込まれようとも、10万のHPを一気に削るのはかなり難しい。
というか、魔王の最大攻撃魔法だって、
一撃で10万のダメージを与えるものなんて、ありはしない。
「あの魔王戦のときにうけた、いちばんキツかった攻撃魔法が……」
「せいぜい5千いくか、いかないか。それでも5パーセントだね」
だからダメージこそ負いはするけれど、【一撃死】するにはほど遠い。
そして剣で首を飛ばそうとしたり、大きな魔物に踏みつぶされたとしても──
「うん、たぶん死なない」
一気に10万を超えるダメージでないかぎり、致命傷にならない。
そして、致命傷にならないということは──
首は落としきれないし、身体も潰しきれない。
「だから……死なない」
「やっぱり勇者って、チートだよねぇ」
「うーん、でもなぁ」
即死しないだけで、問題がない訳じゃないよねぇ
魔王のときみたいに、強い敵とずっと殴りあえば、いつか死んじゃうし?
とくに、いまのレベル1相当の、低いパラメーターがやっかい。
しかもレベルアップも、当分のあいだ期待できないというオマケつき。
「だから【攻撃力】も【防御力】も両方ひくいんだよねぇ」
「うーん、やっぱり魔法かなぁ」
この世界の女性は【防御力】が低く、そのうえ重い防具が装備できない。
だから魔法で防壁を張る事で、魔物を寄せ付けないようにしていたんだ。
ただそれを突破されたら、なすすべがないけれど……
「それはミヤビさまが、すばらしい【加護】のアイテムを広めてくださったし?」
「だから防具なしでも、死んじゃうコトはすごく少なくなったそうだけど……」
「ぼく、男のコだしな~」
そう、そのアイテムは【女性専用】
男のコのぼくには使えないモノっぽい。
「う~ん、まとめると……」
「HPはいっぱいあるから、そうカンタンには死なない」
「スキルもいっぱいある。けどそれは身体になじませないとダメ、うごかない」
「パラメーターはHPのほかは、ぜんぶレベル1。冒険者でいう【入門者】です」
「つまり、いまのぼくは──」
やたらに打たれ強く、やたらに小器用な【非力な少年】── だ。
「な、なんというビミョーっぽさ!?」
「でも、まぁ……」
いまのぼくは……片田舎の村に住む、ごく普通の少年──クリスだ。
もう、魔王を倒さなきゃいけない、召喚勇者じゃない。
もっといえば、魔物すらムリに討伐する必要だってない。
「だから、こんなチカラは……ぼくになくてもいいモノなんだ」
そう考えたら、すとんと頭が楽になった♪
………………でも
「ま、まぁ? なくてもいいけど……あれば便利なモノだし?」
「いざという時には、うまく使えるようにしとかないとね♪」
「そして、ぼくには考える時間も、くふうする時間もたっぷりある!」
それに……どうやらこの勇者のチカラ(の一部)は、
アイナママたちにも話しちゃいけないコトみたい。
だったら──
「んふふ♪ だれにもいえないぼくだけの……ひみつ♡」
そう思うと、とっても楽しい♪
さぁ! どうやってこのチカラ、使いこなしてやろうか?
「じゃ、もうすこし魔物を狩って、たたかいのカンを取り戻さなくちゃ」
「魔物……まだいるかな~♪」
そんなぼくはウキウキと、山の魔物を狩りまくり……
すっかり山に、魔物はいなくなりましたとさ♪
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