第22話 退屈VSフレーデルちゃん


「ひま~っ………ひま、ひま、ひまぁ~っ………」


 お子様の言葉を、十四歳のお子様が放った。赤毛の炎使いフレーデルちゃんは、両手、両足をじたばたさせていた。

 空中で。


「だったら、お勉強でもする?ちょうどここに本があるし」


 扱いに、慣れておいでのレーゲルお姉さんは、本から目を離さなかった。

 ネズリーの部屋は、このまま放置しても問題ないとは思う。しかし、いつネズリーが目を覚まし、そのときに何が起こるのか。誰かが付いているべきとの判断だった。

 あと、この場に残ったのは、元気いっぱいの炎使いの女の子を抑えるためだ。

 銀行強盗が発生したと聞きつけて、飛び出しかけたフレーデルなのだ、目を離したすきに飛び出すことは、経験済みだ。


「もう銀行強盗さんたち、逃げちゃったんでしょ、だったら、追いかけようよぉ~、私なら空飛べるし――」


 空中に浮かんだまま、じたばたと駄々だだをこねるフレーデルちゃん。

 レーゲルお姉さんのように物体を浮遊させることなら、ある程度の力の持ち主なら可能だ。だが、自分自身を浮遊させる力を持っている者は、多くない。持ち上げることの出来る重さ、距離、操れる範囲は魔力量に比例するためだ。

 自らを持ち上げる、それに負担を感じないフレーデルちゃんの魔力は、並みの魔法使いをはるかに上回る。そんな、あふれる才能の持ち主なのだ。


「下水に逃げたって話よ………下水の水をらしながら飛び回りたいなら、どうぞ」


 イジワルなお姉さんだ。

 この時点で、犯人達が出頭したとの情報は、届いていた。お留守番を命じられたフレーデルちゃんは、このうわさは耳にしていない。

 これは、レーゲルお姉さんの、イジワルなのだ。

 まぁ、修行と言うところだろう。魔法の才能は最高でも、精神力がお子様なのだから。


「あんたって、魔法の才能は誰よりあるのに………また、ドラゴンみたいに、飛んで、火をはくだけか——って、言われるわよ?」


 言って、眠こけているネズリーを見る。

 フレーデルちゃんはほほを膨らませて、ネズリーを見る。からかわれていた記憶がよみがえったのか、浮遊するフレーデルちゃんの周囲に炎が渦巻く。怒りの感情を表しているようだが、そのためだけに魔法の炎を生み出すフレーデルの見事さを見よ。

 見事なる、才能の無駄遣むだづかいである。

 自由に空を飛びまわれるほど、強い力の持ち主がどれほどいるだろうか。


「ドラゴンさんだって、魔法使えるもん。人間になって遊んでるって、ご本で読んだもん」


 女の子同士だからか、お子様過ぎるためだからか、言動がとっても幼かった。

 なお、ドラゴンは神とあがめられることもある種族である。万能とは言わないが、強大な力の持ち主なのだ。炎を吐き、空を飛ぶだけではなく、他にさまざまな力を持つという。


「まぁ、本当に人に変身できるのかは、ドラゴンにお尋ねしなさい。そのためにも、ちゃんとお勉強するのよ~」


 本を読みながら、適当にあしらうレーゲルのお姉さん。だが、『ドラゴンにお尋ねしなさい』という、その言葉だけは、実は本当のところなのだ。

 お勉強をすることという、条件は厳しいものの、フレーデルほどの力の持ち主なら、将来の可能性として、ありえるのだ。

 それは、神殿魔法使いの道である。

 ドラゴンとは身近な存在でありながら、とても遠い存在でもある。存在は誰もが知っていても、触れ合える者は、ほとんどいないためだ。

 例外が、神殿だ。

 国家同士の外交使節、大使館のようなものだ。ドラゴンという、国の歴史より長い時間を生きる、時にその興亡こうぼうに関わり、故に神とあがめられることもある種族である。

 そのため、お付き合いいはとっても大切で、古く、長い。

 加えて、か弱き人の身においては、近づくだけで命を落とす恐れもある。無意識に羽ばたく、歩くだけで災害だ。

 魔法と言う力を持つ人々の精鋭が、人とドラゴンの橋渡しに、最適だ。

 その神殿に向かう可能性があるのは、この中ではフレーデルだけなのだ。

 その役目に就くことを生涯の目標にして、いまだに修行に励むご老人がいる世界において、フレーデルのような少女は、羨望せんぼうの的、嫉妬しっとの的なのだ。

 では、仲間としては、どのような感想を抱くのか。


「ほんと、嫉妬しっとしちゃうわ~、あんたの才能の無駄遣い」


 一切の嫉妬しっとを感じさせないお言葉であった。


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