第80話 【邂逅編①】意外な再会
「おっすー」
朝。
教室に入ると何だか騒がしい。
騒がしいというか、何かざわざわしていて落ち着きがない様子だ。よく観察すると男子ばっかり。
「どうしたの?」
一緒に登校していた結が後ろから顔を出して教室の中を見る。その異様というか、いつもとは違う雰囲気に結も気づいたらしい。
「何かあったのかな?」
「さあな」
考えても分からないし、分からないことは分かるやつに聞くに限る。恐らく最初から見ていたであろう栄達の元へと向かう。
結は結で女友達のところへ行ってしまった。あいつにはあいつなりの情報網があるのだろう。
「やあ、幸太郎。今日も相変わらず冴えない顔をしているね」
「お前に言われたくねえよ」
挨拶代わりに毒を吐いてきた栄達に適当に返してから、俺は視線をざわつく男子の集団に向ける。
教室の後ろで固まっていた。
「何かあったのか?」
「んー、よくは知らんけど一組の転校生が関わっているっぽい」
「またその話か。飽きねえな、みんな」
二学期から一組に転校生がきたという話は既に聞いた。一組は白河のクラスで、美少女という噂も本当らしく確かに男子としては気になるのも分かる。
「どんだけ騒いでもどうせ知り合いにすらなれねえのにな」
「目の前にいる美少女に一喜一憂する。それが男という生き物であろう」
「悲しい生き物だな」
自分含めてだけど。
冷めた感じを出してはいるけど気にならないと言えば嘘になる。そりゃここまで噂になっているのだから相当な美少女なのだろう。
一目拝むくらいしてもバチは当たるまい。
「あ」
そんな時、ふと思い出す。
昨日、白河に映画のDVDを借りる約束をしたんだった。
さすがに今からだと時間がないし休憩時間にでも向かってちらっと転校生を拝むとしよう。
「どうかしたん?」
「……いや、なんでも」
ここで転校生を拝みに行くといえばミーハー感が強くなる。白河にDVDを借りに行くと言ってもその裏を察されるに違いない。
なので、言わない。
それが今の最適解だ。
ホームルームが終わると少しだけ時間があるけどさすがにここでは行けない。
一時間目が終わってからにしようと思い、とりあえず授業を受ける。
すっかり忘れていたけど二時間目は体育だった。着替えの時間を考えると見に行くのは厳しい。
同じ理由で二時間目終わりも無理だ。
となると、三時間目が終わってから行くしかない。
そう思ったが、なぜか今日に限って四時間目の化学が移動教室だった。まるで神様が俺の行動を阻んでいるみたいだ。
ここまでお預けをくらうとより一層見に行きたくなるのが人間の性というもの。
結局、この問題は昼休みまで引っ張ることになった。
「今日お昼はどうするん?」
昼休みになった。
化学室から教室に戻っている道中に栄達がそんなことを聞いてくる。
「あー」
考えてなかった。
一組に行きたいから長々は食べれない。そうなると購買でパンを買うのが一番手っ取り早いか。
となるとこのまま購買に行った方が速いな。
「購買行くわ」
「じゃあ先に教室戻っとる」
「おう」
というわけで小走りで購買に向かう。早く行かないと人気のあるパンは軒並み売り切れるのだ。
この時間ならまだ間に合うだろうと思っていたが甘かった。俺が購買に到着した時には既に人で溢れ返っていた。
「……まじか」
この中に入っていくのは不可能に近い。でもこの群れが立ち去った頃には人気のパンは売り切れている。
諦めるか。
そう思った時のこと。
「何してるの?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
明らかに俺に話しかけている距離なのでとりあえず振り返る。
「いや、パンを買いに来たらこの状態でさ」
「確かにこれじゃ無理そうね」
白河明日香も諦めムードを表に出しながら言う。誰が見てもこれはもう無理だと思うだろう。
「白河がこっち来てんの珍しいな」
俺はよく購買や学食を利用しているが白河の姿は見かけない。何なら今回が初めてかもしれないくらい珍しい。
「まあ、たまにはね」
「パン買いに来たのか?」
たまの機会にこの光景は絶句だろうな。この昼飯戦争、一見さんには厳しい戦いとなる。
「いや、学食に向かっていたら寂しそうな背中を見かけたから寄っただけよ」
「ああ、そういう」
「一人で食べるのも味気ないと思っていたし、ちょうどいいわ。付き合いなさい」
「……別にいいけどもうちょっといい誘い方ないのかね」
俺がいなかったらこいつ一人で学食利用するつもりだったのか?
そう思ったけど、白河レベルの人気者となれば誰かしら一緒に食べてくれるか。
せっかくだし、ご一緒させてもらおうかな。もともと会いに行くつもりだったから手間が省けた。
「何がおすすめなの?」
「日替わりランチ」
正確に言うならば気まぐれランチだが。正式名称は日替わりランチということになっている。
当日になるまでメニューが明かされない。その日のトメさん(学食のおばちゃん)の気分で全てが決まるのだ。
「じゃあそれにするわ」
「俺は唐揚げ定食にしよ」
「なんで日替わり頼まないのよ?」
おすすめしたにも関わらず俺が別のものを頼んだのが気に食わなかったのか、白河は俺の方を睨んでくる。
「いや、何となくだけど」
「無責任よ。コータローも日替わりランチにしなさい」
「ええー」
抵抗してみたが、白河の意志は固く、結局俺の本日の昼飯は日替わりランチとなった。
だが。
今日のメニューはチキン南蛮だったので結果オーライとも言えた。学食のメニューには何故かチキン南蛮定食はないからな。
「美味しいわね」
チキン南蛮を口にした白河が小さく感想を漏らす。安い、速い、美味いと三拍子揃っているからな。
そりゃ人気出るよ。
「こんなに美味しいとは思ってなかったわ」
「確かに高校の学食なんて低コストで最低限の味ってイメージあったしな。俺もここ来るまでは思ってた」
「これならまた来てもいいかもしれないわ」
「お気に召してくれたのなら良かったよ」
「コータローはよく来るの?」
「昼飯の用意してこない日が多いからな」
「そうなんだ」
ふーん、と興味なさげな返事をした白河は何かを考えるように黙り込んだ。
時折こっちをちらちらと見ては何か言いたそうにしている。
「誘ったら一緒にご飯食べてくれる?」
「ん?」
白河にしては少し声のボリュームが小さく、急に話し出したこともあって上手く聞き取れなかった。
「だから、私が学食に来るときに、誘ったら付き合ってくれるかって聞いたの!」
やけくそみたいな顔をしながら言われた。白河にしてはこれまた珍しく弱々しい提案だ。
「そりゃ、言ってくれればいつでも付き合うよ」
「そう。じゃあ、また誘うわ」
「ああ」
やはりというか何というか、白河にしては珍しいことだと思った。
夏休みにいろいろとあったことで心を開いてくれたのかもしれない。だとすると、それまで開いてくれてなかったということになるが。
それはそれで悲しい。
なんて話をしながら昼飯を終え、俺は当初の目的であるDVDを借りるべく白河と共に一組へと向かう。
「転校生が見たいって素直に言えばいいのに」
見透かされていた。
「いや、そんなんじゃないよ」
一応否定してみるけど多分無駄だろう。俺ってそんなに分かりやすいかな?
一組に到着し、そのまま中に入る。
白河と一緒とは言え、他クラスというのはやはり入りづらい。何とも言えないアウェイ感に襲われる。
そんなこと言われてないが出て行けという声が聞こえてくるようだ。
「で、転校生はどこ?」
「……もう隠さないのね」
「いや、無駄かなって」
開き直りというやつだ。
白河は自分の席に座り、カバンの中を漁る。
「前の方にいるショートの子よ」
「ショート……」
どれだろう、と探してみる。
すると数人に囲まれたショートカットの女子生徒がいた。
あの子か。
「コータローの美少女図鑑に登録したいだろうから名前教えてあげよっか?」
「そんな図鑑持ち合わせてないけど、一応聞いておく」
今の返事だと何か本当に美少女図鑑作ってるみたいだな。これに関してはまじで持ってない。
「宮乃湊さん」
「宮乃、湊……?」
聞き間違いか、あるいは何らかの偶然か、いずれにしてもそんなことあるもんかという気持ちで、俺は再び彼女に視線を移す。
宮乃湊と呼ばれた女子生徒へ。
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