幕間SS コータロー
自分で言うのも何だけれど、私は異性から好意を寄せられやすいと思う。
端的に言うと、モテる方だ。
けれど、そのほとんどは容姿からくるもので私の本質は誰も見ていない。
人の前で猫を被っているのは確かだ。
そうすることで余計な敵を作らずに済むから。
そもそも私が気を遣わず自由にすれば周りの人はいなくなるに違いない。
でも一人。
私の本当の姿を見ても引かない男の子がいた。
その男と会ったのは一年生の夏頃だっただろうか。
しつこく勧誘してくる先輩に根負けし、私は映像研究部に入った。そこにいたのが、八神幸太郎という男子生徒。
私が彼に抱いた第一印象は『平凡』だ。特別イケメンでもなければ突出した才能を持っているわけでもない。
どこにでもいる、普通の男の子。そんな感じ。
だから私も特別意識することはなかった。ただ普通に話すくらい。
私の本質を見抜いたのはその時の部長だ。
部長は私にこう言った。
『君が誰にでも好かれるような人受けのいい仮面を被るのは自由だ。でも、この場所でくらいは本当の明日香を見せてほしいな』
男の子だったなら、もしかすると惚れていたかもしれない、と思った。
多分、その言葉を待っていたのだ。私の本質に気づいて、それを受け入れてくれる人を。
映研の人達に嫌われたくはなかった。でも先輩達に嘘をつきたくもなかった私は、意を決して自分の本当の姿を曝け出した。
そして、先輩達は受け入れてくれた。
そんな先輩達は今年の春に部活動を引退した。普通は三年生の夏とかなんだろうけど、特に大会とかに出るわけでもない映研の引退時期は卒業シーズンの三月らしい。
そして。
映像研究部は三人になった。
『驚いた』
私が部室に行くと八神幸太郎が目を丸くしてそう言った。
彼はもう一人の部員である小樽栄達とパソコンをいじっていたようだ。
『なんで驚かれなきゃいけないのよ?』
この場所で、仮面を被るのは止めた。去年散々この状態で接してきたのだから今更改めて仮面を被る必要はない。
嫌がられたのなら、私はここを去るだけだ。
『いや、部長に勧誘されて入ったわけだし、もう辞めちゃうのかと思っててさ』
それは私も考えたことだ。
部長が私を必要としてくれたから、私はここにいた。でもその部長がいなくなったのだから、私がここにいる理由はもうない。
ならば、私は部室に来る必要はないのではないか、と。
でも。
『私は、部長が大好きだったこの場所を守りたいと思っただけ。あんた達男だけじゃやっていけないでしょ』
別にそんなことを言いたいわけじゃないのに、ついつい棘のある言い方をしてしまう。
『あんた達が迷惑だって言うなら、もう来ないけど……』
『そんなことはないよ』
私の言葉に、八神はすぐに言葉を返してきた。それに驚いて、今度は私が目を丸くした。
『もうてっきり来てくれないかと思ってたから。白河がいてくれたら百人力だよ。ぶっちゃけ俺達二人じゃどうしようもないなって話しててさ』
そう言って、彼は笑った。
一年生のときは結局全然話すことはなかったけれど、それでも彼は私のことを受け入れてくれるようだ。
そのことが、何だか嬉しかった。
『仕方ないわね。あんた達だけじゃ頼りないからここにいてあげるわ』
そう言いながらも、私の口元には笑みが浮かんでいた。
ありのままの自分を受け入れてくれる人がここにいた。私はここにいてもいいんだと思えたから。
けれど、それを見られるのが何だか恥ずかしくて私はついつい俯いてしまう。
そのまま席について、机の上にあったよく分からない漫画本を手に取り視線を落とす。
全く興味はなかったけれど、とにかく顔を上げたくなかった。
そして、そっけなく、けれど内心ではどきどきしながら一言だけ口にする。
部長の後を継ぐ、新しい部長に向けて。
『先輩達に負けないように、せいぜい頑張りなさいよ。コータロー』
そうして、私達の二年目は始まったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます