第15話 これがツンデレ?
「……はあ」
放課後。
校門の前で俺は人を待っていた。スマホで時間を確認すると集合時間とされていた時間を一〇分ほどオーバーしている。
「お待たせ」
悪びれる様子など一切なく、白河がてこてこと歩いてきた。まるで遅れているどころか時間前に来ましたよみたいな顔で現れるのだ。
「遅刻だぞ。もうちょい申し訳無さそうな登場の仕方しろよ」
なのでツッコむ。
「悪かったわね」
「表情筋が一ミリも動いてねえぞ……」
合流したところで俺はスマホをポケットに直し、歩き始める。白河もそれに続いて隣に並ぶ。
どうしてわざわざ俺が校門で白河を待っていたのかと言うと、それは昼休みの出来事を遡る必要がある。
『じゃ、また部活でな』
連絡先の交換を行い、教室に戻ろうとすると白河は俺の肩をガシッと掴む。
『ちょっと待ちなさい!』
『なに?』
要件は終わっただろうと思ったのになぜ呼び止められたのだろうか、という考えが顔に出ていたのか白河はえらく不服そうな顔をした。
『なんでそんな顔なのよ! 私に呼び止められるなんて光栄なことなのよ?』
『ああ、そっすね。で、何さ? 要件は済んだろ?』
『済んどらんわ。脱線し過ぎて全くといっていいほどに進んでないわよ』
『……はあ』
『何でそんなテンションなの!?』
『で、何だっけ?』
『この前の約束、忘れてるだろうと思って催促しにきてあげたのよ』
『約束?』
『ほら見なさい。案の定忘れていやがる。新歓の時、ケーキを奢るって』
『……あ、ああー』
そう言えばそんなことを言ったような気がしないでもない。さらっと流れた話だからすっかり忘れていた。
『まあ、そういうことなら』
と、いう感じである。
その催促をするためだけに教室の前で待っていたのかと少し呆れることもあったが、言えば確実に怒るので心の中に留めつつ、また忘れる前に終わらせておこうと、急遽放課後に決行となった。
約束というほどでもないが、口にしたのは覚えているだけに守らないわけにもいくまい。
「確か駅前にあったよな。大きめのあれ何だっけ、リア充と意識高い奴が集まるとこ」
「その言い方はどうかと思うけど、駅前にあるのはスタバよ」
「ああ、そうそうそれ。そこでいいよな? ケーキもあるだろ、きっと」
「あそこはダメよ」
何故だ、と俺は驚きの表情を白河に向ける。
まさかケーキがないのか、それとも美味しくないとかか? おいおいもっと頑張れよスタバ。
「あそこは大幕生が多いでしょ。帰りに寄る生徒が大勢いるわ」
「そりゃ駅前だし、寄るにはもってこいの立地だもんな」
「だからダメなのよ」
「混んでるのが嫌なのか」
「……そうじゃない。あんたと二人でいるところなんて、他の人に見られたくないからよ」
「こうして並んで歩いているのはいいのかよ?」
「帰り道は仕方ないわよ。たまたま会ったという可能性があるもの。ただ帰りに二人で喫茶店に寄るのはもうそういうことでしょ」
「そんなことないと思うけど」
友達同士なら普通にやると思うけど。結とは寄り道だってするし。
とはいえ、その辺の線引きというかラインってのは人それぞれだから深くは言わないでおくべきだ。
「まあ、お前がそういうなら仕方ないな。そこまで俺と一緒にいるところを見られたくないなんて、俺の好感度低すぎない?」
さすがにちょっとショックだったりするんだけど。
白河は男子からの人気がとにかく素晴らしい。が、仲のいい男子がいるという話は聞かない。
なので俺はこいつの中ではそこそこ仲のいい男子のカテゴリーに入っていると思っていたのだが。
「別にそういうことじゃないわよ。好感度低い奴と放課後わざわざ寄り道しようとは思わないもの」
「いやでもケーキ食いたいからとか」
「好きでもない人に奢ってもらうくらいなら自分で買って一人で食べるわ」
「そっすか」
「言っておくけど、私男子に好かれはしているけれど、男子を好きになることなんてそうそうないわよ」
俺はちらと隣の白河を横目で見る。
視線はまっすぐ前を向いていて、しっかりとその表情は見えないけれど、何となく優しい雰囲気を感じる。
「まあ好かれているのなら嬉しいことだよ」
「か、勘違いしないでよ? 好きだと言っても別に深い意味はないから! 自惚れないでよね」
ハッとして白河は咄嗟に早口に捲し立てる。顔を赤くして俺の方を睨んでくるが、俺は悪くないだろうと思う。
「分かってるよ」
俺が言うと、白河はふいと顔を背ける。
「……ふ、ふん。分かってるならいいのよ、ちゃんと身の程をわきまえることね」
が、耳は赤い。
通常時の肌が白いだけに赤くなるとすごく目立つ。そんな白河の姿を見て可愛いと思ってしまったが、そうか、これがツンデレってやつか。
「なんか不名誉なことを考えられてる気がするわ」
「気のせいだよ」
ジトーっと半眼を向けてくるものだから、今度は俺が顔を背けた。
「て、じゃあ何で俺といるところを見られたくないんだよ?」
ちょっと和んだ空気のせいで忘れそうになっていた。この答えを聞かないと夜も眠れねえぜ。
「……女の子はせいぜいきゃあきゃあとはしゃぐだけでしょうよ。それくらいなら軽く流せば済むわ」
そう言うときには既にいつもの無表情に戻っている。その感じで声のトーンが割と低めだからガチ感が強い。
「でも男子はどうかしら。もしも二人でカフェで仲良く談笑しているシーンでも目撃されて、私達が付き合ってるとでも勘違いされればその殺意の切っ先はあなたに向くわよ?」
「ああ、そういうこと」
さすがに呼び出されてボコボコにリンチされたりはしないだろうけど、人によっては嫌がらせとかはありそうだもんなあ。
つまりは気を遣ってくれたということか。
「じゃあ他のとこ行くか」
白河なりの優しさを感じ、心の中で喜ぶ俺だった。
仕方ないからケーキのおかわりくらいは許してやろう。
「そうね」
そういうわけで俺達は電車に乗ってその場を離れた。
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