閑話 ミラズール入国審査


「──そういえば、がれいと殿」



 サキガケが思い出したように口を開く。

 ボトリング漁港を出た一行は、左手に潮風感じながら歩いていた。



「はい、なんでしょうか、サキガケさん」


「拙者たち、勝手にミラズールに上陸したでござるが、とくに入国の審査とか、検問とか必要なかったのでござる?」


「……え? な、なぜ、そんなことを……?」


「グランティは……というか、セブンス王国は、そういった審査はとくになかったでござるが、ここ、ミラズールは国境に警備員を配置しているぐらいでござるから、大丈夫なのかなって」



 ガレイトはサキガケから顔を逸らすと、そのまま黙り込んでしまった。



「……え? なに? なんで無視するのでござる?」



 依然、ガレイトは答えない。



「も、もしかして──」



 バッ。

 サキガケが今度は、イルザードの顔を見る。

 イルザードも、サキガケの視線から逃れるように、すばやく頭を回す。



「あー! 不法入国か! これ!」



 サキガケの声が潮風に乗って、あたりにこだまする。



「ちょ、サキガケさん、お静かに……これは、合法的な不法入国なのです」



 ガレイトの発した意味不明な造語に、サキガケはしばらくの間、固まフリーズする。



「──ごめん、どういう意味?」


「仮に、ブリギット殿やサキガケ殿は、入国審査すれば十中八九パス出来るだろうな。……だが、私やガレイトさん、カミール少年なんかはおそらく無理だ」


「いや、かみぃる殿が無理そうなのは、なんとなく理解出来るでござるが……なぜ、おふたりまで?」


「言っただろう。ここでは、色々と面倒事があると」


「えぇ……だからってそんな……いいのでござる?」


「いいのだ」


「うそ……」


「いいんです」



 うんうん。

 ガレイトとイルザードが、無理やり納得させるように何度もうなずいてみせる。



「で、でも──」


「なら、逆に訊こう、サキガケ殿」


「な、なんでござるか……」


「私たちが今から入国審査するとして、あなたは一体どうするつもりだ?」


「そ、それは……」


「ひとりでここからヴィルヘルムへ向かえるのか? 場所はわかるのか? そもそも、入国審査するとして、どこへ行けばいいかわかるのか?」


「……サキガケさん」



 ぽん。

 ブリギットが、サキガケの肩に手を置く。



「しよう? 不法入国。一緒に」


「ぶ、ぶりぎっと殿ぉ……!!」



 サキガケが何度も、力強くうなずいた。

 ほろり……。

 その様子を見ていた、ガレイトは目頭をおさえる。



「……あのブリギットさんが、ここまで成長なされるなんて……」


「連れ出してきて、正解だったかもしれませんね」


「ああ……そうだな……!」



 そんな四人を、少し離れたところからカミールが見ている。



「……なにこれ」



 カミールはここで生まれて初めて〝引く〟という行為を覚えた。

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