第6話
それから4ヶ月半の間、一家はヘーゼンとした様子でいつも通りに暮らした。
例の事件で車を失った太郎は、徒歩で通える本所へ転勤した。
しかし、太郎は車を失ったショックは全くなかった。
それどころか、例の事件のことはきれいに忘れていた。
太郎は、自分が犯したあやまちに向き合わずにゴーマンになった。
ギンゾウ夫婦も『もうすんだことだから…』と言うてゴーマンになった。
ここより、恐ろしい悲劇の第2幕が始まった。
時は、9月3日の朝7時過ぎのことであった。
ギンゾウ夫婦の家の広間に、一家5人がいて朝ごはんを食べていた。
食卓の雰囲気は、ひどくよどんでいた。
この最近、家のキンリンではおめでたいことがつづいた。
『社内恋愛で知り合ったカノジョと結婚します』『もうすぐ赤ちゃんが産まれるよ』『挙式はハワイで挙げました』など…
ギンゾウ夫婦は、そんな話を聞くたびにウンザリした。
きのうは、お向かいの家の息子さんがお嫁さんをもらったと言うのを聞いた。
お向かいの家の息子さんは、麗斗と同じ39歳である。
お向かいの家の奥さまが『40歳になる前にきれいなお嫁さんをもらうことができた…間に合ってよかった。』とイヤミを言うた。
イヤミを言われたギンゾウ夫婦は、麗斗が結婚しないことに腹を立てた。
麗斗はなまけている…
『40歳になったら条件が悪くなるのよ!!』と繰りかえしていよんのに、麗斗はワシらの言うことを聞かない!!
麗斗を子ども部屋おじさんにしたくない…
はよせえよ!!
ギンゾウ夫婦は、怒りが爆発する一歩手前におかれていた。
(ガーン!!)
麗斗は、朝ごはんをたくさん残して席をけとばした。
その後、家を飛び出した。
麗斗が家を出てから1分後に、ともえがあつかましい声でギンゾウに言うた。
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「いつになったら麗斗を怒鳴りつけるのよ!!」
「(めんどくさい声で)またその話か…」
「あなたはくやしいとは思わないのかしら!?お向かいの家の奥さまからボロクソに言われたのよ!!」
「(めんどくさい声で)だから、なにがいいたいんぞぉ~」
「『39歳までに結婚できなかった麗斗がかわいそうだ。』と言うて高飛車嗤い(タカビーわらい)したのよ!!息子さんは『麗斗はなまけていたから嫁さんもらえなかった…残念だなァ~』と言うて、ボロクソに嗤い(わらい)まくったのよ!!」
「(めんどくさい声で)お前なあ、落ち着けよ。」
「(怒鳴る)あんたね!!テテオヤだったら麗斗に怒鳴り声をあげてよ!!」
「なんで麗斗に怒鳴り声をあげるんぞぉ~」
「39歳のうちに嫁をもらえと怒鳴りつけてよ!!お向かいの家に見くだされてくやしいとおもわんのかと怒鳴りつけてよ!!」
「そんなん無理だよぉ~」
「あなた!!」
「なんぞぉ~」
「この前も言うたけど、男性の39歳と40歳は違うのよ!!」
ともえに怒鳴られたギンゾウは、逆ギレを起こした。
「ほやけん、どういう違いがあるんぞ!?」
「違いがあるからいよんよ!!」
「ほんなら理由を言え!!」
「40歳過ぎたら、結婚相手の条件が悪くなるのよ!!」
「だから、条件が悪くなるとはどういうことなのか言え!!」
「ンマー!!なんなのかしら一体もう!!」
「ふざけるな!!」
この時、ギンゾウの向かいに座っていた太郎が突然怒鳴り声をあげた。
そして、ギンゾウのもとへ詰め寄ったあと右足で激しくけとばした。
(ガーン!!)
「ギャーッ!!」
ギンゾウは、太郎から強烈なケリを喰らった。
「オドレクソ野郎!!そういう原因を作ったのは、あんただろ!!うんと昔に、家のリフォームしようと言うたけど、リフォームしなかった…それが原因でオレの婚期がうんと遅れた!!…なんでボロい嫁を紹介した!?」
「太郎~こらえてくれぇ~」
ギンゾウは、必死になって太郎に許し乞いをした。
太郎は、さらに激しい怒りをギンゾウにぶつけた。
「オレは30代前半までに結婚したかった…それなのにあんたらが待て待て待て待て言うた!!なんで待てと言うた!?」
「その時は、お給料がもう少し上がった方がいいと思って止めた…ギャーッ!!」
(ドカッ!!)
太郎にけとばされたギンゾウは、許し乞いをつづけた。
「その時は、まだ年収が少なかったんだよ…嫁さんを床の間に飾ってあげるのであれば、年収がもう少しよくなってから…ああ!!いたいいたい…」
太郎は、ギンゾウの頭を右足で踏みつけながら言うた。
「そのような原因を作ったのはオドレだ!!くみとりトイレがくさい、浴室のタイルがはがれている、キッチンも殺風景…特別警報級の台風で屋根瓦が吹き飛ばされる…南海トラフ(大地震)がきた時にぺっちゃんこになる…こんなボロい家だから、ボロい嫁がきたんや!!」
ギンゾウは、必死になって許し乞いを続けた。
「リフォームする…リフォームする…だけど、人の家からおカネを借りないとできない…ギャーッ!!」
(ドカッ!!)
ギンゾウは、太郎からより強烈なケリを喰らった。
みかねたともえが、叫び声をあげた。
「太郎!!やめなさい!!これ以上おとーさんにひどいことしないで!!」
「ふざけるな!!クソ野郎が人の家からカネ借りると言うたけん、許さない!!」
「なにいうてるのよ!!太郎と麗斗が高校へ進学するとき、おとーさんは人の家に頭を下げておカネを借りたのよ!!やめてー!!」
怒り狂っている太郎は、右足でギンゾウの頭を激しく踏みつけた。
ともえは、なおも叫び声をあげた。
「太郎やめて!!お願いだからやめて!!」
「ほんなら穂香を始末しろ!!」
「なんで穂香ちゃんにひどいことを言うのよ!?」
「あんたらがオレと麗斗をないがしろにしたのがいかんのや!!」
「だから、大学の卒業式までガマンしてよ!!」
ともえの言葉にブチ切れた太郎は、穂香がいる離れへ向かった。
そして…
「いたいいたい…」
「オドレ穂香!!」
パジャマ姿の穂香は、太郎に無理やり離れから引っぱりだされたあと平手打ちで激しく顔をたたかれた。
(バシーン!!)
「いたい!!」
平手打ちを喰らった穂香は、その場に倒れた。
「オドレのテテオヤがオレと麗斗の人生をぶち壊した!!あやまれ!!あやまれ!!あやまれといよんのが聞こえんのか!?」
(ガツーン!!ガツーン!!ガツーン!!)
穂香は、顔が血みどろになるまで太郎からグーで殴りつけられた。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!おかーさーん!!おとーさーん!!」
穂香の泣き叫ぶ声は、家のキンリンに響き渡った。
母屋にいるギンゾウ夫婦と菜水は、太郎がこわいのでその場でおびえまくっていた。
こわい…
太郎がこわい…
麗斗がこわい…
このままでは、家が壊れてしまう…
助けてくれぇ~
その一方で、梶谷家も家庭崩壊の危機にひんした。
原因は、あつこのムチャブリであった。
龍磨は、一般の高校入試で県立高校普通科合格を強要された。
あつみは、アイコーから一流大学合格~一流大学卒業~卒業後は、政治家のオンゾウシをムコに取れと強要された。
あつこがふたりに命令と指示をシツヨウに繰りかえした結果、ふたりの心は大きく壊れた。
龍磨は、寝ぼう・チコク・ハヤビケ・ずる休みでナマケモノになった。
あつこは、そんな龍磨に『そんなことしていたら内申書が悪くなるわよ!!』と言うて怒鳴り散らした。
あつこに怒鳴られた龍磨は『ナイシンショってなに?ぼくには分からない…』と言うてパニックを起こした。
一般入試で出題される問題が理解できない…
むずかしい…
できん…
あつみも、学校でトラブルを起こすようになった。
宿題をしない…
忘れ物をするようになった。
あつみは、あつこから『アイコーへ進学するコが忘れ物を繰り返すなんて恥ずかしいでしょ!!』と怒鳴られた。
あつみの心は、ズタズタに傷ついた。
そしてまた、温彦とあつこの夫婦仲が険悪になった。
温彦は、気に入らんごとがあれば真っ先にあつこに暴力をふるう。
温彦から暴力を受けたあつこは、顔がむらさきいろに腫れる大ケガを負った。
温彦は、職場の勤務態度が悪くなった。
上の人にたてつく、職場の待遇面がどーのこーのと言いまくる、就職のお世話をしてくださった家のご主人の悪口をボロクソに言いまくる…
そんなにイヤなら、やめいや…と言いたい。
温大夫婦は『温彦は疲れているから…』と言うて甘やかしまくった。
それが原因で、梶谷家から良縁が逃げた。
家庭は、崩壊の危機に直面した。
その日の夕方4時過ぎであった。
梶谷の家の広間にて…
広間にあつこがいた。
この時、あつこのギャラクシー(スマホ)のライン電話の着信音が鳴ったので、あつこは電話に出た。
「梶谷でございます。」
電話は、今治の特別支援学校からであった。
この時、龍磨が同じクラスのコたちとの間でものの貸し借りが行われていたことを聞いた。
「分かりました…調べてみます。」
知らせを聞いて怒り狂ったあつこは、子ども部屋へ向かった。
あつこは、龍磨が使用しているクローゼットをあさった。
そしたら…
(ドサドサ…)
この時、CD・DVD・マンガ本などが大量にあふれ出た。
キーッ!!
なんなのよ一体もう!!
怒り狂ったあつこは、家出する準備を始めた。
それから数分後、あつこは貴重品だけ持って家出しようとした。
そこへ、ライン電話の着信音が鳴った。
あつこは、バックの中からギャラクシーを取り出して電話に出た。
「梶谷でございます。」
電話は、あつみが通っている小学校からであった。
この時、あつみが親バレのトラブルを起こしたから家へ連れて帰るようにと学校から言われた。
「すみませんでした…あつみを迎えに行きます…その前に、特別支援学校にいる長男を迎えに行きます…その後におうかがいするので…しばらくの間、あつみを預かってください…」
スマホをバックにしまったあつこは、足早に家から出た。
それから60分後のことであった。
あつこは、特別支援学校にいる龍磨を迎えに行ったあとあつみを迎えに行こうとした。
しかし、あつみを学校に置き去りにして行方不明になった。
その日の夜8時過ぎであった。
温大夫婦の家に、電話がかかった。
温彦が職場の金庫から現金数百万円と小切手とクレジットカード三種(ビザマスターとUFJニコスとジャックス)を奪って、経営者のセガレの愛車・オペルに乗って逃げた…
経営者は、温彦を刑事告訴したので覚悟しておくようにと言うた。
もうダメだ…
梶谷家も終わりだ…
温大夫婦と玲は、しくしく泣くより他はなかった。
日付が変わって、9月4日の深夜1時頃であった。
場所は、吉田の崩口川沿いの河川敷にて…
(ドカーン!!)
河川敷に停めていたマツダデミオが爆発したあと、真っ赤な炎と黒煙をあげて燃え上がった。
車の中には、あつこと龍磨が乗っていた。
2人とも、車中で亡くなった。
(ウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウー、カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン…)
その頃であった。
温大夫婦の家が激しく燃え上がっていた。
現場に5台の消防車が停まっていた。
消防隊員たち30人が消火活動をしていた。
キンリンの住民のみなさまが不安げな様子で消火活動を見守っていた。
家の中には、温大夫婦と玲がいた。
3人とも、死亡した。
火災の原因は、温大のタバコの不始末であった。
小学校に置き去りにされたあつみは、警察署に保護された。
この時、ギンゾウ夫婦が身元引受人をすると警察署に言うた。
明け方6時頃、ギンゾウ夫婦はあつみを連れて帰宅した。
太郎と麗斗には、引き続きガマンしてもらおう…
ギンゾウ夫婦は、そう言うてあつみに愛情を与えようとした。
しかし、それだけではあつみが幸せになれない…
そう思ったギンゾウ夫婦は、穂香にもガマンしてもらおうと決めた。
9月5日の夜8時過ぎであった。
ところ変わって、ギンゾウ夫婦の家の広間にて…
広間に、ギンゾウ夫婦と菜水とあつみとギンゾウの知人の男性がいた。
太郎と麗斗は、まだ帰宅していない。
(ガラガラ…)
そこへ、玄関の戸が開く音がした。
菜水は、玄関へ行った。
穂香が帰宅した。
菜水は、穂香に広間に行くようにうながした。
穂香が広間に上がったあと、話し合いを始めた。
ギンゾウは、ヘラヘラした表情で穂香に『離れを譲ってくれるかなぁ~』と言うた。
突然ギンゾウから離れを譲ってくれと言われた穂香は、どまどい声で言うた。
「離れを譲ってくれって、アタシに出て行けと言うこと…」
ともえは、つらそうな声で穂香に言うた。
「おじさんは、イジワルで言うたのじゃないのよ…事情が変わったから、あつみちゃんに居場所を提供してほしいと言うたのよ。」
ギンゾウは、ヘラヘラした表情で両手を合わせながら穂香に言うた。
「すまん…この通り…」
穂香は、戸惑い声で言うた。
「アタシは、どこへ行けばいいのよ!?」
ともえは、穂香につらそうな声で言うた。
「だから、おじさんの知っている人に来ていただいたのよ…」
「おじさんの知っている人は、アタシをどうするつもりなのよ!?」
「穂香ちゃんの居場所を作るお手伝いをしますと言うているのよ!!」
「信用できないわ!!」
穂香は、ギンゾウの知人に突き放す声で言うたあと、離れへ行った。
あらかじめ荷造りしたサックスバーのスーツケースとキャリーバッグを持って、離れから再び出た。
そして、家出する前にギンゾウ夫婦に対して突き放す声で言うた。
「アタシ、しばらくの間アメリカへ行きます。」
それを聞いたギンゾウ夫婦は、おどろいた。
「アメリカへ行くって…」
「ええ…」
「(つらそうな声で)なんでアメリカへ行くのよ?」
「ワーキングホリデービザを申請して、渡米するのよ!!行かせてよ!!」
穂香が怒った声で言うた。
ともえは、つらそうな声で言うた。
「穂香ちゃんの気持ちはよくわかるけど、やめた方がいいよ。」
「なんでやめなきゃいけないのよ!?よそへ行かせてよ!!」
「わかっているわよぅ~…だけど、今はころな(ウイルス)がおさまっていないので、海外や大都市へ行くことがむずかしいのよ…」
「それじゃ、どこへ行けと言うのよ!?」
「だから、楠(くす・河原津の近辺)へ行ってといよんよ…」
穂香は、ますますいらだちを強めた。
「楠になにがあると言うのよ!?」
ともえは、ものすごくつらそうな声で穂香に言うた。
「だから、おじさんの知人が経営しているクリーニング工場よ…クリーニング工場に従業員さんの寮があるのよ…部屋は個室よ…3食ついているのよ…従業員さんたちはみな優しい人たちばかりよ…いい特典がたくさんあるのよ…」
ともえからクドクド言われた穂香は、端にあった黒電話をギンゾウに投げつけた。
(ガーン!!)
黒電話は、ギンゾウの頭上を直撃した。
「いたーい!!」
(ガシャーン!!)
そして、後ろのガラス戸のガラスが割れた。
穂香は、ギンゾウ夫婦を怒鳴りつけた。
「おとといの仕返しよ!!太郎がアタシをボコボコにしわいた(殴った)原因はあんたたちにあるのよ!!だからしわき返した!!」
ともえは、ひどくおびえまくっていた。
見かねた菜水は、穂香を怒鳴りつけた。
「穂香ちゃん!!おじさんとおばさんにあやまりなさい!!」
「あやまるのはあんたの方よ!!」
(ガーン!!)
穂香は、パンプスでギンゾウの知人の頭を激しくしわいた。
「いたーい…」
菜水は、穂香を怒鳴りつけた。
「穂香ちゃん!!おじさんの知人にあやまりなさい!!」
「イヤ!!拒否する!!」
「そんな気持ちで家を出ていいわけないでしょ!!」
穂香は、居直った声で言うた。
「居場所なんかいらないわよ!!アタシのことをとやかく言うのであれば、あんたのダンナをどうにかしてよね(プン)」
そして、穂香は家出を強行した。
菜水は、家出を強行した穂香を呼びつづけた。
「穂香ちゃん!!戻りなさい!!やみくもに出たら危ないわよ!!バスの時間が終わっているのよ!!出て行くのであれば、明日の朝にしなさい!!…穂香ちゃん!!」
穂香の耳に、菜水の声は届いていなかった。
菜水は、穂香のスマホに電話したが着信音が鳴りっぱなしの状態がつづいた。
その後、穂香との連絡が途絶えた。
その一方で、ギンゾウ夫婦は穂香が家出したが、ヘーゼンとしていた。
バスの運行が終了したから遠方へ行くことはできない…
穂香はすぐに帰ってくると判断したギンゾウ夫婦は、知人に『穂香ちゃんを受け入れてください。』とお願いした。
ギンゾウの知人は、穂香を受け入れると言うた。
穂香のいないところで、クリーニング工場に就職することが決まった。
ギンゾウ夫婦は、穂香の新しい居場所ができたと喜んだ。
個室寮に住み込みで、3食ついて優しい人たちばかりなので、穂香は幸せになれる…
これでめでたしめでたし…
…………
…と言いたいけど、それで終わりとは行かない。
ここより、恐ろしい悲劇の第3の幕が上がった。
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