おれの愛が


おれの愛が溺れ死んでいた

部屋の片隅の水槽の底で

「もう生き返らないの?」

きみは尋ねた

医者の卵であるおれにはどうにもならなかった

しかもおれゆで卵だし

問いに頷いた

「ああ」

きみはマフラーをしゅっと巻いて外出禁止の散歩へと出掛けて行った

さよならは言わない

きっとまた会えるから

最後に交わした言葉は覚えていない

きみはいじめっ子によっていじめられっ子にされ南の方の精神病院へと送られるらしい

優しい人間であるという欠陥

ゆで卵であるおれにはどうにも出来ない

おれは一度だけきみの病室に会いに行った

きみは桃をスリッパで踏ん付けていた

考えては駄目なのだ

意味なんて何処にも無いという認識

きみの目は遥か遠くを見据えおれがおれだということもわかっていない

涙は何処かに起き忘れて来てしまった


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