マイサマーデイ


おれが初めてザリガニを見たのは小学三年生の夏だった

田舎へ遊びに来ていたおれにおじいちゃんが説明した

「これがシーフードなんだよ」

さすがはおじいちゃんだ

この皺皺はなんでも知っていやがる

おれは頷いた

あれから月日は流れた

おれがシーフードに再会したのは成人式を迎えた日の夜だった

シーフードは庭先でハサミを挙げてこちらを威嚇していた

「何しているの?」

おれはシーフードに話し掛けた

「おじいちゃんが危ない、今すぐ田舎へと帰って来て!」

シーフードの球体の目がそう訴えかけているのがわかった

おれは着替えもせず夜行列車に飛び乗った

だがおじいちゃんはぴんぴんしていた

「セックスもしたいぞ!」

そのようなことを抜かしコロコロコミックの背表紙で手淫していた

思うにあれは成人したおれの晴れ姿を見せるためにシーフードが用意してくれた粋な計らいだったのだろう

「お久しぶりですね」

おれはぺこりとお辞儀した

(………なんだこの豚色は?)

そのような目でこちらを眺めているのが実に印象的だった


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