第11話


「うわぁ…」


思わずそんな声が漏れた。


自分でも頬が引き攣ったのがわかった。


現れた三体のゴブリン。


どれも俺よりレベルが低かったが、なんというか、臨場感がすごい。


トカゲのような緑色の皮膚。


ガリガリに痩せて肋骨が浮き出た胴体。


汚らしい生殖器が丸出しになっていて、目はぎょろぎょろと血走っている。


代表的な雑魚モンスターとして様々なゲームや小説に登場するゴブリンだが、リアルでみるとここまで醜いものなのか。


『ギャーギャ=!!』

『ギィギィ!!』

『ギーッ、ギーッ!!』



ゴブリンたちは甲高い鳴き声を挙げながら、俺に向かって少しずつ近づいてくる。


異世界にきて2度目となるモンスターとの邂逅。


レベルの低い雑魚モンスター相手とはいえ、どのようなイレギュラーがあるかはわからない。


俺は慎重に立ち回ることにした。


「近づかれる前に1匹は仕留めたいな」


あまり一対多数という戦いはやりたくない。


俺はゴブリンに接近される前に、遠距離武器である弓を使うことにした。


「食らえ!」


一番右のいっぴき目掛けて矢を放つ。


『ギャッ!?』


<弓術>スキルのおかげだろうか、俺の放った矢はゴブリンの眉間を正確に捉えていた。


『…』


頭蓋を貫かれたゴブリンは、そのまま無言で倒れ伏した。


やがてブラック・ウルフ戦の時と同様、光の粒子となって霧散する。


『ギャー!!』

『ギィギィ!!』


仲間を倒されて激昂したゴブリンたちが2匹同時に突進してくる。


「はっ!!」


俺は一気に踏み込んでミスリルの剣の間合いに入り、真一文字に斬撃を繰り出した。


スパパッ!!


宙を舞うゴブリンたちの頭部。


『『…』』


2匹のゴブリンは断末魔をあげる間も無く絶命した。


やがて死体は光の粒子となって霧散し、後には紫色の魔石が残された。



ノーマル・ゴブリンの魔石×3


純度:15%


「ブラック・ウルフの魔石よりも小さいな…」


俺は残されたノーマル・ゴブリンの魔石を拾って眺める。


サイズはビー玉程度。


この間のブラック・ウルフの魔石はちょうど手のひらサイズだったことを考えると、魔石の大きさというのはモンスターの強さに比例しそうだ。


「換金するか」


俺はゴブリンの魔石を、一つだけ残して、残る二つを換金することにした。



ノーマル・ゴブリンの魔石×2→800円


換金を実行しますか?


YES or NO


「イエスっと…」


換金を実行すると、空中から五百円玉硬貨一枚と、百円玉硬貨が3枚落ちてきた。


「ふむ…考えてみると悪くない換金率だよな」


戦闘は一瞬だったが、しかし手に入れたお金はバイト代1時間ほど。


レベルアップの栄養ドリンクのためにずいぶん散財してしまったが、この調子ならすぐに元が取れそうだ。


俺はさらなるモンスターを探して、探索を続ける。


「きゃああああああ!!!」


「!?」


どこからともなく女性の甲高い悲鳴が聞こえてきたのはそんな時だった。




「今の…!!」


確かに悲鳴が聞こえた。


人間の、女性の悲鳴だったような気がする。

俺は声の聞こえた方向に向かって足を早める。


「あれは…!」


やがて前方に幾つかの人影が見えてきた。


「襲われてる…!」


それはぱっと見、若い女性が数人の暴漢たちに襲われている現場のように見えた。


全体的に黒い服装の、口元を隠した男たちが、一人の女性を地面に組み敷いている。


女性はもがいて逃げようとしているが、数人の男に掴まれてはどうしようもない。


やがて、男の一人の手が女性の胸元へと伸びていった。


完全に『黒』だ。


俺は声をかける。


「ちょっと、あんたら。なにやってるんだ?」



「「「…!!」」」


全員の視線がこちらを向いた。


女性を組み敷いているのは合計四人の男。


そのうちの一人が、俺へと近づいてくる。


「〜〜〜〜」


「はい…?」


俺に向かって何かを捲し立てている。


しかし全く聞いたことのない言語だ。


当たり前か。


ここは異世界なのだから。


俺は<鑑定>スキルで男のステータスを確認する。


名前:ビリー

種族:ヒューマン

職業:盗賊


レベル:12


攻撃:270

体力:120

防御:180

敏捷:270


スキル:なし


「ふむ…ステータスは俺より下か…」


<鑑定>のおかげで、目の前の男が盗賊であることがわかった。


ステータスは俺より下。


目立ったスキルも持っていない。


他の男たちのステータスも確認してみたが、俺より強いやつはいないようである。


いわゆるモブというやつか。


「はは…!!異世界っぽくなってきたじゃねーの」


俺は剣を構えて、盗賊たちと対峙する。


「〜〜〜?」

「〜〜〜!!」

「〜っ!〜っ!」


盗賊たちはしばらく異世界の言語で会話していたが、やがて戦う気になったのか、それぞれ武器を取った。


小ぶりなナイフや、剣を手にしながらジリジリと迫ってくる。


俺VS盗賊たちの戦いが始まろうとしていた。


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