「KAC4」隣人女性に恋をしたのだが男がいるらしい

ホシノユカイ

kac20214 ミステリーorホラー

 カランカラン


 隣の部屋から不気味に聞こえる音。



 カランカラン



 隣には若い女性が住んでいるのは知っている。五年前に俺がここに越してきてドア越しで会ったが、よろしくお願いしますと挨拶した。

 その時の手がとても綺麗で、チラッと見えた白い肌、口元、とても美しかった。


 俺はしばらく恋人はおらず、仕事も三交代で不定休だからまともに誰かと会うことなんてできなかった。


 前の彼女は婚活パーティーで出会ったのだが俺が結婚を先延ばしにしたら離れてしまった。風の噂では結婚しているらしい。くそ。結婚はもう少し落ち着いてからと思っていたのだがダメだった。彼女が家事料理全くできなくて様子を見てたんだ。


 今度こそはガツガツ行くぞ! と思っても出会いがない。出会い系やってる同僚がいるらしいが話聞いてたら絶対それ会えないやつだろって笑っちまったけどやはりそういうのやらないと出会えないのだろうか。


 そんな中、出会ったのが隣人の女性だ。少ししか見ていないのに恋をしてしまったのか。


 薄っぺらい壁だから生活音は聞こえる。トントントン、料理をしているんだな、テレビは見ないようだな、たまに聞こえるクシャミの音が可愛い。


 反対の男の隣人の生活音はストレスでしかなかった。大声で話すし、テレビの音はでかいし、ドアの開閉全てがうるさい。


 しかし反対側の部屋は美しい若い女性だ。気をつけなくては。慎ましく過ごしていた。


 それよりも料理する時の包丁の音、フライパンをカンカン鳴らして調理する音、なんだか懐かしい。母さんが料理していたのを後ろから見ていた子供の頃のことを。


 でも母さんは男と一緒に消えてしまった。まぁその数年後にはその男に殺されたらしい。


 懐かしい、懐かしい……気づくと涙が流れていた。何泣いてんだ。俺を捨てた母さんのことを思い出して泣くだなんてな。元恋人に甘えすぎてわたしはあんたの母親じゃないって怒られたもんだ。


 しかし自炊する女性、家庭的だ。彼女は僕を癒してくれるかな。まだ名前も知らない。気付いたら彼女に恋心を抱いていた。


 ゴツ、ゴツ


 ごっっごっっ


 グツグツグツ


 本格的な音。自炊にしてはすごいな。と。俺もたまに料理するがそこまでしないぞ。


 彼女に聞こえないよう、夜中に彼女のことを思いながら妄想し、果てたこともあった。ああ、彼女と付き合いたい……。抱きしめたい。





 しかしとある夜勤明け。見てしまった。彼女が男と一緒に部屋へ入っていくのを。


 ショックで膝から崩れてしまった。


 やっぱり美しい彼女には男はいたか。ああ、料理の音はきっとあの男の……俺のいないうちにきっと男が来ていてご飯を食べたら一緒に過ごすのだろう。今部屋に戻ったら隣の部屋で二人が愛し合う声が響くのだろう。


 たまに聞こえるのだ、彼女が一人夜中にふけっている時の艶かしい声が。だから……俺は家に戻らずファミレスに行くことにした。どれだけいるのだろうか。


 たまたま入ったファミレス。久しぶりだ。するとそこに見慣れた女性が注文をとりにきた。

「克哉……くん?」

「……里奈? お前結婚したんじゃ」

「だったの。今は離婚した。フリーよ。……で、ご注文は?」

「……何がおすすめなんだよ。てかここは俺ら、よくデートしたとこじゃんかよ」

「そうね、たまたまよ。で、ご注文は?」




 久しぶりの恋人との再会。今度会うことになった。あ、また隣の部屋から音が聞こえる。


 ごつごつ、グツグツグツ……。


 また彼氏のために作っているのだろうか。


 はぁ、相変わらずこのアパートも古びてていろんな匂いがする。下の階の数人はゴミ屋敷状態でドアからゴミが溢れている。こんなアパートに女性一人よく入ったよな。


 鼻歌が聞こえてきた。ああ、幸せな人のために作る料理なんだろ。


 ああ、母さんも料理しているときに鼻歌歌っていた。僕を置いて出て行く前頃だったが。





 あれから半年後、俺は元恋人の里奈と結婚することになった。……そのまま鞘に戻った感じだ。


「克哉、あなたのご両親の墓に手を合わせに行こう。車出すわ」

 と里奈に言われた。墓は一度行ったきり。


 車で向かう途中、俺が前住んでいたアパートが見えた。大通りからも目立つのは際立った個性のある色だからだ。

「そういえばあそこの緑色のアパート……」

「俺が半年前まで住んでたとこ」

「……あんな古いところ住んでたのね」

「安かったしな。ゴミ屋敷で野郎ばかり住んでてさ」

「そう……よっていく?」

 なんでだ? あんな薄汚いところに? 里奈は何も言わずにアパートに向かう。


 久しぶりについたアパート。相変わらず一階はゴミ屋敷。

「嫌だったらこんでもいいぞ」

「……ついてく」

 里奈は俺の手を握る。普段は強気な彼女もこんなときに女みたいな弱さを出すから困るんだ。可愛すぎるだろ。


 でもなんでここに連れてきたんだ? 墓に早く手をあわせて式場の打ち合わせしたいんだが。 


 俺が住んでた頃は慣れていたが離れてるとすごく臭いがひどいものだ。二階に進んでいく。俺がいた部屋の前じゃないか。誰か住んでるのか、でもポストには新聞が押し込められている。扉には借金取りの催促の紙。俺が出ていった後の入居者が半年もしないうちに……まぁたしかにこのアパート全体あれだったしな。俺がここに住んでいたのかと思うと……。


 そういえば……隣人のあの女性は……。彼女の住んでいた部屋の前に立つ。まだ住んでいるのか? いや、入居者募集と書いた紙が……こんなの貼ってあったか? あれ、ドアが開いている……。


 俺はその部屋に入った。何もない、古びた部屋。窓ガラスも割れ、畳には黒い大きなシミ、変な臭い。


「そこの部屋、あなたの母さんが男と住んでいたのよ」

 !!! 母さんが住んでいた? それを知らずここに住んでいた。なんで里奈は知ってるんだ?

 母さんが死んだのは20年前だ。確かに母さんは美しかった。あの女性は母さんでは無い、はずだ……。



「……」

 里奈は俺の方を見ない。


「あなたの母さんは殺されたのでは無い、男を殺した」


 ……えっ。男に殺されたんじゃなくて? 母さんが、殺した?


「当時すごいニュースになっていたけど知らなかったのね。きっと周りの大人たちが教えなかったのね」


 知らない、そんなの知らない。


「当時、あなたのお母さんは精神状態が悪くてね。、事情聴取をした警察の目の前で首を切って死んだ……まぁたしかにここで死んだようね」


 嘘だっ!!! 里奈は俺をじっと見た。


「あの女は人を誘惑するのが上手だったの……」


 ドアを閉じられた。


「わたしのお父さんを誘惑して、家庭をめちゃくちゃにした……」


 俺は思い出した。婚活でやたらと里奈が俺だけにグイグイ来たことを。家族のことも話した。


「わたしのお父さんを誘惑しときながら、喧嘩しただけで殺して処分に困ったあなたのお母さんはこの部屋でお父さんをバラバラにして一部を煮て、それを……」


「やめろぉおおおおおおおお!!!」

「このマザコン男が!!!! わたしが家事できないだけでウジウジ言いやがって。なにかしにつけ母さんはすごかった、母さんは料理が得意だった、だって……隣の女の人もちゃんと料理してるとかなんたら! 私はあんたの母さんじゃないし、全部の女の人が料理得意なわけでも無いし!!! わたしはね、あんたの母さんにうちの家庭壊されたんだよ!!! 母さんも自殺した! ようやく見つけた、あんたを。わたしもあんたを殺して一緒に死ぬ」

 里奈と偶然ファミレスで再会したのは偶然だったのか、それとも?!


 思いっきり首を絞められる。里奈の後ろに誰かいる、里奈に似た女性……? 黒い影……里奈のお母さんか? そんなバカな。苦しくて息ができなくて幻覚を見ているのだろう。


「ここは事故物件で何人も何人も死んでいるの。あの後から住んでいた住人たちが次々と死に、冷やかしで来た人たちも錯乱して自殺した。私たちのこともきっと……」

 里奈の目が狂気の目に変わった。







 ん?……この臭い……。


「お母さん、何を作ってるの?」

「克哉の好きなビーフシチューよ」

「わーい嬉しいな、早く食べたいよ」

「待ってなさい……」

 その時見た、母さんの目から涙が溢れていた。その日を最後に俺の前から姿を消した。



「ただいま、克哉。あなたのためにビーフシチュー……作ったから」

 久しぶりに聞く母さんの声。





 ……おかえり、母さん。

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「KAC4」隣人女性に恋をしたのだが男がいるらしい ホシノユカイ @hacchi3dayo

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