第13話 満目荒涼
「何処へ行こうとしているの雪ちゃん」
「――――っっ⁉」
出来得る限り静かに音も立てずひっそりと靴を履きかける私の背後より、私を捉え
やや何時もよりも固い声音でそう言えば、ずんずんと驚きのままtその場で突っ立ている私を押し退ける様に突き進めば、あっと言う間に玄関の扉の前で門番宜しくと言った具合に私の行く手を阻んでしまう。
「……どいてぇや」
「じゃあ何処に行こうとしたの」
「そ、そんなんかまへんやん。私の勝手や」
「じゃあここからはどかへん」
「何でそないな事を言うん」
「行き先をちゃんと言ってくれたら何時でも、今直ぐにでもどいてあげるわ」
「……言いたくないからそこどいて」
何をどう言葉を掛けても母は扉より一歩も動かないし離れない。
そしてどんなに狂喜を纏っていたにしてもである。
僅かに残る私の理性が母を押し退けてまで外へ出る事を善しとはしない。
玄関先で、まあまあの大きな声でのやり取りである。
きっとご近所さんにも筒抜けだったのかもしれない。
だがそんな些事に気にする事もなく私と母は延々と押し問答続けていた。
母は何があろうとも扉より離れる事はないだろう。
また結構なシリアスな場面なのに何故だろう。
私達の周りにはお姫達がわらわらとやってきてはもふもふの手でたんたんと私の膝を叩く。
そうして可愛いから何でも許されるだろう必殺上目遣いからの小首を傾げて『どないしたん』とこれまた心臓鷲掴み必須の攻撃を繰り出してきた。
普段ならばその二つの必殺技で私の心はほんの少しは癒されるのかもしれないでも今は――――。
あいつらへ何とかして復讐をしたい!!
でも流石に母とお姫達を力づくで……と言う訳にはいかない。
また私に残ったなけなしの理性が必死にそれを押し留め――――。
「……何でっ、何でなんよ!! 何で邪魔ばっかりするんっっ」
頂点にまで高まっていた諸々の感情がここで一気に決壊した。
「た、ただちょっとあいつらを殺しに行くだけやん。病院へ行くまでにホームセンターがあるさかい、そこで包丁を買ってそのまま透析センター迄行けばあいつらを思い存分刺し続けてやるんやっっ」
「――――それで私らは殺人者の家族になるんか」
「そ、そんな事言って……」
「価値のない人間かもしれへん。それでも雪ちゃんが殺したら私らは殺人者の家族になるんやで。それにこの子らはどうするん。この子らだって生きる権利はある。でも殺人者の家族になったらここには住んでいられへんし当然次の引っ越し先を選ぶ自由もないやろう。そうなればこの子らはどうするん。この子らも我が家の大切な子供なんやで」
淡々と話す母の言葉は全て正論だった。
決して間違っている事を話してはいない。
でも決壊し一度溢れ出した感情はもう私の力だけでは制御が出来ない。
だからあいつらへ向ける筈の怒りの刃が目の前にいる母へと向かってしまった。
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