第6話 艱難辛苦からの枯樹生華
病院や院長だけでなくあの日私の承諾もないまま、勝手に私の左手を握りしめつつ語ったであろう謝罪云々の全てを看護部長は電話越しで真っ向から否定をした。
自分はそんな心算で話してはいない――――と。
じゃあ一体どの心算で
そんな中毎日生きる事に苦しみ嘆き、そして何時もその苦しむ先に見出す答えは死を迎え入れる事による魂の救済。
勿論鬱になる前また鬱を患っていようとも私自身が無神論者である事に変わりはない。
正確にはなんちゃって神道なのかもしれない。
まあ信心深くはないのは自分でも認めてはいる。
だが日本古来の考え方で育った環境だった故にそこは自然に、様々なものには神様が宿っている――――的な、何でも感謝の心を忘れないくらいのものなのだ。
そんな私が自らの死を望めば魂の救済を求めてしまう程までに心は荒み病んでいた。
本当は自殺未遂する度に、嬉々として死を選び取りワクワクドキドキしながら自殺の方法を考えて考えているだろう私の心の奥底にはまだ死にたくはない!!……と言う気持ちも存在していた。
だから毎回未遂で終える度に心が楽になれなかった事に対し悔しくもあり、悲しみと何とも表現し難いもやもやっとした感情の捌け口のないまま荒れ狂う怒りにも似た咆哮を上げればである。
まだ生きていると生に対しての喜びも私の心の中で確実に存在していた。
それはまた自殺が図れるかもしれないと言う仄暗い想いなのか。
それとも生き残れてよかったと言う安堵からなのかもしれない。
この時の私はその両方の想いが心の中で同時に存在していた。
K病院へ変わり信頼出来る先生と出会えた事による安堵感からなのか、少しだけ私の心は落ち着いたと思ったのにである。
でも先日の面会の件により急行直下で私の心は堕ちていった。
なのにその数日後に謝罪云々全てを覆され闇の底へと真っ逆さまに堕ちていく私が見つけたのは、少し突起のある小さな岩へと嚙り付く事が出来たかと思えばである。
私は必死に嚙り付き決してこれ以上堕ちまいと握りしめていた岩は脆くも、あれはある意味私への殺意とも取れる絶望と拒絶と言う刃で以ってその岩は木っ端微塵に打ち砕かればである。
更なる深淵の闇の底へと私の心は堕とされてしまった。
最早自力では到底登り切れない所までに堕とされてしまえばである。
あらゆる負の感情に包まれた闇の中で私の心は狂気と狂喜を纏う事になる。
闇落ちした私は誰にも干渉させない様に更に闇に染まり切った心の内の中へと籠っていく。
だがそんな私へ受診の度に奥野先生は少しずつ、それはほんの僅かなのだけれども確実に光の世界へと引き上げようとしてくれた。
私は何時も泣きながら奥野先生へ心に溜まりに溜まったいやいや、私と言う器より溢れんばかりの闇に染まってしまった心の
奥野先生と話す時間は長いようで短い。
それでも診察と言う名のカウンセリングを終えたほんの少しの間だけ、私の心は僅かだけれども軽くなった様な気がする。
その証拠に夫が病院の送迎をしなくなってからと言うもの、確かに心臓への負担は半端ない。
少し歩くだけで息は上がれば胸が痛くなりそれ以上は少し休憩とニトロを舌下しなければ歩けない。
しかし母と二人で気分のいい日は自宅と病院の丁度真ん中辺りにある高〇屋のレストラン街で食事をする事も出来る様になっていた。
勿論昨今推奨されているマスク会食をこの頃私は既に行っていたのである。
当然その意味は全く違う。
私の場合飛沫を避けるよりも他人からの視線と注目が何よりも脅威だったのだ。
まあ普通に考えれば誰もモブの私を見る事もなければ注目する筈がない事はわかっている。
だがこの時は、いやいやかなりの年月の間私はそれを恐怖の対象としていたのである。
そして八年経った今は随分とましにはなったけれどもである。
しかしそれでも完全――――ではない。
次の受診がある二週間の間に病院とのやり取りで私は更なる奈落の底の底まで突き落とされれば、奥野先生のカウンセリングでほんの少しその底より引き上げられていく。
全く底の見えない深淵の闇の中で私はただただどうする事も出来ずに膝を抱えて泣くだけしか出来なかった。
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