第8話  必要とされる事 Ⅱ

「お前らはあかん!! お前らには刺させへん」

「お前らは謝るっちゅう事を知らんのかっっ」

「…………」


 これらの言葉を放ったのはそれぞれ何れも個性のある強面の患者さん達で、少々気難しい所はあるけれどもどの患者さんもきちんと向き合えばわかってくる人達である。

 なのに何故か派遣の二人は事ある毎にそう怒鳴られ若しくは無視をされていた。


 理由と言うか彼女達の穿刺や透析時の看護の様子を常に見張っている訳じゃあない。

 いやいや他人様の事よりもだ。

 先ずは自分の仕事としっかり向き合わなければ、第一余所見をする時間もない訳でまた年末ともなれば色々と多忙を極めるリーダー業務は更に忙しくなっていく。

 だから彼女達の仕事の様子何て見る時間もなければだ。

 興味すらなかったのである。



 そう最初は偶然なのかとも思った。

 しかし気が付けば彼女達を敬遠するだろう患者さん達は毎回同じメンバー。

 そしてこれもまた偶然なのかその患者さん達に私は何故か気に入られている。


 時には私の目の前で彼女達を怒ったかと思えばだ。

 彼女達がバツが悪そうにそそくさとその場より立ち去れば、怒っていた筈の患者さんは一転し普通に挨拶をしてくれる。

 その事に優越感――――とまでは言わないし、またそれを全く抱かないかと言えば私は断じて聖人君子ではない。


 ほぼほぼ毎日理由もわからず事ある毎に見下されたり嘲笑われたりしているのだ。

 ほんの少しくらい……そうほんの少し仄暗い感情を抱いたとしてもそれは仕方のない事だろう。


 そして私は至って何処にでもいる普通の人間。

 ちょっと、いやかなりふくよかな体型をしているけれどもだ。

 また比べる訳ではないが派遣の二人もそれなりにぽっちゃり体型で、しかし何故かと笑いつつもそこはしっかり真顔に言ってのけるその心はきっと鋼よりも強いのだろう。



 だが私はそこまで烏滸がましい性格ではない。

 他人様の美醜何て私にしてみればどうでもいいもの。

 五体満足に産んでくれた母に感謝出来るくらいのものなのである。

 特に美人でもましてや可愛いとまでは言わないし当然言えない。

 良い事もすれば悪い事……は程々に、人間43年も生きていればそれなりなのである。


 でもだからと言って苛めはしないし人を無暗に貶めたりはしない。

 そこだけは断じてブレなかった。

 それが彼女達には気に入らなかったのかも今の私にはわからない。


 でも患者さんから事。


 今までかかわったであろう全ての患者さんから好かれたいだ何て事は言わない。

 ぶっちゃけこのセンターのたった一人でもいい。

 私と言う准看護師を必要だと思ってくれるだけで今日も一日何とか頑張れると言うもの。

 


 出来る事ならば昔の様に共に働く仲間とも仲良くそして楽しく仕事をしたいと心の何処かで願う気持ちを捨てきれずにいた。

 何時も、そしてどの様に忙しくともだ。

 私はその中でどの様に小さな事でも仕事の楽しみを何時も見つけていた。

 実際この仕事を続けていると笑って終える事は少ないのかもしれない。

 忙殺された毎日を送る中で何時でも私は必要とされる人間でいたかった。


 そう必要とされるのであれば、またそれを感じる事が出来ればどの様な苦難にも逃げずに立ち向かってこれた懐かしい日々。

 あの時はこんな風になるなんて気づきもしなかった。


 必要とされる事の大切さ。

 またそれらを己が心で感じる事の出来る幸せを。

 そしてそれらを得られたかった時に人間は、本当に脆くも壊れて去ってしまう生き物なのだと、私はこの後心の底よりしっかりと思い知らされる事となる。

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