第2話  処方薬 Ⅱ

 この話はこれよりひと月後の一月一日へと少し前後する事になる。


 基本透析は日曜日以外は通常運転である。

 従って元旦も日曜日でない場合は平日とは変わらない。

 

 そんな中お正月の透析で処方される薬は基本ないのが普通である。

 何故なら患者さんの何時も飲まなければいけない定期のお薬は既に年末に渡してある。

 それに何時もの処方箋薬局も外来がない故に当然何処もお正月はお休みだ。


 それでも何かとちょっとした薬を希望する患者さんには処方はこちらからFaxで送るけれどもである。

 お薬は向かいにあるドラッグストアへ帰りに自分で取りに行って貰う事となっていた。

 年末年始は透析も他の部署と同じく最低限のスタッフしか出勤はしない。 

 それ故患者さんには年末までにその旨の説明とプリントを配布してあった。

 そう普通に問題は起こらない筈だたのだがしかし、何故か元旦に問題は起こってしまったのである。



 その患者さんは元なのかそれとも現在もなのかはわからない。

 そこは個人のプライバシーであり看護には関係ない。

 まあ普通に反社関係の患者さんである。

 でもちゃんと話し合えば言葉は通じるし、何時もならばちゃんと理解も得られてはいたのである。


 だがこの時だけは違ったのだ。

 何故なら薬を自分で取りに行かなければいけない。

 患者さんは車椅子生活だからそれを無理なのだと言う。

 でも厳密に言えば病院より帰る方法は介護タクシーで、当然運転手さんは2級の介護の資格を持っている。

 そして薬を取りに行くものなのである。


 こちらは何も無理な話はしていない。

 しかしどうしても納得をしてはくれない。

 そこへ看護部長が登場すれば――――である。


「小山さん、


 小山さんと言うのは20代の若い看護助手さんである。

 だが看護助手さんとは言え年末年始は一人でAとBの両方のチームの雑務をこなさなければいけない。

 

 そう彼女は決して暇ではない!!


 また一人の我儘を受け入れればである。

 他の患者さんだっていい気はしない。

 きっと同じ様なケースが発生しまい兼ねないだろう。

 そうならない為にもダメな時は毅然とした態度で礼を尽くし対応しなければいけない。

 だからこそ患者さんへ理解して貰える様忙しい最中に時間を割いて長々と説明してきたと言うのにだ。

 周りを無視した看護部長の鶴の一声で全てがおじゃんになってしまった。


「部長、他の人が同じ様な事を言ってきたら……」


 あんたが毎回薬を取りに行ってくれるのですかと言いたかったがしかし……。


「ああ、他の人はちゃんとご自分で取りに行って貰って」


 おい、一体何なのだっっ。

 相手があちらさん関係だろうと患者さんは皆同じでしょう。

 看護部長が患者さんを選んでどうするよ。

 抑々そもそも患者さんにそんなへ理屈が通用するのかって!!



「ん、これは……?」


 そこで詰め所の円卓の上にあったのは、部長が何気に見つけたものは


「何でこれがここにあるん」

「へ? いや、ここで他の処方箋と一緒にFaxで送っているんですけど……」


 私は全く納得はしてはいないんですけれどね。

 でも藤沢さんが送れって言うんですよ……と、私は当然看護部長も了承しているものだとばかり思っていた。


「何時から?」

「私がリーダーする前からだと思います」

「私こんなん知らんで⁉」


 はあ、そんなん私に言われても知らんがな。

 めっちゃきつい言い方になるかもしれへんけれど、あんたら管理職がきちんと管理しいひんから透析センターは無法地帯になったんとちゃうのん。


 私は心の中で盛大にそう愚痴っていた。

 リアで声に、言葉として発する事の出来ない私はとんだ小心者である。

 そして看護部長は少し考えれば……。


「ああいいわ。しゃあないしこれも一緒に送って……」



 この瞬間この他院の処方箋を受け入れる様にしたのは藤沢さんの独断なのだとわかった。

 だがこう言っては失礼なのかもしれないけれど、一体何処までの業務を看護部長は把握しているものなのだろう。

 元はここの師長だった筈と言うか、何かと透析センターへ来てはいるしスタッフとして仕事もしている。

 でもここへきて管理者として一体何を見ていたのかな。


 そして外部の処方箋を一度送ってしまえばだ。

 次からはな~んて患者さんに通じる筈もなく、そうして看護部長の忖度によってお正月の間のお薬の件に関しては少し気になるところでもあるのだが、生憎とその次の日に私は運悪く鬱を発症してしまった為にその後の事は何も知らない。


 看護部長と藤沢さん、何れにしてもかなりの自分勝手なキャラなのは十分過ぎる程に理解は出来たよね。

 全く、彼女達に振り回される平のスタッフの苦労と言うものをちゃんと理解して欲しい。


 

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