第10話
父にバレたのでノームを隠す必要もなくなり、奴は堂々と私のベッドでいびきを掻きながら寝ている。
「これが大精霊の成れの果てか……。精霊魔法を教えるとか言っておきながら、自分勝手過ぎるでしょう」
ハァとため息が漏れる。
軽くストレッチをして、その辺りに飛び回っている妖精にお早うと挨拶をするとお早うの大合唱が返ってきた。
ノームがあんな感じなので、下級妖精達に精霊魔法について聞いて独学を進めていた。
彼ら曰く、自分の魔力を消費する魔法(通常魔法)と原理は同じとのこと。
ただし、自分で消費するのではなく精霊に譲渡することで威力が増す。
ちゃんとイメージを精霊に伝達しないと不発に終わったり、暴発したりするので注意しよう。
息を吸っているだけでも魔力は微量に放出されるので、それに惹かれて妖精は寄ってくるようだ。
精霊に好かれている人はいるが、声や姿は見えず意思の疎通は出来ないため私という存在は貴重らしい。
「精霊との契約は、意思の疎通が出来ることが最低限のボーダーラインってわけか」
そう考えるとハードルははるかに高くなる。
「そーだよー」
「昔は、人間も僕らのこと見えてたのにねー」
「今の人間きらーい」
口々に好き勝手喋る妖精たちの言葉で、今の人間が精霊から見放された存在ということが分かる。
ベッドの上でストレッチをしながら、精霊たちに問いかけた。
「何で嫌いなの?」
「傲慢だから~」
「すぐ見下すから~」
「良いように利用しようとするから~」
「「「だからきらーい」」」
傲慢で他種族を見下し利用する者が、妖精たちの共通認識で『人間』と定義されたわけか。
そりゃ嫌われて当然だわ。
「……よく根絶やしにされなかったなぁ」
前屈しながら腰をグーッと伸ばしながら、ボソッと呟いた疑問にノームが答えた。
「人も創造神が創った存在だからな。勝手に消せば、世界のバランスが保てなくなる。今は、人間が幅を利かせ他種族を虐げ魔物や魔族を消そうとしている時点で滅亡へのカウントダウンは始まっているがな」
猫の仔のように雌豹ポーズで全身を伸ばし、後ろ足でガリガリと首筋を掻いている姿がシュールだ。
「魔物も魔族もこの世界には必要不可欠な存在ってことなのね」
「そうだ。大昔は、魔族が世界の半分を支配していた。それに対抗するため、他の種族と協力し魔王を退けた。魔王は必要悪であり、世界を纏める裏の存在だ。魔王は数百年に一度現れると人間の間では言われているが、そもそも魔王は死なない。精々封印がやっとだろう。魔王は、一定期間活動したら眠るんだ」
「魔王は必要悪として存在するから絶対に死なないのか」
「そうだ。昔は、この世界の住人だけで立ち向かっていたのだがな。異世界から人を攫い『聖女』として祭り上げる始末。異世界からの召喚で及ぶ悪影響は絶大で後百年程度でこの世界は滅びるだろう。一回の召喚に大量の魔力が消費される」
自分が生きているかもしれない時に、世界滅亡論を唱える大精霊に私は膝から崩れ落ちた。
何のために生まれ変わったのか分からない。
まるでエントロピーの法則のようだ。
「聖女召喚が、この世界に多大な影響を与えているのは分かった。それなら召喚出来ないように神様で止めることは出来ないの?」
「それがなぁ……」
私の言葉に、精霊一同が苦虫を噛み潰したような顔をした。
神様関連で厄介ごとがありそうだと思ったら、ビンゴだった!
「ユーフェリアという人間の女に惚れこんだ次元を司る神が居てな。ユーフェリアの死後も彼女の魂を探し回っておる。今のユーフェリア教会が召喚魔法が使えるのも、そいつの入れ知恵だな」
ノームの衝撃的な事実に、再び膝から崩れ落ちた。
神様が人間一人に懸想して世界崩壊の道筋を用意するとか、馬鹿なの!?
「他の神様は何やっとんのじゃ!」
思わず吠えてしまった。
「何もしてなかったわけじゃないぞ。次元の神は別の世界の地殻深くに隔離されておる」
「……受け入れ先がよく見つかったね」
「ああ、まだ技術も発展してない星だったらしい。隔絶するには丁度良かったのだろう。その星を管理しているのが下級の見習い神だから、ごり押しも利いたのだろう」
神様にも序列があるのか。
その押し付けられた見習い神様は本当に可哀そうだ。
「召喚魔法のやり方を知っているのは、ユーフェリア教会だけとは限らないからね。召喚魔法自体を衰退させるには時間がなさすぎる。アンチ魔法とかないわけ?」
「今のところは無いな」
「じゃあ、こっちから他の世界に行き来することは出来ないの?」
「何故そのような事を聞く」
「私の前世の世界のように、科学が発展しても魔力がほとんど消費されていない世界があると思うの。そこから使ってない魔力(エネルギー)の回収が出来れば、アースフェクトは滅びなくて済むんじゃないのかな? 召喚された本人は聖女認定されるくらい魔力が高いだろうし、そこから貰えば良いじゃん」
聖女一人からは焼け石に水かもしれないが、召喚時に干渉してその世界の魔力を貰えるだけ貰おうぜという下種な考えである。
「成るほど、一考の余地はありそうだ。他の連中にも相談して創造神に報告してみる」
希望の光が見えたと言わんばかりに飛び出していったノームを見送り、私はとんでもない世界に生まれてしまったと激しく後悔していた。
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