第63話 『疑心暗鬼』
大臣に奪われたロイース王国を取り戻すため、王女としての記憶を取り戻したキラは王都カヴェナンターを目指す。
その道中で謎の魔術師に襲われ、大打撃を受けた一行だったが、その後襲撃は無く、再び順調な旅が続いた。
だが怪我の功名か、懸命にキラを守ろうと戦ったオーウェンに対する疑いはほとんど無くなった。
今でも彼を警戒しているのは神経質なユーリと、個人的に妬みを抱いているディックの二人くらいのものだ。
ようやく信頼を得たオーウェンは、それに応えるように王都までの安全な道を案内する。
魔術師の襲撃は想定外として、危険な旅のはずなのに何事もなく順調に進んでいるのは、ひとえにオーウェンのおかげである。
次の街へと到着した一行は、少しばかり滞在期間を長く取り、街の病院に行って本格的な治療をして貰うことにした。
「これは、随分と酷くやられたな」
雁首揃えて病院を訪ねたキラ達を見て、医者も驚きの声を上げる。
「私も含めて、全員の治療をお願いするわ。治療費は先払いするから、優先的に治療して貰えないかしら?」
病院でも金が物を言う時代、ソフィアは相場より多めに銀貨を渡した。
「これだけ貰えれば十分だとも。さあ、奥へ。順番に治療しよう」
重傷者も居る中、ヤンが懸命に治療の術を使ったとは言え、移動しながらの応急処置だけで足りるものではない。
ひとまず病院でちゃんとした治療が受けられることになり、一行はほっと胸を撫で下ろす。
だがあの魔術師を含め、いつ敵が現れるか分からない。
街中であろうと平気で襲ってくる可能性もある。
「この街にも、あまり長く留まっていられないわね……」
「うむ。傷を治したら、すぐに発つべきじゃろう」
楽観視できない状況下、ソフィアとギルバートは傷ついた身体を休めつつ、神経を尖らせていた。
ロイース王国は今、敵である大臣に掌握されており、現在位置はまさに敵中ど真ん中である。
それを安全に進んでいられるのは、土地勘があり軍をよく知るオーウェンの案内あってこそだ。
そのオーウェンは、何か考え込んでいる様子でうつむいていた。
「オーウェンさん、どうかしましたか?」
医者の治療に加えて、教会の術で仲間の傷を治すヤンは、心配になって尋ねる。
「いや、考え事をな。あの魔術師は、どこで殿下のことを知ったのか、と……」
事実、どこから情報が漏れたのか、未だにはっきりとしていない。
敵は明らかにキラを王女と分かった上で始末しに来ており、おまけに現在地まで知っていた。
かつてギャング団に追われた時のように、鷹が上空からポインターとして監視しているのでもなければ、内通者を疑うところだ。
ユーリはまだ新入りのオーウェンを疑っているようだったが、彼も謎の魔術師との戦闘で負傷し、倒れる寸前までキラを守ろうと戦っていた。
「それにこれまでは、敵の大将がキラの存在を知らないことが前提の作戦だった。恐らく今は違う」
エドガーも苦々しい表情を浮かべて言う。
そう、ジョルジオは王家を根絶やしにしたと思い込み、枕を高くして寝ていた。
その油断を突いて王都に乗り込むのが、オーウェンの提案の要だ。
あの魔術師が、王族であるキラが生きており政権奪還のため王都カヴェナンターを目指していることを知っていた以上、大臣の耳にも入っていると見ていいだろう。
「やはり、一筋縄では行かんものじゃな」
そう言って、まだベッドから起きられないギルバートはため息をつく。
キラの生存を知った以上、大臣もあの魔術師の他に様々な刺客を仕向けてくると考えられる。
もし軍隊など動かされた日には、今の手勢ではとても対処し切れない。
一体、誰がキラを売ったのか。
旅の仲間のメンバーではなく、立ち寄った街の人間がキラが王女であると見抜いた可能性も否定できないが、仲間の間には徐々に不信感が広がりつつあった。
(うわぁ、きっついなぁ、このムード。身体はあちこち痛むし、もう最悪……)
レアは病院のベッドに腰掛けながら、押し黙ったままむくれていた。
まるで家族のような温かみのあるパーティだからと、先に危険が待っていると分かった上で安全な学生生活をなげうってでもついてきたと言うのに、互いに不信を抱くようなこの空気は、もはやレアが求めていたかつてのパーティの姿ではない。
(こんなことなら、やっぱ大学に残っとくんだった。ボクって、ほんと馬鹿)
ケープの裂け目から解れた赤い糸を指先で弄びながら、レアは今頃になってキラ達についてきたことを後悔した。
彼女が顔を上げると、同じく頭を抱えていたカルロと目が合う。
彼もまた、安全を捨ててパーティに残った身だが、悔いる気持ちもレアと同じだった。
「……俺達、とんでもない判断ミスをしちまったのかもな」
「同感」
二人揃って、独り言のようにぼそぼそと愚痴をこぼした。
屈託のない明るい笑顔でパーティの結束を強めていた中心人物のキラも、魔術師に負けて以来塞ぎ込んで暗い顔をしており、唯一の癒やしは治療中に喚くディックくらいのものだ。
「いでぇ! いでぇよぉー!!」
彼は塗り薬が染みるからと、毎回大声で騒いでいた。
(あの悲鳴聞いてると、ほんとに何も考えない馬鹿が一人は居るんだって安心するわ……)
いつもならうるさく、鬱陶しいと感じるところだが、今この瞬間だけはレアにとって救いだった。
キラ達が入院して数日、ヤンの懸命なサポートもあり、一行はある程度動けるまでに回復していた。
傷の完治を待たず、7~8割回復したら街を発つ予定で、キラ達は病室の一室に集まって今後について話し合う。
「私は、アルバトロスへ向かうプランBに移るべきだと思うわ」
最初に発言したのはソフィアだった。
元々、王都へ乗り込む作戦が難しい場合は、バックアッププランとしてアルバトロスへ逃げ込むという作戦を考えていた。
彼女の発言は、その当初の予定に則ったものだ。
「俺も賛成だ。敵がキラの存在を知り、あんな化け物まで仕向けてくるとなったら、後は逃げるしかないだろう。戦っても無駄死にするだけだ」
先の戦いで戦力差を眼前に突きつけられたエドガーも、ソフィアの方針に賛同する。
謎の魔術師は一人でこれだけの被害を一行に与えたが、もし大臣がそれに加えて王国軍を動かせば、少人数のキラ達に万に一つの勝ち目も無い。
王家の唯一の生き残りであるキラの安全を第一に考えるなら、無理をせずにカイザーの下に転がり込むのが最善だろう。
これにはルークも同意見だった。
「カイザーさんなら、事情を話せば必ず力になってくれます。キラさん、いいですか?」
ルークに改めて意向を尋ねられたキラはと言うと、さっきからうつむいたまま押し黙っていた。
(カイザーさんに泣きつけば何とかなるだろうけど、それじゃ恩を返すどころか、戦争を生んでしまう……)
まだキラには戦争へのためらいが残っていた。
この時代の王侯貴族は、自分の私利私欲のために頻繁に戦争を起こしていた。
戦乱の世、乱世と呼ばれる所以である。
だがそれによって血を流すのは、欲をかいた当人ではなく、前線で戦う兵士や巻き込まれた民間人だ。
キラもまた、自分の都合で他人に血を流させることを恐れ、嫌い、葛藤していた。
(それもこれも、私に力が無いから。もっと強ければ、力があれば、カイザーさんの下に戦争を持ち込むような真似をしなくても、ロイースを取り返せるのに……!)
唇を噛みしめるキラの表情から心中を察したか、オーウェンは異論を出す。
「戦争を望まぬ殿下の優しさ、どうか分かって頂きたい。殿下のご意向であれば、自分は最後までお供します」
これに乗ったのが、普段オーウェンを毛嫌いしているディックだった。
「そうだぜ、キラちゃん! 何のために俺達が居ると思ってんだ! 悪徳領主の時みてーによ、大臣もババーンとぶっ飛ばしちまおうぜ」
「ワシはまだ結論を決めかねておるが、そんな甘い話ではないぞ」
そう言うギルバートは、キラを庇った際のダメージが甚大で、右腕は添え木を当てて包帯で巻かれ、三角巾で吊るされていた。
魔法による攻撃に闘気術の硬質化は無力なため、骨にまでダメージが通り骨折してしまったのだ。
闘気術のおかげで傷の治りが早いギルバートと言えども、ここまでの重傷はすぐには治らない。
「このまま首都を目指すにしても作戦の練り直しは必要じゃろうし、アルバトロスに逃げ込むにしても敵はそう簡単に逃がしてはくれんじゃろう」
進むも地獄、退くも地獄。
今居る場所が敵陣のど真ん中だということを考えれば、下手に動けるはずもなかった。
「あああ、そっかー……。ここまで来ちゃったからには、逃げるのも難しいんだったぁー!」
逃げる気満々だったレアは、ギルバートの言葉を聞いて頭を抱える。
アルバトロスのトップであるカイザーとキラが顔見知りで、転がり込めば助けて貰えると聞いたレアはその手で行くしか無いと思っていたのだが、大臣がその撤退を妨害してくるという発想は彼女には無かった。
「退くにしても、備えは要るよ」
ここで逃げれば万事解決とは行かず、大臣が軍を駆り出して追跡してくる恐れは十分にある。
撤退戦の厳しさをよく知るメイは、安易にアルバトロスへ逃れる道には慎重だった。
敵にして見れば、ここでキラを取り逃がせば亡命政権を擁立され、厄介なことになるのは目に見えている。
是が非でもこのチャンスに確実に消そうとしてくるだろう。
「やっぱ、逃げてちゃ勝てねーんだよ! こーゆー時こそ、前進あるのみだぜ!」
「はぁ? まだ言ってんの、チャラ男?! 正面からじゃ勝てないって、聞いてないの?!」
撤退に否定的な仲間の中でも過激派のディックと、大変だったとしてもとにかく逃げたいレアとで言い合いが始まる。
「どちらにせよ、動くなら早い方がいい。敵中で立ち止まるのは自殺行為だ」
隠密行動中、同じような状況に遭ったことがあるユーリは、自身の経験則からそう言う。
敵に見つからないことが前提の隠密だが、常に隠れ続けられるわけではない。
失敗し、敵の真っ只中で包囲されることは何度もあった。
そんな時、動かずじっとしていることこそが最大の悪手となる。
敵に向かっていくにせよ、逃げるにせよ、迅速に決断し実行しなければ逆に敵にどんどん時間を与え、その分だけ敵は優位な立場に立つことになる。
ユーリの発言で、仲間達の視線は考え込むキラへと集中した。
「キラさん、悩む気持ちは分かりますが、決めてください。こればかりは、最終決定権はあなたにあります」
酷だと思いながらも、ルークはキラに決断を迫る。
最終的には、要人であり作戦の要でもあるキラの決定が、パーティの方針を動かすこととなる。
「私、は……」
迷いながらも、キラは自分の意思を伝えようと口を開いた。
「私は、カヴェナンターへ向かおうと思います。戦争を止めるためにも」
言いながら、キラは仲間達の顔を一人一人見つめていく。
「また私のわがままで、皆さんに迷惑をかけちゃうと思います。もし、それでも力を貸してくれると言うなら……」
彼女の言葉に、ルークとオーウェンがうなずいた。
「戦争を回避したい気持ちは私も同じです。頼りないかも知れませんが、全力を尽くします」
「元はと言えば、自分の作戦の詰めが甘かったことが原因です。計画を練り直しましょう」
二人に続き、ディックも深く考えず名乗りを上げる。
「俺も行くぜ! このディック様が居りゃあ百人力よぉ!」
このまま方針が決まりそうな勢いに、撤退派のメンバーは危機感を強めていた。
(ヤバいよヤバいよ……! この空気、流れで全員特攻になるやつじゃない?!)
戦々恐々とするレアが横を見てみると、ほぼ同じ高さでソフィアと目線が合った。
「キラの気持ちは尊重してあげたいけれど、そうも言っていられない状況よね」
ソフィアは一呼吸置くと、王都へ乗り込む新たな作戦で盛り上がる四人に割って入る。
「待って。ここは慎重に考えるべきよ」
「何だよ、ソフィアは来ねぇのか?」
ディックは短絡的に物を考えてそう言うが、ソフィアは首を横に振った。
「そうじゃないわ。ただ、プランBへ移行する基準を改めて決めておく必要があると思っただけよ」
当初、敵にキラの生存が発覚した段階でアルバトロスへ逃げ込む、という計画だったはずだ。
今回はキラの一声でその予定はほぼ覆ったも同然で、ならばせめてとソフィアは次に問題が発生した時に、プランBに切り替えるルールを決めておかなくてはと考えていた。
明確な基準を定めておかなければ、今日のようにキラの感情論に流されて、結局ズルズルと王都への道を強行する方へ引っ張られてしまう。
「ワシもそう思う。どのような状況になれば撤退するのか、退路はどうするか、今はっきりと決めておくべきじゃろう」
右腕を骨折して戦闘能力をほぼ失っているギルバートは、かなり慎重になっていた。
「撤退のタイミングは、早い方がいい。遅れると退路を塞がれるからな」
ユーリの意見に、メイも続く。
「キラ、死んだら元も子もない。こういう話はきちんと決めよう」
長い前髪で目が隠れているせいで表情が分かりづらいが、彼女は心配そうな顔を浮かべていた。
そんなメイの顔を見て、キラもつい焦りがちになっていたことを内心反省する。
「そうだね、うん……。私もしっかりしなきゃ」
ルークは地図を取り出し、街道などの地形を交えながら話を進めた。
「まず、進むか戻るかをどの時点で決断するか、地理的な条件で考えてみましょう」
一行はかなりいいペースで南下しており、目指す王都カヴェナンターはあと二週間もあれば到着する。
何事も無ければ、の話になるが。
「王都カヴェナンターと、アルバトロスの首都アディンセルは実は近い。ギリギリまで王都に近付いて、その上で判断しても遅くはないだろう」
オーウェンは両国の首都が近いことに触れた。
ロイースもまた、東へ向けて領土を拡大していった歴史があり、発祥の地である王都は西に偏っていた。
逆にアルバトロスの首都は東の国境にかなり近く、カヴェナンターからアディンセルまで、直線距離でやはり二週間ちょっとといったところだ。
聖剣を起動したショックで記憶を失ったキラが、国境を越えて帝国時代のアルバトロスの首都に行き倒れになってでも辿り着けたのも、この距離のおかげである。
「王都に出来るだけ接近し、突入できそうなら実行し、無理と判断すれば強行軍でアディンセルへ逃げる……。危険はありますが、撤退する場合でも合理的ですね」
どの道、カイザーに助力を請うには首都アディンセルに向かわねばならない。
目立つ街道を通らなければ、両国の国境警備隊の目を掻い潜るような脇道はいくらでもあり、妥協点として悪くないとルークは考える。
「もちろん、それ以前に危険を感じた時は、今度こそアルバトロスへ逃げ込むこと。それでいいかしら、キラ?」
ソフィアの言葉に、納得したようにキラもうなずく。
「計画を決める前に、ひとつ問題が。どこかから、我々の情報が漏れている点だ」
苦々しい表情で、オーウェンはそう言う。
必ずしも、仲間の誰かが敵にキラを売ったとは言い切れないが、確実に情報は漏洩していた。
「殿下、今更になりますが……傭兵など信じてよろしかったのですか? 金を積まれれば寝返る危険のある者達です」
「それは……」
仲間を疑われるのは正直不愉快だったが、キラ自身もエドガーはともかくユーリのことは苦手としており、強く言い返せなかった。
そんな彼女に代わって反論したのは、意外にもディックだった。
「新入りの癖して、俺の仲間にイチャモンつけようってのか?!」
ディックもキラと同じで、ユーリのことは好いていない。
「確かにユーリは辛気臭くて、無愛想で、何考えてるか分かんねぇ野郎だよ! けどな、今まで一度だって、俺達を裏切ったことってあったか?!」
これに賛同したのは、直接の雇い主のソフィアである。
「その通りよ。ギャング団に包囲された時も、彼はキラのために戦ったわ」
商売相手として付き合いも長く、今は雇用契約を結んでいる間柄。
信じたいという希望的観測は、少なからずあった。
「俺も怪しい傭兵の一人だが、金を積まれれば裏切る、というのはただの偏見だ」
同業者のエドガーが更に付け加える。
「こう見えて、傭兵も客商売だ。一度裏切って信用を失えば、二度と仕事を貰えなくなる恐れだってある」
「………………」
話の当人であるユーリは、ずっと黙ったままだった。
「それよりもだ! 一番怪しいのは、新入りのお前じゃねぇのか?!」
好かないとは言え仲間を疑われて激昂したディックは、今度は話を振ったオーウェンに食って掛かる。
「確かに、その疑いはもっともだが……。自分は、王国に忠誠を誓った騎士だ。傭兵とは違う」
感情に任せて怒鳴るディックと、あくまで冷静に受け止めるオーウェン。
客観的に見てどちらが信頼できそうかは、明白だった。
だが、沈黙しつつも冷ややかに二人のやり取りを見つめる小さな影がひとつ。
(忠誠ねぇ……どうだか。ボクの知ってる限り、金で寝返った騎士や貴族は大勢居るわよ)
レアも冒険者という身分の不確かな怪しい人物の一人だが、その職業柄、普段は誇りを誇示する騎士でも金次第で手の平を返す場面を何度も見てきた。
それでも思うばかりで直接相手に言わない辺りが、レアの臆病さを物語る。
「そう言う君も、殿下について来たのは下心があったからではないのか?」
事実上の浪人であるディックに、言い返すオーウェン。
ディック自身も特に理由無く勢いでついてきた男であり、怪しいと言えばそうなる。
「う、うるせぇ! あの頃はキラちゃんが王女だなんて知らなかったんだよ!」
不毛なやり取りが続く最中、キラの一声が言い合いを止めた。
「やめてください! 仲間同士で喧嘩するのは、もう……もうやめにしましょう!」
今にも泣き出しそうな表情で訴えるキラもまた、不信が広がる今の空気に耐えられない人間の一人だった。
彼女にとっては、パーティの仲間は新しい家族も同然。
ただの行き倒れだった自分を助け、ここまで導いてくれた、大切な人々に違いなかった。
「出過ぎた真似をしました。殿下、どうかお許しを」
オーウェンは素直に引き下がり、ディックも一応は矛を収める。
「……まだお前を信じたわけじゃねぇからな!」
「キラの言う通りよ。今、私達が仲間割れを起こしても、敵を利するだけだわ」
ディックとオーウェンの間に割って入るようにして、ソフィアが言う。
「確かに大臣がどこから情報を掴んだか、そこは大きな問題よ。でも、ここで私達が言い合いをして解決するかしら? むしろ今は、敵に備えて団結すべき時よ」
あの謎の魔術師に、大臣に従う王国軍。他にも刺客は居るかも知れない。
規模の計り知れない強敵を前に、仲間内で争っている場合でないことは確かだった。
「キラとソフィアの言う通りじゃ。皆、落ち着け。ワシらが動揺すれば、敵の思うツボにはまるぞ」
ギルバートもまた、昔にちょっとしたことがきっかけで、それまで仲が良かったパーティが空中分解する光景を見た経験があった。
仲間割れで喧嘩別れしたところで、それで得をするのは敵のみ。当人達に利点は何ひとつ無い。
だと言うのに、些細な原因で人間は互いを疑い、争うことをやめられない。
今もまた、年長組二人がたしなめても、口論を一時的に止めるのがやっとだった。
(いかんな……ここに来て、寄せ集めのパーティじゃったことが凶と出たか)
話題には上らなかったが、エドガーも一度キラを裏切ったことがあり、メイとレアも冒険者という身分の不確かな職業、レアの向かいに黙って座るカルロに至ってはお尋ね者だ。
皆、それぞれの事情があって集まってきたメンバーだが、軍隊のように規律や上下関係がしっかりした組織でない寄せ集めである以上、むしろ今まで結束できていたことが奇跡のようなものである。
偶然集まった人間同士がうまい具合に噛み合い、連携し合ううちに互いに信頼関係が出来上がり、それでここまで何とかやってこれた。
だがそんな奇跡も長続きはしないもので、たった一度の魔術師の襲撃を起点として、綻びが生まれ始める。
一番早いのは内通者を割り出すことだったが、言い争いをしたところで絞り込めるはずもなく、そもそも内通者など居るのかどうかすら怪しい。
ソフィアやギルバートといった年長組は、パーティの間に漂う疑念の雰囲気に危機感を覚えつつも、具体的な解決策が見出だせないでいた。
To be continued
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