第一章 悪徳領主編

第8話 『二人』

 キラとルークが帝都を発って一日目。

 二人は談笑しながら街道を進んでいた。

 キラは道中様々なものに興味を示した。

 寄り道をしては目的地への到着が遅れるのだが、今まで王城の一室に閉じ込められて鬱屈していたのだ。

 物資の都合で急ぐ場合を除いて、ある程度彼女の好きにさせてやろうとルークは考えていた。

 よく使われる街道だけあって地面は石畳で舗装されているが、道を少し外れれば野草が生い茂る平野が広がっていた。

 草むらの間に咲く花に注目して少し脇道へ逸れたキラは、そこで地面に何か光る物を発見する。

(何だろう。石?)

 見ると固い石の割れ目から、きれいな翠緑色の石が顔を覗かせている。

 宝石のように透き通ってはいないが、鮮やかな色合いだ。

 キラはかつて、ルークの家で読んだ本を思い出した。

 この石は恐らく、旅人の間で『守り石』と呼ばれて、お守りとして装身具に使われている石だ。

 宝石と違って金銭的価値はほとんどないが、古くから厄除けになると言い伝えられている。

 今回彼女が見つけたのは、その原石だった。

 恐らく、街道を通る行商の馬車などからこぼれ落ちたのだろう。

「キラさん、どうしましたか?」

 しゃがみ込んでじっとしているキラに気付き、ルークが声をかける。

「い、いえ、何でもないです! 行きましょう」

 キラは原石をそっと服のポケットに仕舞うと、小走りでルークの下へ駆けて行った。

(今はナイショにしとこっと)

 日が最も高く昇る昼頃、二人は旅人用に作られたと思われる休憩所に立ち寄った。

 ルークはまだ体力的に余裕があったものの、キラは歩き慣れていないせいか息が上がってきていた。

 食糧や野営道具など荷物の大半はルークが背負っていたが、キラは最初自分も荷物を半分持つと言って聞かなかった。

 荷物を担いで歩き続けることがどれだけ負担か、説明だけでは不足だろうと考えたルークは好きにさせた。

 当然ながら最初はよかったものの、じきにキラはバテてしまい、結局荷物の多くはルークが持つことに決定したのだ。

「歩くだけなのに、結構疲れますね……」

 キラはベンチに自分の分の荷物を下ろし、座り込んだ。

 旅の解放感に、少々はしゃぎ過ぎたこともあるかも知れない。

「街中を歩くのとは、また違いますからね。ペースが辛かったら言ってください、休憩を挟みますので」

 くつろぐキラを余所に、ルークは周囲を警戒していた。

 休憩所に立ち寄る際、妙な気配を感じたような気がしたからだ。

「あ、ここって水も飲めるんですね」

 近くの川から引き込んだ綺麗な水を見つけたキラは水を飲もうと近寄るが、咄嗟に危険を察したルークは彼女に駆け寄り叫んだ。

「伏せてください!」

 キラが何事かと身を屈めると、頭上を何者かの腕がかすめた。

 次の瞬間、いつの間にかキラの背後に迫っていた男を、ルークが体当たりで突き飛ばす。

「ちっ、バレたか。野郎共、かかれぇ!」

 二人は、物陰から突然現れた野盗の集団に囲まれていた。

 無防備なキラに襲いかかったのもその一人だ。

 人相の悪い数人の男達は、ナイフや剣などの武器を各々手にして、二人へとにじり寄る。

「キラさん、私から離れないでください」

 ルークはそう言うと、キラを庇うように前に出て剣を抜く。

 野盗達と対峙しながら、ルークは先程感じた妙な気配は、彼らのものだったのかと考えた。

 旅人が立ち寄る休憩所は、ともすれば彼らの格好の狩り場ともなる。

 野盗達は普段息を潜め、訪れる旅人を見て襲うかどうか判断しているのだ。

 たった二人で、しかも武装しているのは一人だけと見た彼らは、勝てると見て襲いかかってきたのだろう。

「へへっ、無駄な抵抗はやめなって。俺たちも、君みたいな女の子を傷つけたくはねぇんだよ。商品価値が下がっちまうからなぁ」

 どうやら彼らは、ルークのことも女性だと思っているらしい。

 女の二人旅となれば、それはいい獲物と思われるわけである。

(またか……)

 下卑た表情を浮かべるならず者達に呆れ果て、丁寧に訂正する気も失せたルークは、無言のまま剣を構えて一歩踏み出す。

 相手も反撃しようとするが、そもそも動きが遅い。

 ルークは野盗の手元に剣で突きを食らわせ、武器を落とさせた。

 そのままの勢いで接近すると、鋭い膝蹴りを見舞う。

 目の前の一人をまず倒すと、次は隣へ切っ先を向ける。

 肩へ斬り込み、激痛でナイフを落としたところを、今度は剣の柄で頭を殴りつける。

 あっと言う間に二人が倒れたが、あまりの早業に他の盗賊達は圧倒され、反応できないでいた。

 それもそのはず、たかだか数人のチンピラ風情が、つい先日まで統率された帝国兵としのぎを削っていた、反帝国の暗殺者に敵うはずもないのだ。

 思わぬ反撃に唖然としている間にも、ルークはならず者を一人、また一人と倒していく。

 それを見ていた他の野盗達は、顔を見合わせた。

 お互いに『襲う相手を間違えたようだ』と表情で言い合う。

「しょうがねぇ、ここは退くぜ!」

「ならこっちの娘だけでも……」

 逃げる前に、キラを攫って行こうと野盗の一人が彼女へ手を伸ばす。

 キラは思わず頭を庇うように手を突き出し固く目をつぶるが、ルークの放った投げナイフが野盗の腕に突き刺さりそれを阻止した。

「いってぇー!!」

 ルークがキラから少し離れたので大丈夫かと思っていた彼らだったが、ルークには飛び道具の備えもあった。

 野盗は悲鳴を上げてナイフの刺さった腕を引っ込め、すごすごと退散する。

「てめぇらの顔は覚えたからな! 覚えてやがれよ!」

 いかにも三下の捨て台詞を吐き、倒れた仲間を担ぎながら野盗達は逃げていった。

 あくまで戦意を喪失させただけで、一人も殺してはいない。

 革命戦の際、キラの目の前で皇帝を殺害し彼女をパニックに陥らせてしまった失敗が、彼にキラの前での殺害を躊躇させていた。

「大丈夫ですか? 盗賊は退きましたよ」

 ルークが声をかけると、縮こまっていたキラがようやく顔を上げる。

 その恐怖に歪んだ表情を見たルークは、彼女の肩を軽く叩いて安心させてやると、手を引いて引っ張り起こした。

「駄目ですね、私……。ルークさんがいなかったら、どうなっていたか」

 迂闊な自分を恥てか申し訳無さそうな顔をするキラに、ルークは『そんなことはない』と言って聞かせた。

 旅をする以上この先、また賊に出くわすこともあるだろう。

 逐一落ち込んではいられない。

「とんだ休憩になりましたが、先を急ぎましょう」

 キラはそれに頷き、自分の荷物を抱えると再び歩き出した。

 疲れもあってか口数は減り、少し元気がない様子で彼女は街道を歩き続けた。

 一日目の夜、ついに最初の野営を迎える。

 夜の帳は下り、辺りはすっかり暗くなっていた。

 暗闇の中を移動するのは得策ではないため、二人は野営できそうな場所を探すと、そこに腰を落ち着けた。

 枯れ枝を集めて焚き火をこしらえ、毛布に包まりつつ火にあたって夜の寒さをしのぐ。

 まだ暖かい季節ではあったが、日が暮れた後の屋外は意外と気温が下がる。

「この乾パンって、何ていうか、凄く……固いですね」

 焚き火を囲みつつ、二人は夕食にありついていた。

 初めて携帯食に口をつけたキラだが、そのお味は正直に言って、あまり美味しいものではなかったようだ。

「乾燥させてありますからね。水と一緒に噛むと、徐々に戻りますよ」

 携帯食のほとんどは日持ちと携帯性を考え、水分を抜いて乾燥させてあった。

 それだけを食べようとすると難しいので、水や唾液と混ぜてふやかすのが普通だ。

「こっちの、干し肉ってどうなんでしょう」

 キラが次に興味を持ったのは、干し肉だ。

 荷物袋から取り出したそれに、早速齧りつく彼女だったが……。

「……うわ、しょっぱい」

「塩漬けにされてますからね。水をどうぞ」

 思わず顔をしかめたキラは、ルークに渡された水筒から水を一生懸命口に流し込んだ。

 彼女には悪いが、この携帯食にも徐々に慣れていってもらわないといけない。

 普通の食事にありつけるのは、道中にある村の宿に立ち寄った時くらいのもので、後は日持ちする携帯食が旅の最中の主食となるのだ。

「食べ終えましたか? では、明日に備えて眠ってください。明日もまた歩きますからね」

「はい、おやすみなさい」

 キラは言われるがまま、毛布をかぶって横になった。

 ルークは見張りとしてまだ起きているようだ。

 寝ようとするキラだったが、地面が固く中々寝心地がうまく収まらない。

 もぞもぞと動いては寝返りをうつ彼女だったが、やはり街のベッドのようなわけにはいかなかった。

(か、固い……)

 街で暮らしていた頃のベッドと今の地面では雲泥の差、キラは中々寝付けない。

 そんな中、ふと仰向けになったまま目を開けた彼女の瞳に飛び込んできたのは、満天の星空だった。

 夜の街で見上げる空とは違い、星の光を遮る光源が周囲に何もないため、よりくっきりと鮮明に星々ひとつひとつの輝きが際立つ。

(すごく、きれい)

 キラは寝ようとしていたことも忘れ、思わず天に向かって右手を伸ばしていた。

 今なら遥か遠い星の光を手に掴めそうな気がしたからだ。

「眠れませんか?」

 その様子を見たルークが、そっと声をかける。

「えっと、星がきれいだったから、つい……」

 それを聞き、ルークも一時だけ警戒を解いて頭上を見上げた。

 思えば、ゆっくり星空を眺める余裕もずっとなかったことだ。

 しばし星を掴み取ろうと手を伸ばしていたキラだが、その手を引っ込めるとこの機会にとルークに尋ねる。

「ルークさん、ひとつ聞いてもいいでしょうか?」

「何でしょう?」

 仰向けのままぼんやりと星々を眺めつつ、キラはルークと初めて会った日のことを思い出していた。

「どうして、見ず知らずの行き倒れの私を、助けてくれたんですか? その後だって、さらわれた私を助けるために、危険な目に遭ったり……」

 やましい理由でないことは、これまでのルークの行動からよく知っていた。

 なら善意から助けたとして、人の命が軽いこの乱世で全ての行き倒れ全員を助けて回る、そんな慈善事業をやっているわけでもない。

 何故、自分だったのか。

 ルークはしばし答えを思索し、一呼吸置いてから答えた。

「……家族に、似ていたからだと思います」

「ルークさんの、家族に?」

 どちらも歳は20歳一歩手前といったところで、キラは記憶喪失のせいで正確な年齢が分からないものの、ルークよりやや年下くらいに思われていた。

 とすれば、ルークの実家には妹が居るのだろうかと彼女は勝手に想像する。

「その家族の人って、今はどこに居るんですか?」

 キラはずっと気になっていたことを聞いてみた。

 ルークはあまり自分のことを話したがらないため、彼の家族構成などはキラもよく知らなかったからだ。

「それは……」

 家族のことについて聞かれた途端、ルークは言い淀んでそのまま押し黙ってしまった。

(やっぱり、聞いたらまずかったのかな……?)

 彼女には想像もつかなかったが、実家とあまり仲が良くないという場合もありえる。

 触れられたくない部分を迂闊に話題に出してしまったと思ったキラは、当たり障りのない話に切り替えることにした。

「あの、ルークさんは寝ないんですか?」

「夜は危険な時間帯です。私が周囲を見張ります」

 夜間は、狼などの野生動物の動きも活発化する。

 寝込みを襲われてはひとたまりもないため、誰か一人を見張りにつけるのが定石だ。

 それにルークは、昼間の野盗達のことも気にかかっていた。

 変に逆恨みして、後を追ってきていなければいいのだが。

「それだと、ルークさんはいつ眠るんですか?」

「明け方になったら交代して、私も眠ります。だからそれまでは、キラさんが寝てください」

 出発までの間の短時間の仮眠ではあるが、最初の村へ到着するまでの数日の間だ。

 何とか体力は持つと、ルークは判断していた。

 それよりも旅慣れていないキラを多く休ませて、明日の分の体力を回復させておかないと、立ち往生してしまう。

 それで納得したのか、彼女はまた眠ろうとしてごろごろと寝返りをうち始めた。

 焚き火にくべられた枝がパチパチと音を立てる中、いつしかキラは毛布に包まり眠りに落ちていた。

 少し変な体勢だったので、明日寝違えているかも知れない。

 ルークはそんな彼女を見守りながら、自分でも知らないうちに微笑みを浮かべていた。

(帝国に攫われた時は、どうなるかと思ったが……)

 あの時は自分も必死だったと、ルークは当時を思い返す。

 そこからカイザーと出会って手を組み、革命戦のどさくさに紛れてキラを救い出すことに成功した。

 今でこそ、こうして二人で記憶を追い掛け旅に出ていられるが、途中でどれかひとつでも歯車が狂えば、この未来はなかっただろう。

 キラとの時間そのものが、奇跡の産物と言えた。

(また、こんな風に過ごせる日が来るとは)

 キラの寝顔を眺めながら感慨にふけっていた彼だが、彼女を守るためにも見張りを怠れないと気合を入れ直し、周囲の警戒に務めた。

 幸い、その夜は何事も無くやがて夜が明けた。

 ルークが明け方に少し仮眠を取った後、携帯食で朝食を済ませ、二人は朝焼けの中を歩き始める。

 一晩ぐっすりと寝たキラは初日の元気を取り戻し、意気揚々と道を進んでいた。

「昨夜は、よく眠れたようですね?」

 ルークも短時間の仮眠の間に、体力を取り戻していた。

 暗殺計画の準備や、カイザーと手を組んでからは与えられた任務などでろくに眠れない時もあったが、その都度何とかやりくりしてきた。

 慣れて身体が順応し、短時間でも十分休めるようになっていたのだ。

「はい。それで、夢を見たんです。お城の夢!何と、私がお姫様なんですよ」

 キラは夢で見た光景を語り、ルークは穏やかにそれを聞いていた。

 恐らく帝国の王城に監禁されていたため、宮殿の光景が強く脳裏に焼き付いていたのだろう。

 だが仮にも囚われの身であったというのに、それを夢の中でお姫様に書き換えてしまうとは何とも楽観的だと、ルークは内心おかしく思った。


 それからは初日のように野盗に襲われることもなく、無事に旅は進んだ。

 そして出発してから3日目、最初の村へと二人は到着する。

 旅人だと言うと村人は快く受け入れ、宿を紹介してくれた。

「女の子の二人旅なんて大変ねぇ。今日はゆっくりしてお行き」

「はあ、どうも……」

 村の入り口近くの畑を耕していた女性もまた勘違いしていたが、ルークも面倒臭くなり訂正せず、そのまま宿へと足を向ける。

 片田舎の小さな村の安宿だが、旅の最中に身体を休めるにはもってこいの施設だ。

「素朴でいい村ですね」

 帝国の中枢であった帝都アディンセルと違い、小さな農村で村人は畑を耕しながらゆったりとした日々を送っていた。

 都会のような華やかさはないものの、村にしかない穏やかな魅力がある。

 キラはそれがいたく気に入った様子だった。

「夕食まで時間があるみたいですし、少し村を見て回りません?」

 宿で部屋を借り、そこに荷物を置いて一息ついたキラはそう提案した。

 村の中は村人の目もあるし、安全だろうと判断したルークはそれに同意する。

「そうですね、景色を見てみましょうか」

 二人は宿を出て夕日の沈む中、村の景色を堪能して回った。

 都会と違い、すぐ横に山があるような土地だ。

 夕焼けに染まった眺めは中々に美しく、キラはそれを目を輝かせて見つめていた。

 宿に戻った二人は、台所を借りて夕食の調理に入る。

 安宿だけあって、食材と調理場は提供してくれるが、料理そのものは出ないのだ。

「あ、小麦粉もありますね」

 食材を確認していたキラは、目ざとく小麦粉の袋を発見する。

「今夜はスパゲッティにしましょう、スパゲッティ!」

 首都での生活で、ルークに教わった料理のひとつである。

 キラはパスタを気に入り、材料がある時はよく作っていた。

 主食はキラに任せることにして、ルークは手際よくスープの調理に取り掛かる。

 かつて共同生活していた頃は、家の台所でよくこうして二人で食事を作ったものだった。

 そうこうしているうちに夜になり、キラとルークは数日ぶりに携帯食でないまともな料理に舌鼓を打つ。

 旅の中では、調理は自分でやったとしても、こうして普通食がゆっくり食べられるのはご馳走だ。

 乾パンとは違う柔らかいパンに温かいスープ、そして茹でたてのパスタ。

 街では当然のように食べていたが、その”当たり前”の食事があるだけで、人はこうも幸せな気分になれるのかとキラ自身が驚いていた。

 食事に夢中になるキラだったが、それでも下品にがっつくような真似はせず、あくまでも上品に料理を平らげていく。

 帝都に居た頃からずっとそうだ。

 変わらないものだと、彼女の食事を見ていたルークは思った。

 野菜の出汁が効いたスープに、パスタのソースは薄めの味付けがキラのお気に入りだった。

 今日は食材の関係で、トマトソースパスタとなっている。

 さらわれて以降、長い軟禁生活を経て、革命の激動をルークと共に駆け抜けて生き延びた。

 そして慣れない旅に戸惑いながら、ここに来てようやくアディンセルで二人暮らしをしていた頃に戻ったようだと、キラは安心感を覚えたのだった。

 食事を済ませると既に夜の帳が下りており、宿の部屋に入ると二人用にベッドがそれぞれ置かれていた。

 翌日の出発に備えて早く寝ようとするルークだが、キラはベッドに腰掛けたまま蝋燭の灯りを頼りに何かを弄っていた。

「どうかしましたか?」

「何でもないんです。もう少ししたら、寝ますから」

 ルークは疑問に思いつつも、また次の村まで数日夜の見張りをせねばならないため、体力をつけるためにも横になった。

 戦士の心得として、休む時はしっかり休むよう身体で覚えている。

 ルークはすぐに眠りに落ちた。

(うーん……どうだろ、それなりにきれいになったかな?)

 キラがルークに隠れて弄っていたのは、初日に道端で拾った守り石の原石だった。

 中の緑色の石だけを取り出そうと、暇を見つけては磨いている。

 完成するまで、ルークには内緒だ。

(大分出来てきたかな。けど、これだけじゃちょっと。紐でも通して、首飾りにするとか?)

 手に入れた石について色々思案しながら、キラはベッドに身を横たえる。

 すると地面とは比べ物にならない、快適な柔らかさが身体を包んだ。

 満腹感も相まってあまりの心地よさに、毛布を被るとキラはあっという間に寝付いてしまった。

 翌日、ぐっすりと寝て旅の疲れを落とした二人は、村の雑貨屋で旅の物資を補給した。

 主に食糧と水で、こればかりは日数と共に減るので、定期的に補充しておかなくてはならない。

 一通り必要な物を確認し、ルークは会計を済ませた。

 革命戦の報酬として結構な額をカイザーから受け取っていたため、路銀にはまだ余裕がある。

「あの……頑丈な紐ってないですか?」

 店を出る前に、キラは店員にそっと耳打ちする。

「紐ねぇ……。ロープじゃなくて?こんな物しかないけれど」

 店員が持ってきたのは、手頃な細い紐だった。

 飾り気の無い質素な物だが、首飾りの材料に丁度いいと判断したキラは、すぐにそれを買うことに決めた。

「お代はいいよ。ただの紐だし」

 旅の中で一種の万能具であるロープを欲しがる旅人は多かったが、わざわざ紐を求める人間は珍しい。

 売り物ですらないただの端材だったため、店員は代金は要求しなかった。

「ありがとうございます」

 キラは笑顔で頭を下げると、物資を荷物袋に詰め終えたルークの下へと駆けて行った。

 必要な補給を済ませ、二人は村を発った。まだフォレス共和国への道のりは長い。

 今後も何度か村を経由して、北を目指すことになる。


 その次の日、ジョイスも難所になるだろうと言っていた森に差し掛かった。

 迂回すると険しい山道を何日も歩くことになるため、最終的には森を通過するのが一番負担が少ないと結論付けられた。

 だが森は薄暗く、狼などの野生動物の棲家でもある。

 一応道はあるものの、舗装されておらず不整地で足を取られやすい。

 いつもの街道よりも一際注意が必要だと、ルークも分かっていた。

「森を抜けるまで、私から離れないでください」

 街道ではある程度好きにさせていたが、森の中はそうはいかない。

 好奇心にかられて少し道を外れたが最後、もう見失ってはぐれてしまうこともある。

 キラも緊張した面持ちで頷いた。

 森の中は、思った以上に見通しが悪かった。

 霧が出ており、視界の悪さに拍車をかける。

 ところどころで石や木の根が飛び出しており、キラは何度も足を取られた。

 ジョイスの話だと森は長く続いており、言われた通り歩いているうちに日暮れが近くなってきた。

 急いで抜けないと、夜の森を彷徨い歩くことになるだろう。

 ルークは歩調を早めて先を急ぎつつ、キラが離れてしまわないように注意を払った。

 夕暮れ時の森の中で迷えば、明日生きて出られる保証はない。

 二人が森に入ってしばらく経った時、ルークは気配を感じて周囲を見渡した。

 薄暗さと霧のせいで人影は見つけられなかったが、何者かが後ろから追ってきているのを、殺気にも似たピリピリと肌を刺すような空気で感じる。

 ルークは足を止め、黙って右手を剣の柄に伸ばした。

「ルークさん、どうしたんですか?」

 突然神妙な面持ちで立ち止まったルークに、キラは問いかける。

「私の後ろに」

 ルークはただそう答えた。

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったキラは、大人しくそれに従う。

 ルークは気配がこちらに近付いてきているのを、確かに感じていた。

 それもひとつではない、複数だ。

 突然、森の奥から数匹の犬が飛び出てきた。

 牙を向いて、二人に向かって一斉に吠え立てる。

(野犬? ……いや、違う!)

 よく見ると、犬の首にはスパイク付きの首輪がはめられていた。

 野良でないことはそれで分かる。

 その誰かの飼い犬達は、キラとルークを取り囲むように陣取りつつ、やかましく吠えるばかりで仕掛けて来ようとはしなかった。

 彼らは獲物の場所を、主に教えているのだ。

(これは、猟犬?!)

 すると更に茂みの中から、今度は人間が姿を現す。

 複数おり、皆武装していた。

 ちょうど中央に立つ、一際大柄な男が二人を見て言う。

「うるせぇぞ犬っころ、ちっと黙りやがれ! 聞いた通り、本当に女二人旅みたいだな」

「……誰ですか?」

 こんな人相の悪い知り合いに、心当たりは無かった。

「兄貴、あの女二人で間違いありやせんぜ! あの手前の女が、膝蹴りしてきやがったんです!」

 子分と思しき隣のチンピラにそう言われ、大柄な男は値踏みするようにキラとルークをしばし眺める。

「ちょっと前、ウチの手下共を可愛がってくれたそうじゃねぇか? この落とし前は、キッチリつけてもらわねぇとなぁ!」

 何者か知らないが、どうやら明確な敵意があるようだ。

 ルークは仕方なしと抜刀し、構える。

 一方、親玉と思われる男は不敵に笑うと、首に下げた笛を吹いた。

 音は聞こえない。

 人間には聞こえず、犬には聞こえる音を発する、犬笛だ。

 その音を合図に、二人を囲む猟犬達が一斉に攻撃を仕掛ける。

 だがルークも猟犬の襲い来るスピードに見事反応し、噛み付きをかわすとその脇腹に剣で斬りつけた。

 甲高い悲鳴をあげて、最初の一匹が地面に倒れる。

 それで怯むような猟犬ではなく、矢面に立つルークに次々と襲いかかる。

 いくら手練れの剣士と言えども、数で圧倒されると苦しい。

 何匹かは斬り捨てたが、ルークの剣筋を潜り抜けた猟犬が彼の手足に食らい付く。

「ルークさん!」

 後ろから見ていたキラは思わず声を上げた。

 革製の戦闘服とブーツのおかげで深手にはなっていないが、剣を握る右腕と左足を押さえられてルークは身動きが取れなくなった。

 ルークを犬に抑えさせたところで、控えていた後続の野盗達も動き出す。

 猟犬に噛み付かれたルークを迂回し、戦えないキラにその魔の手が伸びる。

 彼女は悲鳴を上げつつも、咄嗟に持っていた荷物を盾にして野盗の攻撃を防いだ。

(やらせない!)

 ルークは慌てず、集中した。

 左手で印を描き出し、宙に風を示す魔術文字が完成する。

 素早く術を組み立てたルークは、キラに当てないよう狙い澄まして野盗目掛けて魔力を解き放った。

 彼の左手から無数の風刃が放たれ、キラに向かってナイフを振りかざす野盗を切り裂き、その奥の木々まで薙ぎ払う。

 傷を負った野盗達が思わず怯んだ間にルークは続く二発目を用意し、今度は自分に食らい付く猟犬目掛けて突風をお見舞いし、振り解いた。

 その衝撃波は回り込む野盗にも飛び火し、彼らを打ちのめす。

 普通の魔術師のように逐一呪文を唱えていたのでは、詠唱が間に合わなかっただろう。

 その術の展開の速さは、まさに前線に出て剣と共に魔法を扱う者の強みだった。

「何だありゃあ!」

「馬鹿お前、魔法だ魔法! 気をつけろ!」

 ルークが剣だけでなく魔法の使い手でもあると知った野盗達は、一旦距離を取って仕切り直す。

「やるじゃねぇか。魔法まで覚えてやがるとは。娘っ子にしとくにゃ勿体無いぜ……」

 なおも勘違いしたままの野盗に、ルークは再び左手で印を刻み、術と共に言い放つ。

「これでもまだ、か弱い女と思いますか?!」

 野盗達に風刃が襲いかかる。多少距離を取ったとは言え、十分に魔法の有効射程内に入っている。

 ルークは突風で、野盗と猟犬を薙ぎ払った。

 彼らを完全に後退させることはできなかったが、相手が怯んだ隙に好機ができる。

(この数を一人では捌き切れない、ならば方法はひとつ!)

 ルーク単騎ならば、切り抜ける方法はいくらでもあった。

 剣と魔法を駆使し、愚かな野盗を皆殺しにして悠々と森を抜ける手もある。

 だが彼の背後には戦えないキラがおり、彼女は人の死を酷く怖がる。

 視界の悪い森の中、彼女を守りつつ、かつ目の前で敵を殺傷しないようにと思うと、かなりルークに不利な条件が重なる。

「キラさん、走りますよ!」

「は、はいっ!」

 素早く敵に背を向けたルークは、左手でキラの手を取って走り始めた。

 荷物をいくつか落としてしまったが、拾いに戻っている猶予はない。

 この状況で、無理に戦うのは愚策だった。

 プライドが邪魔をしないのであれば、逃げてしまった方が賢い選択と言える。

 とにかくこの見通しの利かない森を抜けて、開けた場所まで出ればもう少し戦況は好転する。

 ルークに半ば引きずられるようにして、手を引かれるキラも一生懸命走った。

 暗い森と、悪意に満ちた悪漢達の影が彼女の恐怖心を煽る。

 息も切れ、足がもつれそうになりながらも、キラは逃げ続ける。

 そんな中、彼女は不思議な感覚を覚えた。

(森の中……誰かに、追われて……何だろう、知っている気がする)

 それはデジャヴだった。

 どこかで同じ光景、同じ状況を経験したような、そんな錯覚に彼女は襲われた。

 その謎の既視感を辿りたいところだったが、今は無心で走った。

「逃がすんじゃねぇ!」

 風切り音と共に、走る二人のすぐ後ろに矢が突き刺さる。

 薄暗い森でも、盗賊にとっては狙いをつけるのに障害にはならない。

 ここは彼らの土俵の上と言っていい。

 キラは走りながら咄嗟の判断で背負っていたリュックを開き、中身をぶち撒けた。

 捨ててしまうのは勿体無いが、これが野盗の射手の狙いをうまい具合に逸し、後を追ってくる賊をつまずかせて進路を妨害した。

 いくらキラを引っ張りながらとは言え、そこは元々素早さを武器にしていたルークのこと。

 キラの行動で生まれた野盗の一瞬の遅れを活かし、そのまま木々の間を駆け抜けて引き離す。

 男達の怒鳴り声が背後から響く中、二人は何とか霧の立ち込める森を抜け出した。

 森から出たルークはそこで一旦立ち止まり、荒い息を整えながら迎撃の構えを取る。

 木々が遮蔽物とならないこの場所でなお襲ってくるようなら、今度こそ突風の衝撃で纏めて吹き飛ばしてやろうと彼は考えていた。

 だが日が沈む中、森から盗賊達は出て来なかった。

 頭目も馬鹿ではないのか、見通しの利く場所での襲撃は不利だと判断したようだ。

 ルークは警戒したまま、肩で息をしてへたり込むキラにそっと近付いた。

「キラさん、もう追ってこないようです。もう少し歩いて、そこで野営にしましょう」

「はい……。すいません、荷物捨てちゃって」

 逃げる最中にばらまいたため、キラの荷物はほとんど無くなっていた。

 あの中には食料や毛布なども含まれていたが、目眩ましと野盗の足止めのために使ってしまった。

「いえ、適切な判断でした。この先の村で、買い直せば済む話です。気を落とさないでください」

 素人ながらによく咄嗟に思いついたものだと、ルークは内心感心していた。

 手近にあるものを投げつけ、ばらまくのは案外有効なもので、武器を失った際の戦闘術として伝授している流派も中にはある。

 一見ありきたりな手ながら、案外動揺した時には思い当たらないものだ。

 だからこそ訓練して身に付ける。

 それに荷物ならルークも持っており、切り詰めれば次の村へ到着するまでは持ちそうだ。

 荷物を抱えたまま野盗に捕まり、命を落とすよりはずっといい判断だった。

 今回はキラの機転が功を奏したと言えるだろう。

 月明かりを頼りに二人は森から少し離れ、その日はそこで野宿となった。

 全速力で森を駆け抜け、くたくたになった身体に携帯食と水を流し込み、横になるとキラは疲労からすぐに眠った。

 ルークも普段以上に警戒していたが、結局その晩は何事もなく過ぎていった。

(野盗の襲撃は想定外とは言え……こんなことは、この先もあるだろう)

 街から一歩外に出れば、そこはまさしく魑魅魍魎が跋扈する世界。

 荒くれ者が徘徊する、力こそ正義の無法地帯だ。

 いくら国の騎士団などが盗賊討伐を行っても、彼らは蛆のように次から次へと湧いて出て来る。

 だからこそ、旅人や行商は武装する。

 自衛のための武力を持ち、それでもってならず者を寄せ付けないようにしている。

 そうでなければ生きて安全地帯まで辿り着けない。

(この先、私一人ではキラさんを守り切れないかも知れない……)

 いくらルークが腕利きの魔法剣士だと言っても、個人の力には限界がある。

 戦えないキラを守りながら旅を続けることの難しさを、ルークは改めて実感した。

 同時に、一刻も早くジョイスの言う『協力者』と会わなければ、と言う思いが強くなる。

 キラを守るためには、少しでも戦力が必要だった。


 その翌日、キラはついに石に紐を通して自作の首飾りを完成させた。

 紐を通す穴を開けるのに一苦労したが、荷物袋から旅の道具をこっそり拝借して何とか無事、石を割らずに首飾りにすることができた。

「ルークさん、ちょっといいですか?」

 その日の晩、焚き火を囲みながら満を持してキラはルークに話しかける。

「何でしょう」

「少しだけ、目を閉じてもらえませんか? 少しだけ」

 いつになく真剣で気合の入った彼女の表情に、ルークは戸惑いながらも大人しく目を閉じた。

 キラはそんな彼の首に、出来上がったばかりの守り石をかけた。

「もういいですよ」

「……これは、『旅人の守り石』ですか。どこでこれを?」

 特徴的な翠緑の石に見覚えのあったルークは、すぐにそれが守り石だと気付いた。

 自分の首にかかっている石をつまみ上げ、焚き火に照らしながらじっと見つめる。

「道で拾ったんです。それを磨いたら、こうなりました」

 素人の作業のため多少不格好だったが、せっせと磨き上げて完成させた石を渡せて、キラは得意げだった。

「それを、私に?」

「はい。ルークさんには、お世話になりっぱなしで……何か、お礼ができないかなって、思ってたんです。これくらいしか、できないんですけど……」

 旅の無事を祈る守り石は、手元に何もない記憶喪失の娘なりの、精一杯の感謝の気持ちだった。

「大切にさせて頂きます」

 ルークはいつもと変わらぬ調子だったが、心の内でむず痒い感覚を覚えた。

 かつて自分にも家族と呼べる人がいたこと、その人とかけがえのない日々をおくったこと。

 国が焼かれて灰になった時以来、心の奥に封じ込めていた感情が蘇るようだった。

 キラからのささやかな贈り物を、ルークは大切そうに服の内側に仕舞った。

 その次の日、帝都を発ってから7日目の夕暮れ。

 突然空が険しくなったかと思うと、大粒の雨が二人に降り注いだ。

 慌てて野営場所を移動し大きな木の下へ移動したものの、二人共すっかり雨に濡れてしまっていた。

 この雨ではいくら木陰とは言え、焚き火をすることもままならない。

 冷たい水と携帯食で腹を満たすと、仕方なく二人は濡れた毛布に包まった。

 問題は翌日に起きた。

 夜のうちに雨は上がり、明け方になっていつものようにルークは仮眠を取ろうとキラを揺り起こそうとするが、どうも反応が鈍い。

 濡れて重くなった毛布からのそりと這い出したキラだが、どうも足元がおぼつかずフラフラとしていた。

「うーん……何だか、頭がぐるぐる回って……ごほっ。体が重いです、げほっげほっ!」

 もしやと思ってルークが彼女の額に手を当てると、案の定熱を出していた。

 恐らく雨で体温を奪われ風邪を引いてしまったのだろう。

 咳をして辛そうな様子のキラをひとまず横に寝かせると、ルークは考えた。

(次の村までは、あと2~3時間。ここで熱が下るのを待つべきか、無理にでも村へ急いで医者にかかるべきか)

 村までそう遠くはないが、今のキラにはその距離すら歩くのは辛いだろう。

 今日一日は安静にさせて様子を見て、熱がある程度下がってから村を目指そうとルークは決めた。

 その後、ルークは野営場所に留まりキラの看病を続けた。

 泥と雨水にまみれた毛布を木の枝に吊るして乾かし、乾いた毛布をキラにかけて、脱水しないよう定期的に水を飲ませる。

 気分が悪いせいか食事は無理なようだった。

 だが夕方になり、容態はさらに悪化する。

 荒い息を吐きながら、ぐったりと横たわるキラの様子をおかしいと思ったルークが熱を測ると、朝よりも更に熱が上がっていた。

「ル、ルーク……さん……」

 意識も朦朧としているようで焦点の合わない目でぼんやりと彼を見つめ、うわ言のように名前を呼んでいる。

 時間の経過と共に症状は軽減していくと予想していたが、どうやらそんな軽い風邪ではなかったようだ。

「私としたことが……!」

 キラを自分と同じ様に考えていたことが、そもそもの間違いだった。

 彼女は旅慣れた人間ではなく、今まで彼が付き合ってきた軍人や傭兵とは全く違う一般人だ。

 しっかりと休憩を取らせて、無理をさせないようにしてきたつもりだったが、徐々にその少ない体力は削られていた。

 このままでは熱は下がらず、病気は悪化する一方だろう。

 ルークは無意識のうちに、キラに貰った守り石を固く握り締めていた。

 キラは恐らく、歩き疲れて無理をしながら石を磨いていたに違いない。

 疲れた素振りは全く見せずに。

(こんな無理をさせておいて私は……! これでは、彼女を守るという約束を果たせていないじゃないか!)

 己の判断ミスを、ルークは叱咤した。

 帝都を出る時、確かにキラを守ると誓った。

 それを違えるようなことがあってはならないと、ルークは自責の念に駆られながらもまずは行動を起こすことにした。

「もう少しの辛抱です、キラさん。村に着けば医者に診てもらえます」

 今となっては聞こえているかどうかわからないが、ルークは必死にキラを元気づけようと言葉をかけた。

 その一方で彼は荷物を捨てて出来る限り身を軽くし、キラを村まで運ぶ準備を進める。

 物資を捨てるのは勿体無いが、村に到着すればそこでまた買い直すことが可能だ。

 それよりも今は、キラの病状が心配である。

 急いで荷物を削ったルークは、最後に力なく横たわるキラを背に抱え、早足で村への道を走り出す。

 昨日の雨でぬかるんだ地面に足を取られながらも、ルークは必死に先を急いだ。

 彼自身もあまり体力に自信のあるタイプではなかったが、キラを助けなければという想いがルークを突き動かす。

(まだ旅を始めたばかりなのに……!)

 記憶を失くしたまま、自分が何者かも知らぬまま、彼女を死なせてはならないとルークは走った。

 こうしている間にも、風前の灯火となったキラの命は削られていく。


To be continued

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