第77話

「何か分かったか?」


「分かりそうなんだけど……待って、まだ繋がらないの」


「じゃあ、初心にかえってみようぜ」


 ローガンがいたずらっぽく笑い、ジゼルは「初心?」と首をかしげた。何のことだと思っていると、ローガンは脇に抱えた麻袋から、数枚の絵を放り出した。


「え、何これ……絵?」


「そうだ。よーく見てみろよ」


 言われてジゼルは絵をまじまじと見つめ、そのサインを見て目を見開いた。


「これ……ファミルーの!」


「そう、ジゼルが大好きなファミルーの作品だ」


「一体どこで……ってあれ、これは偽物?」


 顔を輝かせていたジゼルは、ちょっとの違いに気がついたのか、眉根を寄せて絵を透かしたり横から眺めたりし始める。


「その様子だと……これ、やっぱり偽物なんだな?」


「うん。一瞬本物かと思ったけど、まずタッチが微妙に違うし、線の引き方だって雑。色の使い方も、本物とは比べ物にならない……っていうか、これを描いたのは左利きの人で、ファミルーは右利きだから、まったくの偽物だわ」


 そこまで言い切ったジゼルに、ローガンは面白そうにへえ、と眉毛を上げた。


「偽物だという確証は?」


「命を懸けてもいいわよ」


 ジゼルは持っていた絵を机に戻し、ローガンが持つもう一つの作品もチェックしたが、首を横へと振った。


「よく描けてるけど、こっちも偽物。なんでこんなものをローガンが?」


「どうだ、初心にかえったか?」


 言われて、ジゼルはそういえば絵描きを目指したのはファミルーのおかげだったなあと、しみじみ思い出す。


「……ジゼル。今な、巷でこれが出回っているんだ。ボラボラ商会からのもあるし、闇っぽいところから出回っているのもある」


 とにかく、大量に出回っているんだとローガンは首をかしげた。


「でもよくできた偽物よ。これは気がつかない人だって多いはず……何だってこんな時期に、こんなものが出回ってるんだろ」


「さあな。偽物を高額で売り付けて、儲けている奴がいるってことくらいしか分からない」


「そんなことして、天罰が下るわ」


「天罰の前に、牢屋行きだ」


 仕方ないわよ、それはとジゼルは肩をすくめた。


「こんだけ出回っていると怪しいけどな、相当ぼろ儲けしているだろう。それに、ボラボラの商船にも、偽物のファミルー作品乗っかってるみたいだぞ」


「そんな、全部自分に返って来るわよ。そういうことしちゃいけないのに……」


「まあ、ジゼルも多くの人騙しているから、人のこと言えないけどな」


 それにジゼルは押し黙って、苦い顔をした。


「まあ、人を騙したところで死にはしないから、別にいいんじゃねーか」


 ローガンがのんきにそんなことを言い始め、ジゼルはふと偽物を見つめて思い出した。


「そういえば、ファミルーの死因も……」


 そう言って、ジゼルは大慌てでキャンバスの前に置いてある絵の具をいくつか取り出して、ローガンの方へと戻ってきた。


「ローガン、聞いて!」


 いきなり形相を変えたジゼルに、ローガンの方が驚いた。

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