第61話
「何してんだよ、二人して?」
「ローガンあのね」
「ジェラルドが女王との食事の後に、食べたものを吐いたので、コルセットを取ろうとしているんです」
ジゼルの声を遮って、一刻も早くジゼルの締め付けを解こうとしていたカヴァネルは、至極真面目な顔で告げた。そう告げている間にも、ジゼルの服に手をかける。
(見てないで、早く助けて、ローガン!)
ジゼルの必死の視線を無視して、ローガンは「吐いた?」と眉を盛大にしかめた。シャツがはぎとられ、ジゼルは思わず悲鳴を上げる。
「……大丈夫ですよ、コルセットを取るだけです」
「じじじじじ自分で、できますっ!」
身をよじったところで、ローガンが間にやっと割り込んできた。
「俺が脱がせるから。カヴァネルあっち向いてろ。恥ずかしがりなんだよ、ジェラルドは」
「そうですか」
カヴァネルが後ろを振り返ったところで、ジゼルは大慌てで服を着ようとして、ローガンにコルセットの紐を解かれた。悲鳴を出そうとしたところで、抱きしめられて大きな手で後ろから口元を塞がれる。
「コルセットは取れ。顔色が悪い。厚手の服持って来てやるから、それ着て今は我慢しろ」
耳元でジゼルにだけ聞こえる声で伝え、すぐに厚手の服を持ってくる。ジゼルはコルセットを外すと、服を二枚羽織った。
「気づかれないさ。そんな平らな胸じゃな」
またもや耳元でからかわれて、ジゼルは「ひどい!」と声を出してしまい、それにカヴァネルが振り返った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です……すみません、お騒がせしました」
ジゼルは真っ赤になりながら、下を向いてカヴァネルへと向き直る。ローガンの手がぽんぽんとジゼルの頭を撫でた。
「具合が悪かったわけじゃなくて……食事に毒が含まれていた可能性があって、吐き出したんです」
ソファに座って落ち着いてから素直にそう言うと、男性二人が眉をしかめた。
「毒、ですか?」
「はい。私の両親は旅商人で……小さいときは色々なところを旅していました。その時に、毒におかされた人を見てきましたが、ジェフリー第二王子にその人たちと似た症状があったので、怖くなってつい」
緩慢な動作に変色しかけた皮膚、妙にゆっくりしゃべる姿。冷めた料理を出していたことにも、ジゼルは違和感を感じていた。
そして、そこまで言ってから、「でも」とジゼルは続けた。
「でも、今思えば、同じものを女王様も召し上がっていたんです。ですから、毒は入っていなかったかもしれませんが」
その言い分に、カヴァネルは苦虫をかみつぶした顔をした。
「ジェフリー王子にお出しするものに関しては、女王様は別にお作りになります」
「え?」
それには、ローガンもカヴァネルを見た。
「ジェフリー様はお身体の調子が悪いので、女王様は同じものをたとえ作ったとしても、調味料の量や味付けなどを変えたものを出しています」
「じゃあ……私と女王様が食べたものは同じでも、ジェフリー王子が食べたものは、ちょっとだけ違うと」
「そういう事になります」
カヴァネルは答えてから、迂闊でしたと息を大きく吐いた。
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