第51話

 翌朝、王宮内が騒がしくてジゼルは目を覚ました。なんだろうとベッドから身を起こすと、すでにローガンは着替え終えている。


 ドアの向こうで、誰かと話しているローガンの姿があった。ジゼルが、眩しくて目を細めながらそれを見ていると、扉が閉められてローガンがこちらへと顔を向けた。そして、起きているジゼルを見て、ほんの少し驚いた顔をする。


「……起きていたのか?」


「うん、今目が覚めたの。騒がしいけど何かあったの?」


 窓の外を見ればまだ暗いが、遠くの空が白み始めてくる頃だった。早朝、と呼ぶにはまだ早すぎるような時間。ジゼルはローガンが押し黙ったのを見て、嫌な予感がした。


「ローガン、何かあったの?」


 ジゼルがベッドから起き上がると、ローガンは部屋の真ん中で立ち止まり、そしてしばらく経ってからジゼルを見つめた。


「――シャロンが死んだ」


「……え?」


 ジゼルはそれを聞いて、大慌てでローガンへと近寄った。彼の目の前に立ち、腕にしがみつく。


「嘘だ、何で……? 人違いじゃ?」


 それにローガンは押し黙る。その沈黙は、シャロンの死が決定していることを意味していた。


「嘘……どうして、シャロンが……?」


 ジゼルは、部屋の隅に置いてあった、描きあがって乾かしていたシャロンの肖像画へと視線を向ける。


「どうして……?」


「俺はシャロンの遺体の発見場所へ向かう。ひとまず、ジゼルも一緒に来い」


 それにジゼルは言葉を飲み込む。立ち止まったまま動けないでいると、ローガンがジゼルの肩に手を乗せた。


「……今、ジゼルを一人にしておくわけにはいかない。シャロンが死んだのが、他殺か自殺か分からない今は、俺と一緒に居てくれ」


 頼む、とつぶやいた唇は、悔しさに震えるのを我慢しているようだった。ジゼルは呆然としていたのだが、ローガンに強く肩を掴まれてハッとする。


「他殺の場合、犯人は、シャロンと仲が良かったジゼルを狙っているかもしれないんだ。だから……」


「分かった。すぐ支度するから、三分だけ待って」


 ジゼルは口を引き結ぶと、すぐさま服を着替えた。泣くもんかと思いつつ、涙をこらえて準備をする。髪の毛をうなじでお団子にしてまとめると、眼鏡をかけて入り口に立つローガンの元へと近寄った。


「お待たせ」


「悪いな、付き合わせて。見たくないものを、見せてしまうかもしれない」


「大丈夫。もし、シャロンが誰かに殺されたのだとしたら……私は、その人を許さないから」


 手がかりを、絶対に見つける。目にすべてを焼き付けるんだ。ジゼルはそう誓って、ローガンと共に部屋を出た。

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