第40話
腕のいい鍵職人がいるんだ、とローガンはニヤニヤと笑った。翌日、たいそうご機嫌な様子で部屋を出て行き、夜に戻って来た時には、話がついたと不敵に笑っていた。
その顔を見たカヴァネルが、何やら大きくため息を吐いたので、ジゼルは目をキョロキョロさせた。
「ローガン、また何か怪しいことして無いですよね?」
「してないしてない。ただちょっと……まあ、使ってない装飾品、賄賂で渡しただけだ」
悪びれる素振りもないローガンに、ジゼルは「やってるじゃん……」と目を見張った。
「ローガン、困りますよ。王宮のものを私物化しないでください」
「どうせ使ってないんだ。金に変えて何が悪い」
困ったなとカヴァネルは頭を掻いたのだが、ローガンはそ知らぬふりをした。
「大丈夫だ。今回は王宮内のものじゃなくて、きちんと俺がもらった物を渡したからな」
「ああ、ご令嬢たちからの貢ぎ物……もらって困っていますものね、いつも。でもそれはそれで問題のような……ああもういいです、考えるだけで頭痛です」
ついには、カヴァネルの方が匙を投げてしまった。考えることが多すぎるので、カヴァネルはローガンの方の後始末は、自分でしておいてほしいというスタンスだった。
「鍵は一カ月かかるって言うから、一週間で仕上げろと脅しておいた」
「いっ……っていうか、脅すって何!?」
ローガンの物騒な物言いに、ジゼルが目を白黒させる。カヴァネルはそれには驚かずに、渋い顔をしただけだった。
「一週間……それまでに、もう少し手掛かりを増やしておきたいところですね」
「中庭を調べたけどな、なんにも見当たらないぞ」
ローガンが困ったという顔をし、みんなでもう一度、場内の図面をにらめっこする。ふと、ジゼルの頭に鍵の様子が思い出された。
一列にきれいに並べられたフック。そこにかけられたいくつもの鍵。物を隠すには、人の盲点を突くのが一番だ。
「灯台下暗し……もしかして、意外に近くにいるんじゃないのかな? 幽閉されていると私たちは思いこんでいるから、地下牢や隠し通路を探すけれど、案外、よく分かるところに居たりして……?」
ジゼルの一言に、カヴァネルが眉毛を上げた。
「ジェラルドの、その根拠は?」
「女王様の性格です。幽閉場所の鍵を隠すのに、引き出しの中などの人目につかない所ではなく、わざと人目につくところに置いてあったから……」
なるほど、とカヴァネルはうなずく。
「女王はしたたかで賢い。隠していなければ、それが隠されたものだと人は気がつきにくいものですね。鍵をわざと隠さないでおけば、大事なものだと人は思わない。盲点でした」
カヴァネルは今一度、地図に視線を落としてからふと目を見開く。
「隠れていない所に、人を隠す……つまりは、ラトレル様がいるところは、案外みんながいつも見ているものかもしれない。というと、女王の部屋から行ける範囲で、人目にわざとつくけれども、人が入らないような場所……」
ローガンが、口を開けた。
「温室だ。離れの裏庭の、温室。あそこは珍しい植物を、女王が自ら管理している場所で、誰も近づかない」
「おまけに、毒のある植物があるから立ち入り禁止だと、女王自らおっしゃっていますしね」
三人して、窓の外から、めったに使われない離れの建物へと目を向けた。建国記念の式典用に建てられた絢爛豪華な建物は、その一回使ったきり、それ以降使われていない。
離れの庭の横には、こじんまりした温室が建てられている。三人はすでに暗くて見えないそこを、じっと見つめた。
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