第28話
女王の部屋へと入る前に、持ち物の検査をすることとなった。それはやはり安全を考慮してのことであり、言われると分かっていたものの、ジゼルはその細かさに少々度肝を抜かれた。
「こちらは一体なんでしょうか?」
「それはテレピン油です」
「何にお使いに?」
「絵具を溶かすのに使います」
「こちらの油もですか?」
「ええ、数種類混ぜて使いますから」
かれこれこんな調子で、すでに一時間は経っている。全てのものをチェックし終わってやっと入れると思った時に、身体検査と言われて身体を軽く触られた。
さすがに肝を冷やしたのだが、男性のふりをしているジゼルはあくまでここでは男性だ。なので、侍女たちもベタベタと触れることをはばかり、さっと済んだ。
やっとすべてのチェックが終わって入れると思ったのだが、通されたのは広間で、そこに女王の姿はない。
「えっと、女王様は……?」
「ただいまお部屋にいらっしゃいます」
「こちらがお部屋なのでは?」
「ここは控えの間です。女王様のお部屋に、男性が入るのは少々障りがありますから」
言われてジゼルは、これは痛恨のミスだと思わず口を曲げそうになって、慌てて咳払いをした。
疑いのある女王の部屋に入りたかったのだが、入れないとなると困ってしまう。しかし、ここは辛抱強く待つしかないと、自分に喝を入れた。
「それはそうですね。ですが、自然なお姿で描きたいですし、後世に残すためにもお部屋での肖像画は必要かと存じます。また後々、女王様にもそうお伝えください」
「かしこまりました。お伝えしておきますし、ジェラルド様ご本人からおっしゃっても良いかもしれません」
はいと返事をしていると、侍女たちの視線がちらちらとジゼルを見ているのが伺える。なんだろうと思っていると、マリアが厳しさを含んだ咳払いと共に、侍女たちを一蹴した。
「……申し訳ございません。あなたが、ローガン様と恋仲だという噂で、みんな興味津々なのです」
「なっ……!?」
こんなところにまでその噂が広がっているのか、とジゼルは肝を冷やした。
「しかも、こういう言い方は男性に対して失礼かもしれませんが……ずいぶんと可愛らしい方だということで、王宮のみんなが、あなたに注目してしまっているのです」
「は、はあ……」
「素顔を見せて来なかった謎の画家の正体を見たいのも相まって、お恥ずかしい話ですが、王宮中騒がしくなっております」
ジゼルはローガンのしたり顔を思い出して、怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になった。それを見たマリアが、「本当に可愛らしい」と目を丸くする。
「可愛くなんか……」
「いえ、女性である私から見ても、ジェラルド様はとても可愛らしいです。あのローガン様が惚れてしまわれるのも、無理はないかと」
「あの、というは?」
何やら含みを持った言い方に引っかかりを覚えて、ジゼルはマリアを見上げる。
「数多くのご令嬢からの婚約の申し出を、ことごとく断り続けている方ですから」
「はあ」
それは性格に問題があるわけで、と言おうとして、墓穴を掘りかねないのでジゼルは口をつぐんだ。
「まあ何はともあれ、もう少しで女王様もいらっしゃいますから、しばらくお待ちください」
それにジゼルはハッとして、気を持ち直す。大きく返事をして、女王が現れるのを待った。
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