第22話
女王への謁見は、その後に行われて、そしてすぐさま終了した。あっけなさが逆に、ジゼルの不信感を増させるのは、女王のことを連続殺人の容疑者と思っているからかもしれない。
「どうだったよ、謁見は」
謁見の間から戻り、入り口近くで待っていたローガンが、ジゼルを迎えた。帰り道が分からなかったので、ジゼルはほっとする。
「どうにもこうにも、何かに気がつくよりも先に、明日からよろしくってだけで終わったわよ」
「男装中だぞ」
言われてジゼルは口元を思わず隠した。その頭に、ぼすっと何かが被せられる。
「これでも被っておけ。いかにも絵描きっぽく見えるぞ」
そのまま廊下の鏡の前に通りかかり、見るとベレー帽が乗せられていた。
「いいの、もらって?」
「ああ、それ被ってる時は男装中だって思い出せよ」
嫌味な人物だと思っていたが、そうでもないかとジゼルがありがとうと言う。するとローガンが何かに気がついて、ジゼルを壁に追いやって覆い被さるようにしてきた。
「悲鳴あげるなよ?」
「え、うん?」
次の瞬間、唇を奪われてジゼルは絶句するとともに、ローガンを叩いた。しかし、叩けば叩くほどに、ぎゅっと抱きしめられてしまい、さらに悪いことに、唇はちっとも離れない。
「え、うそ……!」
ジゼルが女性の声に瞳だけそちらに向けると、美しい身なりの少女たちが、顔を引きつらせてこちらを見ていた。
(違う、これは誤解で……!)
と言いかけるジゼルの声は、塞がれた唇によってもごもごと音にならない。たっぷりと時間をかけて唇が離れて行き、抗議しようとする前に頬をむぎゅっと摘ままれた。
「おやおや、ロゼッタお嬢様。こんなところを見られてしまうとはお恥ずかしい」
ローガンが白々しく美しい少女に話しかる。ローガンの手をどけようと腕を掴んでいたジゼルは、彼女の目から涙があふれるのを見てしまった。
「そんな、ローガン様……ひどいです、私はずっとローガン様をお慕い申し上げていましたのに……まさか、少年がお好きだという噂は本当でしたの?」
「ああ、申し訳ありませんが、このジェラルドに心を奪われておりまして」
何を言ってるんだ、とジゼルが抗議しようとしたが、ローガンの手が頬から離れたかと思うと、耳に触れる。思わず声を上げそうになり、ジゼルは自らの手で口元を塞いだ。
「何しろ、こんなにカワイイので……骨抜きにされてしまいました」
ローガンの手が、ロゼッタというお嬢様から見えない位置で、ジゼルの首筋をなまめかしくなぞる。ジゼルは自分でも顔が真っ赤になっているのを自覚し、やめてほしいのに声さえ出せずに固まった。
「本当でしたのね……出直してまいりますわ!」
悔しそうにジゼルを見つめて、ロゼッタは一瞬眉根をしかめると、長いスカートをひるがえして去って行った。それを見送ってから、ローガンがしてやったりという顔をして、ジゼルに向き直った。
「よく我慢できたな。上等上等。ご褒美にもっかいキスしてやろうか?」
ジゼルの張り手がすっ飛んだが、ローガンは笑いながらそれを受け止めた。
「あのねぇ!」
「おっと、文句なら後で部屋で聞くぞ」
「女除けって、こういうことだったのね。だけど、もう少しやり方ってものがあるじゃないの!」
「仕方ないだろ。説明している暇がなかったんだから」
あっという間にほっぺたにキスされて、ジゼルは踏んだり蹴ったりだと思いながら、ローガンとは二度度と口をきくものかと憤慨しながら部屋へと戻った。
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