おまけ⑥ ~王弟夫妻の日常~
第1話 いわゆる、キスマーク
夜会とは、ある人にとっては社交の場。またある人にとっては、結婚相手を探す場。
腹の探り合いか、相手が相応しいかの見極めか。
どちらにしても、その必要性が極端に少ないのが王族であることに変わりはない。
特にここドゥリチェーラ王国の王族というのは、そろいもそろって仕事人間。
夜会に出席する暇があるのならば、執務室に籠って仕事をしていた方がマシ。
そう零したのは、何を隠そう私の隣に立つ王弟殿下ご本人なわけで。
ただ流石に、ずっと王族が夜会を開かないというのも問題になるらしい。
なので仕方なく。そう、仕方なく。今日は陛下主催の夜会が開かれているという。
困ったことに、この国の国王陛下ご本人が一番の夜会嫌いで、仕事人間だった。
夜会を開くのは無駄なお金の使い方だと思っているらしく、そんな事に使えるお金があるのなら別の事に使えと。
そしてそれに殿下も、兄上の仰る通りですなんて同意してしまうから。
王妃様と私は二人で、これも大切な公務の一つではないですか?と。仕事人間の兄弟を説得しなければならなかった。
別に私も、夜会に出たいわけじゃなかったけれど。
色々、あるんでしょう?貴族に対してとか、他国に対してとかの、王族としての威信とか色々。
なのでそれを守るためには、何とか夜会を開いてもらわなければならなかったらしく。あと、新しいドレスとかを女性たちがこぞって作れば、それだけ職人が潤う。
そういう風にして、貴族にお金を使わせる口実を作るのも王族の務めなんですよね?と。そう言えば、何とか殿下は納得してくれた。
不承不承という感じではあったけれど。
ただ、出席する以上はある程度目立たなければ意味が無いわけで。
そして女性は特に、最近の流行を取り入れたドレスに身を包むことが前提条件だった。
だけど。
夜会用のドレスは、時に大胆過ぎることがある。
特に今日みたいなドレスは、背中がきわどい所までぱっくりと開いていて。
だから、そう。
こんな服を着ていれば、その後どうなるのか。どんなことが起こるのか、なんて。
分かり切っていたのに……。
「あっ…、でん、かぁっ……」
休憩という名目で連れ込まれた部屋の中、ベッドの上で押し倒された私の背中に、いとも簡単に殿下は唇を寄せていて。
「こんなに美しいカリーナの体を、背とはいえ他の男に見せてやらねばならぬなど……不愉快でしかないな」
「ぁぁっ…!!」
言葉通り不機嫌そうな声色なのに、辿る唇は熱くて優しくて。そして少しだけ、意地悪。
「で、んかぁ……」
「カリーナ?ここには二人だけだというのに、何故名を呼んではくれぬのだ?」
「だ、だってっ……!でんか、なまえ、よんだらっ…ぁんっ…!」
「呼んだら?」
「…………と……止まらなくなるじゃないですかぁ…!!」
そう、この王弟殿下。名前を呼ぶと、色々と普段と切り替わって危ないのだ。
主に、私の……色々が。
「ふむ……。確かに、それもそうだな」
「だから呼べません…!!ここは休憩室なんですから…!!」
こんなところで殿下に本気になられてしまったら、私は歩くことすらままならなくなる。
というか、たぶん服すらまともに着ていない状態にさせられる。
それは、困る。
非常に、困る。
「だがカリーナ」
「ひぁんっ!!」
今度はぬるりとした、生暖かい感触。
見えている腰から、ゆっくりゆっくりと殿下の舌が背筋を辿るその行為は。
「だ……だめですっ……でんっ、か……」
ぞくぞくと這い上がってくる快感を、その後に続く行為を、私に思い出させるから。
「分かってはおらぬな。たとえ今ここを出られたとしても、既に夜会会場へと戻ることは出来ない」
「……え…?」
言われた言葉の意味が分からなくて、後ろを振り向いて殿下を見上げようとした瞬間。
「きゃぅんっ!」
背中に走った、小さな痛み。
これ、は……
「ま……まさか、殿下……」
「その、まさかだ」
覚えがあるその痛みは、普段からよくされている行為で。
「一つでは足りぬか?もう少し散らすべきか」
「そんっ…ぁんっ…!!」
そう、それは。
いわゆる、キスマーク。
それが次から次へと、私の背中につけられていく。
こんなに背中が開いているのに、これじゃあ誰にも見せられない…!!
明らかに殿下につけられたって分かってしまう…!!
きっとこれは、殿下の狙い通り。確かにこれでは、もう夜会会場に戻る事なんて出来ない。
しかも着替えるために一度宮殿に戻るくらいなら、きっとそのまま本当に寝室のベッドに押し倒されてしまうだろうから。
「もう逃げられぬよ?大勢の男の目に触れさせるくらいならば、このまま抱きつぶしてくれる」
「そ、それだけは、やめてください……」
必死で見上げた先で、殿下は本気の目をしていたから。
せめてこんな場所じゃなく、ちゃんと夫婦の寝室で。それならもう、私も諦めるから。
「どうする?カリーナ。このまま夜会会場へと戻るか?それとも、私と共に宮殿へと帰るか?」
提示された選択は、二択のようで二択ではない。
むしろ質問自体が意味をなしていない。
それでも私は、どうしたって一つしか選べないから。
「か…帰ります……殿下と、一緒に……」
「うむ。では用意をさせよう」
満足気に微笑んで頷く夫の姿に、一つも不満なんて持てない私は。
この後もきっと、殿下の望み通りに美味しくいただかれてしまうのだろう。
――ちょっとしたあとがき――
あまりにもほのぼのとはかけ離れた、シリアス展開が多かった反動です。お許しください(汗)
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