第40話 領地ヴェレッツァの誕生
「どういたしましょうか?」
「お前にも王弟妃にも、専用の領地はなかったからな。丁度良いではないか」
そんな陛下の一言で、かつてのヴェレッツァ王国の地は私達夫婦の管轄となり。
元ヴェレッツァ王国を侵略国から解放して、僅か数か月後。領地ヴェレッツァの誕生となったのだけれど。
「名前……ヴェレッツァのままでよかったんですか…?」
「領民たちが喜んだのであれば、それが一番ではないか?」
「そう、ですけれど……」
新しくドゥリチェーラの領地となって、私達が領主になると発表するために訪れた元ヴェレッツァ王国のお城からの顔見せの際。
それまでのヴェレッツァの名前を引き継ぐと告げた途端、それはそれは大きな歓声が鳴り響いたことは記憶に新しい。
あと、私のこの瞳の色を見て泣き崩れた人たちがたくさんいたことも。
「カリーナ。あの地はヴェレッツァアイを持つものが治めるのが正しい在り方なのだ。そうでなければ、薄氷花は花開かない」
「そう、なんですけれど……」
「であれば、その瞳の名前からヴェレッツァと名をつける事に、何の不思議もないであろう?」
「ない、です、けれど……」
どこかちょっと納得いかないのは、本当にそれでいいの?という疑問があったから。
ただこれに関しては、殿下以上に陛下が嬉しそうだったからなぁ……。あの方、ヴェレッツァが本当にお好きみたいで。
とりあえず、今度視察に行くことを強引に決定していた。権力ってすごい。
「かつての美しさも、徐々に取り戻し始めてきていると報告が上がってきている。ヴェレッツァアイに映る場所は、常に美しくしておきたいのだとな」
「ありがたいですし、嬉しいですけれど……。そのために無理をしないで欲しいところですね」
「領民たちからすれば、土地だけでなくヴェレッツァアイまで戻ってきたのだ。喜びを発散させているのだろうな」
発散の仕方が特殊…!!
もうちょっとこう、お祭りみたいなことで良いと思うんだけど…!?
いや、お祭りになったんだけど!!何なら記念日になったんだけど!!
来年から毎年、この時期にお祭りするとかって話も聞いたんですけれどね!?
本当に、話が一気に進みすぎじゃないですかねぇ…?
正直私なんて、捕まって一室に閉じ込められてただけなんですけど?
功労者は殿下と軍の皆さんなのに、なぜか私が持ち上げられるという不思議。
いたたまれない……。
「好きにやらせてやれば良い。何よりかつての美しさを、領民たちも望んでいるという事だ。彼らしか知り得ない美しさも、そこにはあるのかもしれぬのだし」
「そう、ですね」
全てを知っているわけじゃないドゥリチェーラの人たちでは、前と同じように復興するのは難しい。
だからこそ、地元の人たちの協力があるのは本当にありがたいことなのだけれど。
「私、結局何もできていませんね……」
薄氷花を咲かせること以外、何一つ力になる事が出来ない。
いや、まぁ、それもかなり大事なお仕事だと、分かってはいるけれども。
「王族が何かをせねばならぬ状況でないのは、むしろ良い事だ。何より君に何かさせようとは、誰も思っておらぬ。動こうとすれば止められるだけだ」
「分かってはいるんです。ただ、こう……」
何もせずに、そこにいるだけでいいです。なんて。
なんか申し訳ないというか、不甲斐ないというか。
結局気持ちの問題なんですけれどね!!
「ふむ、そうか…。何かせねば、と。そう思っているわけか」
「せめて何か貢献したいなと」
私に出来る事なんて、そんなにたくさんあるわけじゃないけれど。
それでも何もしないというのも、なんだか居心地が悪い気がしてしまって。
でも。
ここ最近忙しかった殿下が、この機会を逃すわけがなかったのに。
私はすっかりそのことを失念していて。
「では、カリーナにしか出来ぬ形で貢献すれば良い」
「え!?何かいい方法があるんですか!?」
素直にその言葉に食いついた私に、殿下はそれはそれはいい笑顔で。
「何。少しばかり、私を癒してくれれば良いだけだ」
そう、告げてくるから。
「え……?んぅっ…!?」
その真意を掴みきる前に、殿下の腕の中に閉じ込められて。
とろけそうなほどの愛を、口移しで伝えられる。
「はっ……あ、る…んっ…ふれっ…」
名前も呼べないほど、長く深い口づけを贈られて。
「カリーナ……」
「ぁっ……」
ぞくぞくするほど、甘い声で囁くように呼ばれて。
「ぁふっ……んんっ……」
「はぁ……」
殿下が満足するまで、付き合わされた結果……。
「殿下!?!?私が出ている僅かな隙に、何をされていたのですか!?!?」
常識人が帰ってきた途端、執務室の中に声が響き渡る。
その頃には自力で座っている事すら出来ないくらい、私はとろけきってしまっていて。
大人しく殿下の腕の中に抱かれたまま、遠くで聞こえているようなセルジオ様の殿下へのお説教の声を。
あたたかさに包まれながら、どこか懐かしい気持ちで聞いていた。
――ちょっとしたあとがき――
実は休憩時間というオチ(笑)
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