第十二章 ④
万能の機導式など存在しない。《剣髄の巨兵》は最初に見た時と比べ、三倍以上に巨大化している。だが、そこから特段に大きくなった様子は見受けられない。つまり、あの大きさが限界なのだ。ならば、機錬種を吸収する能力も停止しているはず。
ゼルは刃盾を維持したままワイヤーを展開した。それも、前を向いたまま後ろに滑る。バグルを視界に入れながら距離を稼いでいるのだ。
元は人で賑わった大通り、十字路の中央へと近付いてく。
バグルの行動は早かった。脚のホイールを回し、ゼルへと肉薄する。こちらが稼いだ距離は、瞬く間に赤字へと転落していく。弾丸が、砲弾が、大津波のごとく押し寄せた。
弱気になるな。ゼルは奥歯を強く噛んだ。萎えかけた心に喝を入れんと叫ぶ。弾丸も砲弾も、所詮は口からしか出ない。ならば、避ける方法はある。よく見ろ。角度を計算しろ、距離を計算しろ、タイミングを計算しろ。こんなの機導式に比べれば大したことないだろう? 耳元を掠める必殺の欠片、群れに、心臓を直接鷲掴みにされた気分だった。
死が近い。そうだ、これが戦場だ。砲弾が地面に直撃、拳大の石が足を掠めた。弾丸と弾丸がぶつかって軌道を変化、頬を浅く裂く、血が滲む。ちょっとばかし休んでおけよ死神様よ。
「やっぱり、細かい狙いは苦手みたいだな、バグル。それが手前の限界だ。準備運動からやり直せ」
「ほざけ。ここまで近付けば目を閉じても当たる! 私は闘争の終焉を万感の想いを込めて叫ぼう」
十字路の中央へとバグルが踏み込んだ。
途端に、あれほどばら撒かれていた脅威が消える。弾丸も砲弾も、飛ぶのを放棄してしまった。
「な、馬鹿な!?」
バグルが、己がミスに気付くも、遅かった。ゼルはすでに地面を蹴っていた。今度こそ、前に進む。ワイヤーを連続で射出し、今にも折れそうなほど背骨にかかる負荷さえも勝利への近道だと信じて進む。
跳躍。バグルの頭部、操縦席へと迫る。ここまで近付けばどんな兵装も無意味だ。このまま、押し通す。
左手がキーを叩く。
右手がトリガーを引く。
六度、連続で。
ゼルの横顔を激痛が襲った。指先の感覚がおかしい。とうとう壊れたか。
構うな。
進め。
忘れろ。
戦え。
気合が火竜小唄に乗る。錨型の刃が変形、短い砲身から槍の穂先だけが伸びた。俗に、杭打機と呼ばれる、掘削用の重機だ。膨大な量の機導式が練り込まれ、内部へと爆発的に力を溜め込んでいく。高位解析機関が歯車を躍らせ、それに負けんと蒸気機関が吠える。
ゼルが、無骨な頭部へと着地した。杭打機の切っ先を、装甲へと押し付ける。
「これで、本当に幕引きだ!」
――鋭利な戦意が放たれた。
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