第53話 ドラゴンブレス⑪
「フィル。気を付けろよ。ここのゴーレムたちは動きが早いからな」
「うん。明かりはついてるんだね」
「ギースの所の魔法使いだろうな。ここは基本真っ暗だったから」
「ゴーレムいないね」
その時、床に倒れた一人を発見する。
「斥候のミカエルだわ。もう間に合わないか……」
「魔法の鞄に収納して、後で弔ってやろう」
「うん。奥へ急ごうよ。カインお兄ちゃん」
奥へ向かって5分も走ると、大量の黒曜石ゴーレムの群れに追いついた。
「活動資金がうじゃうじゃいるな。やはりここは資金獲得に活用できる優良狩場の様だな」
「何のんきな事言ってるのよ。追われてる村人や孤児院の子供達も居るんでしょ」
「フィル。攻撃魔法を一発ゴーレムの群れに打ち込んで、こっちに気を向けさせてくれ」
「うん」
フィルが聖魔法の範囲魔法「
倒せたのは5体程だが、その攻撃によって一斉に俺達の方に向かってゴーレムが突っ込んできた。
「キャー! 真っ黒な塊がウジャウジャしてて超気持ち悪いよ」
「フィルも十分のんきだな!」
そう言いながら俺は、生活魔法を発動させる。
【穴掘り】幅5m深さ5m程の穴を掘ると、勢いよく黒曜石ゴーレムが突っ込んでくる。
「ありゃ。数が前回より多いな穴が一杯になって溢れるぞ」
「下がって。もっと穴広げたら?」
「そっか」
結局、後二回ほど穴掘りを行い迫って来たゴーレムが全部落ちた所で、【給水】を発動。
全体が水に浸かったタイミングでの【発電】の黄金コンビネーションで無力化に成功した。
ゴーレムを魔法の鞄に収納しながらつぶやく。
「これを作ってる工場を、まだ発見できて無いな。どこかにある筈なんだが」
「それは、村の人達やギースを見つけてからで良いんじゃ無いの?」
「そうだな。ギースはともかく、孤児院の子供だけは絶対に助けたい」
「でもさ…… カインお兄ちゃんのそれ…… 生活魔法だよね?」
「ああ。そうだぞ。俺は昔と同じで生活魔法しか使えないからな」
「威力があり得なくない? どれだけの魔力を込めたらそんな効果になるの?」
「まぁ出来るんだから仕方ないじゃん」
「そっか……」
先に進んで行ったカインとフィルの前には、目の前の階段が消え、後ろからゴーレムが迫って来る事に絶望して膝を付いていた村人達の姿があった。
「怪我をした人はいないか? 状況はどうどうなってるんだ?」
「あ、あれ? ゴーレムは?」
「もう倒した。後は安全だ。怪我をして無いなら自分の足で入り口に戻ってくれ」
「「「ありがとうございます」」」
「孤児院の子供達は居るのか?」
そう声を掛けると10人程の子供が姿を現した。
半分程は村の復興後に新たに入った子供達の様で、始めて見る顔だった。
「カイン兄ちゃん。来てくれたんだ。ありがとう」
「おう。無事だったならそれでいい。シスターが心配するから早く帰れ」
「うん。ゴメンね。でも…… ギース兄ちゃん達が階段から落ちて行っちゃって……」
「なんだと、あのマグマの中へか? 何人くらいだ」
「人数は良く解らないけど、半分以上は居たと思う……」
「フィル。悪いが、この子たちに付き添って入り口から脱出させてくれ。俺はちょっと様子を見て来る」
「大丈夫なの?」
「ああ。任せろ」
◇◆◇◆
いきなり足場を失い、階段が大きな滑り台の様になって俺達は一直線に溶岩の池へと落ちて行く所だった。
「ギースーこんなのやだよー。まだ死にたくない」
「ミルキー。俺も死にたくは無いが人はいつかは死ぬんだ。早いか遅いかの違いはあってもな……」
その時だった。
ギースの身につけた聖鎧【ホーリークロス】が激しく輝くとギースを中心に結界を展開した。
結界? 流石聖鎧だな。
やっぱり俺は持ってる男だ。
少しでもこの結界の範囲は広がるのか?
そう思いミルキーに触れると、ミルキーも結界が包み込む。
更に、ミルキーに触れていたチャールズにその先のバネッサも次々に結界が包み込んでいく。
反対の手でギースのパーティメンバーであるスーザンの手を握る。
そちらにも結界は広がる。
俺はありったけの声で叫んだ。
『助かりたいなら、みんな手を繋げぇええ。俺の結界が全てを守る!』
そして、先頭の何人かは間に合わなかったが、殆どの村人たち迄結界が包み込んだ状態で、マグマの池へと突っ込んだ。
だが、結界は強力でマグマの1200度近い高温からも俺達を守る。
100人近い人数で手を繋いだままマグマの池の地下を歩く。
「ギース。手を離した瞬間に死んじゃうから、絶対離さないでよ?」
「しかしこのままじゃ、壁を上る事も出来ないな」
そのまま進んでいると、上り階段を見つけた。
慎重に階段を登らせる。
流石にこの階段は仕掛けは無さそうだ。
階段を上がって行くとマグマの池から脱出出来、更に扉があり、扉を開け放った。
「なんだここは?」
「ゴーレム生産工場?」
ベルトコンベアー状の機械の上で、次々に先程襲い掛かって来たのと同型のゴーレムが生産されていた。
「こいつは凄い。これを手に入れれば戦争など人の手によって行われる時代は終わるぞ。この発見を王国に報告すれば陞爵は確実だ…… いや。無限の味方を得て俺がこの世界を収める事だって可能だ。どうだミルキー?」
「ギース…… いくら何でもそれは…… 素敵な考えだね!!!」
「みんな。ここに居るメンバーが、最初に俺の国の国民となり、俺がこの世界の支配者となる事に反対の者は居るか?」
「いる訳ないでしょ?」
「よし。では俺は今ここに高らかに宣言する。ギース・フォン・ドラゴンブレスは今この時を持って、ドラゴンブレス帝国の建国を宣言する。ここにいる皆は、栄えある最初のドラゴンブレス帝国の国民だ。クランのみんなは全員が貴族として叙するぞ。ミルキーは我が国の初代宰相だ。村人の皆も上級国民としてあらゆる利権で優遇してやる」
その宣言に村人たちが歓喜の表情を見せ、ギースを称えた。
「嬉しい! ギースに付いてきて良かったわ」
チャールズが少し冷静にギースに尋ねた。
「あの…… ギース様…… このゴーレム達って命令出来るんですか? 後…… どうやって私達ここから出るんでしょうか?」
「それはだな…… 今から考える」
前途多難な建国宣言のようである。
◇◆◇◆
俺は、前回と同じように蝙蝠傘を使って、反対岸へと渡り元々ヒュドラがあった場所を通り抜けようとした時に、ケーブルの様な物がある事に気付いた。
(何だこれは?)
黄金のヒュドラに繋がれていたケーブルで間違いなさそうだな?
これに繋げばまた使えるようになるのか?
だが今は先に、ギース達がどうなったのかを見つけねばな。
その先の船のドックにも、本棚があった部屋にも誰も姿が見当たらない。
やはり、ギース達はマグマの中で溶けてしまったのか?
しょうがないな……
冒険者である以上は自己責任だ。
取り敢えず一度戻るか……
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