第114話 第六話 その2 時計塔広場攻防戦

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「う~んイズサン!ひとりでは無理だお…まっとれお!わしがわしが!」


 朦朧とする意識の中でちゅん助がうなされていた。彼は少年によって時計塔広場から少し離れた高い木の上に運ばれていたのであった。


「はあはあ!鳥さん!ここならしばらくは安全だよ。僕は…僕はなんとか父さんと一緒に勇者様の力になるよ!」


「う~ん、イズサ~ン…」


「鳥さん付いててあげられなくてごめんね」

「でもね僕と居るより体の小さい鳥さんは見つかりにくいはずだから」


「………」


「僕は…行くよ!」


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 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 またも轟音が響く。そして再びあのプレッシャー!魔王が体勢を整えた証であった。再び高まったプレッシャーの方向へ俺は視線をやった。

 核蟲の周りには相当数の青グソクが集結しているところだった。


「まさか!?」




 アオグソク達が どんどん がったいしていく!

 なんと アオダイショウグソクに なってしまった!




「くそ!復活しやがったか!」

「今度は青だけの編成か!?」


 視線の先で再び巨大な影が出来上がっていくところだった。灰ではなく青。


(うん!?しかし…小さくないか?)


 魔王の元に集結していたグソクは青だった。灰に比べて絶対数が少ない青を集結させても先程の様な超巨体を作り上げられないのは道理だった。


「ま、また大きいのが居るぞ!」


 今頃になって先程のガレッタ以外の隊員達が広場に戻って来た。


 まったく!

 少年が危機一髪の事態を救ってくれたことも知らないで何というタイミングの悪い奴等だ!


「いや、さっきの奴に比べたら細身だな!これなら!」


 俺は隊員達の青を侮る言葉に一瞬耳を疑った、が、彼らは青が移動速度に優れ戦闘力が高いことを知らないのだ。


 マズイ!


 直感的にそう思った。


「やめろ!無闇に近付くんじゃない!」


 咄嗟に大声を上げたが…


 ブシュウ~!!!

 ズブシャアア!!!


 遅かった!


 人間が潰され噛み砕かれるのにこんな気色の悪い音がするのか!そう思い知らされる程の鼓膜にこびりつくような音を発して隊員二人の命が一瞬にして弾け飛んだ。


(やはり速い!)


 二人には気の毒だったが青の巨体の速度を確かめずして近付いたならああなっていたのは俺の方だった。


 大きさではダイオウに劣るようだがスピードと小回りが利く分、逆に対人戦での凶悪さは比べ物にならないのではないだろうか!


(あの時仕留めておけば!)


 勝負にタラレバは無い。


 あの障壁を砕いた一瞬が文字通り千載一遇のチャンスだった事を思い知り、激しく後悔した。

 しかし、もしあのまま攻撃を続けていればそれはちゅん助と少年を見捨てることになっていたはずだ、それは出来ない。それをしていたらその時の後悔は今とは比べ物にならないはずだ。


 俺は、俺達は生きている!生きている限り勝機はある!


 そう言い聞かせながら剣を握り直す。

 だが問題はその勝機がどこにあるのか?

 考えもつかず、考える余裕すらない事だった。


(ちゅん助が居れば…)


 今さらながら参謀を失った影響の大きさを思い知った。

 あいつはふざけている様で色々考えてくれてる奴だったのだ。くだらないギャグ一つでもどれほど俺の精神的余裕を作ってくれていた事か!


「た、隊長の言った通り!時計塔広場が大変な事になってる!」


「本当だああ!」

「でもデカい奴は勇者様がやっつけてくれたはずじゃあ!?」


「まさか!2匹居るのか!?」


「!」


 恐らくガレッタの情報を聞きつけて来たのだろうか?

 正規兵と傭兵の混成と思われる一団が広場へと入って来る。

 有り難い!ここに来ての増援!直ちに情報を伝えなければ!


「おい!絶対に正面から近付くな!」

「体はデカくてもコイツは想像以上に速いぞ!」

「側面に付いても油断するな!脇に居ても二人が一瞬でやられた!」

「後方に付いた奴以外は絶対攻撃するな!」

「正面に付いた奴は逃げと躱しに徹するんだ!」


 先程の二人の様に一瞬でやられたら元も子も無い!俺は矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「は、はい!」

「分かりました!」


 混成団は何とか状況を理解して広場は一転、またも青大将と灰色と俺と混成団とで大混戦となった。


 ダイオウならば脇に付けばなんとか剣撃を叩き込めたが青大将となると脇からの一撃はこちらの命と引き換えになる可能性があった。

 移動速度も厄介であったが何より小回りが利く事が恐ろしい。


 ダイオウならば躱して一撃!ヒットアンドアウェイの戦法をどうにか取れたが青大将相手にそれをやろうものなら剣を振りかざした瞬間に目の前に奴の大きな口があった。

 俺の警告を理解しなかった3、4人がもう既にそれでやられているのだ。


 そしてまた一人!


「この間抜け!」


 間抜けな増援、混成団にはあの少女でなくともそう言葉が出てしまう。


 スピードに付いていけなかった者!

 フェイントに引っ掛かった者!

 位置取りを間違えた者!

 仲間同士がぶつかってバランスを崩した者!

 そもそも俺の警告を聞いていないか全く理解していない者!


 次々と犠牲者が増えていく!せっかくの増援は早くも3分の1が餌食となった。


 俺の警告の中で正面に付いた者は逃げと躱しに徹せよ!それだけはきっちり守られたおかげで幸か不幸か、正面側で死ぬ者はまだ出ていなかった。


 バカらしい!


 何故なら正面に付く者とは終始、青大将に狙われている俺なのだ!


 ずっと俺なのだ!


 先程から命からがら逃げ、躱し転げ回りなんとか生き延びているのだ!


 つまりは現時点で俺の命が一番危険にさらされていると言って良かった。なのに混成団の連中ときたらどうだ?

 こちらが奴を引き付けているというのに殆ど有効な攻撃を叩き込めないどころか!じわとその数を減らしてしまっている!


 まあ、贔屓目に見積もってやって、足元の灰色達の駆除には有効に役立っているが…こちらが灰色を何千匹駆除しようとも核蟲側は恐らく痛くも痒くもないのだ。

 対してこちらがまた一人また一人と失うたびに戦況のバランスは悲惨な位にグソク側へと傾いていく。


「このままではだめだ!」

「青大将の口の下に居る白い核蟲!」

「奴を倒さないとこっちが全滅だぞ!」


 第六話

 その2 時計塔広場攻防戦

 終わり

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