第81話 第五話 その8 限りなく軽く、果てしなく重い

(ああは言って飛び出してきてしまったが、どうする?落ち着けまずは…)


 ちゅん助と別れて街の中へとグソク達を切り捨て、刺し除けながら俺は進んだ。何か秘策とかあてがあるわけではなかったが、とにかく今できることをやらねば!そんな思いが俺を突き動かしていた。


 思えばこの世界、要所要所でちゅん助の意見を聞いたり彼の適格な判断があった、思い出せばちゅん助は元の世界でガイドブック無しで海外旅行を言語も通じない国に何回も行っているのだ。


 こっちの世界でもその経験を活かして上手くやりくりしてくれていたのだ。それに頼ってきた部分が大きい。いざ一人になると途端にどうしていいか不安だった。


 だが全くのノープランではない!


 まずは!


 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


「オヤジ!居るんだろう!?開けてくれ!」


 俺はこの街で剣のメンテナンスを頼んだだけであったが、少々顔見知りとなった武器屋に駆け込んだ!


 この混乱で当然扉は固く閉ざされている。


「仕方ないか…クソ!」


 グソク達との戦いは泥沼で長期化することが予想される、というか間違いなくそうなる、となると前回囲まれた時の様に青黄赤の三色のグソクには相当の、特段の注意を払わねばならない!


 特に赤を斬ってしまうとその時点で剣が終わる、武器の喪失はそれだけでゲームオーバーだ、それだけは避けたかった。


 だから、そのための武器屋なのだが深夜でこの混乱、店主もどこかへ避難してしまっていてもおかしくはない。


 裏口でも見つけて、緊急事態だ!

 扉でもぶち破るか…?元の世界では軽犯罪すら犯したことない俺なのだ、それをするには抵抗があるが…


「おい!こっちだ!こっち!」


 すんでの所で強盗略奪行為を実行に移す所であったが武器屋の裏口で声がする!良かった!まだここにはグソクの侵入がないらしい。


 俺は誘われるがまま武器屋に飛び込んだ。


「オヤジ!」

「済まないが武器を!武器を融通してくれ!!」

「か、金は無い!」

「無いが、生き残ったら必ず!」

「必ず支払いに来る!」

「だから!」

「頼む!」

「武器が!武器が必要なんだ!」


 もし返事がNOならどうしようか?ちゅん助だったら緊急避難じゃ~!非常事態じゃああ!!!とか言って無理矢理にでも強奪していくところだが…


「バカげたこと言うんじゃねえ!」


「!」

(クッ!やはりそうか…)


「武器屋馬鹿にすんじゃねえ!」


 うう!

 こんな事態に於いても金か!


 金なのか!?


「この非常事に金だ!保証だ!と騒ぐほど武器屋としての矜持捨てちゃいねーよ!」


「!」


「こんな時に戦ってくれる奴から金取る武器屋が居たら!」

「そいつは今後、この街で商売しちゃなんねー!」

「好きなだけ持っていってくんな!」


 有り難い!


 熱狂に埋もれただけの様に見えたこの街でも情や義理、大切な事を忘れていない人はまだ居たのだ!

 それを感じられただけでも俺が残った意味はあったのかもしれない。


「恩に着るぜ親父!」


「それに、あんちゃん!お前…勇者なんだろ!?」


 俺が天令を受けている事はなるべく伏せていたはずだ、勇者という便利そうなブランドを前面に出して、なにかと便宜を期待するような真似をしたくなかったのと、なにより逆にその事で変な期待や要請を受けたくなかったためだ。


 それなのに、なぜ…


「え!?なんで!?」


「いや…そのよ、この街に現れた勇者は…」

「頭に変なぬいぐるみをのっけたお方だとか…」

「たまたま聞いちまってよ」


「?」

「ぬいぐるみ???」

「!」


「わしはぬいぐるみじゃないお!」

「あんな中身綿と一緒にするなお!」


「!!!」


 気が付けば俺の頭の上に心地よい重みがある!

 意識しないと乗っているかどうかすら分からない程の羽一枚の様な!


 軽くて軽くて、そして重い!


 限りなく軽く、果てしなく重い


 その重み


「ちゅ、ちゅん助!お前…」


「ふん!」

「イズサン!自分一人だけで街を救って英雄になろうなどと!」

「あまりにムシが良い話ではないかお!」


「そんなつもりでは…」


 やばい…感動した、思わず言葉が詰まり目頭が熱くなる。


「ふふふのふw」

「イズサンド・ベルだけに良い思いはさせませんおw」


「お、うう、お前…二度と間違えないんじゃなかったのかよ…グス…」


「間違えんお!」

「盤上この一手!」

「まず間抜けなたった一人の友を救う!」

「しかるのち美少女のケツを追う!」

「わしの詰将棋、二手詰み!完璧だお!」


(ちゅん助…ありがとう…)

「お前…来てくれたのか…」


「ふふふ、イズサン!」

「考えたらこの世界に飛ばされてこの姿になった謝罪は受けたが!」

「賠償がまだだお!」

「それを受け取らず!みすみすわしが逃がすとでも思ったかおw」


(ありがとう取り消し…感動台無し…)

「お前な…金持ちなのにせこすぎんか?」


「なのに!」

「ではない!」

「だから!」

「金持ちなんだお!」

「そんな事よりさっさと武器を選ぶお!イズサン!」


「お、おう!」


 奇をてらった武器は必要ない。そしてあまりに持ち過ぎると行動が制限されてしまう。


 俺は自分の使用している剣と同じ位の剣を腰に付けた。


 そうだ!弓の少女が言っていた槍、彼女の言い分はもっともだった。まだ使った事は無いが俺の肉体は若返ってる。

 使えない事も無いだろう!?俺は適当な使いやすそうな長さの槍を手にし親父に言った。


「オヤジ!ほんとにスマン!これだけ借りていく!」

「生きて帰ってこれたら必ず支払う!」


「そんな事気にすんな!」

「勇者のあんちゃん!生き残ってくれよ!」

「そして出来る事なら…」

「街を頼む!」


「そ、それは!」


「任せるお!」

「わしとイズサンは幾度も絶望的な状況をひっくり返してきてるんだお!」


「そりゃゲームの話だろ!」

「それは!だいたい生き残れるかどうかすら怪しいんだぞ!」


「わかってるお!」

「だから街の人に勇者の心の光を見せないかんのだお!」


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「頼もしいぜ!勇者!」


「だから!それは…」


また、どっかで聞いた様なセリフを…


「俺も、武器をあらかた配り終わったら必ず駆け付けるからよ!」


 武器屋のオヤジも加勢に駆け付ける意思を示した。


「イズサン!これ食おうぜ!」


「なんだよ!?いきなり!」


 ちゅん助が唐突にへんな野菜の芽のような黒い植物を取り出した。

 どっかで見たような形ではあるが…?


「グソク危機一髪のあと、道具屋とか廻って幻覚除けになる実を見つけたんだお!」


「幻覚除け?なんで!」


「黄色の奴の臭い嗅いだらイズサン暴走したお!」


「あれは幻覚じゃないだろ!?」


「同じようなもんだお!予防だお!」


「よく分からんが外に出たら食べる暇もないか…」

「よし!喰っておくぞ!ちゅん助!よこせ!」


「おう!」


 パク!カミ!

 パク!カミ!


「!」

「!」


「ぐわっ!?」

「みゃあああああああああああああああああああああああ~!!!!????」


 第五話

 その8 限りなく軽く、果てしなく重い

 終わり

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