第73話 第四話 その34 開戦当夜
ザザー
「うーむよく降るなお…」
翌朝、窓の外をしげしげと眺めてちゅん助が言った。
「わしは一昼夜監視し続けとるが一向に降りやむ気配がないお?」
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「嘘つけ!」
「これは今夜も引き続き警戒が必要だお!」
「……」
「ノルマンディ上陸作戦!この日は無い!…」
「もうええって!」
ザザザー
「おい降り過ぎじゃないかお!今日でもう3日目やぞ!」
雨だとお出かけがなかなかできない。飽きっぽいちゅん助が一向に止まない長雨にイライラしながら言った。
コイツはオタク趣味でも出かけることが大好きな奴なので退屈を紛らわすアニメやゲームが無いこの世界で部屋の中に閉じ込められると機嫌が悪くなるのだ。
ちゅん助はとにかく出歩きたいのだ…俺としてはちゅん助の散歩に付き合わされることなく怪我が癒える静かな時間を与えられるので、この雨は悪くない。
ガレッタではないが恵みの雨であった。
しかしもう丸二日以上降り続いて、今日も夜になろうとしているのに降りやむ気配が無かった。
「つまらん!寝るお!」
まだ19時前だというのに、ちゅん助がベッドに入り不貞腐れた様子で言った。
「今日は夜警しないんか?」
「は?なんの?」
「ノルマンディ上陸作戦!とか散々騒いでたろ!」
「は?おまえ、あの隊長の話、なに聞いてたんだお?」
「雨と夜!」
「グソクが動きを止める二大要素が揃ってるのに!」
「警戒を厳に!とかアホかおw」
「人生は締める時は締める、緩める時は緩める!」
「宮本武蔵でもなんたら太夫に琵琶を割って諭されたんだお!」
スパーン!
「お前が言うな!」
まったくあれだけ人には危険だ危険だと騒ぎ立てておきながら、まさに三日坊主。つまりはちゅん助は警戒するという事に飽きたのだ。
そう昔からちゅん助は、まさにファッション危機管理と言う言葉がピッタリな、まさに危機に備えてる俺カッコイイ!を具現化したような男なのだ…
まあ、騒ぎ立てられるよりは大人しくしてくれた方が都合がいい。俺はそれ以上何も言わずちゅん助に習って今日は早く寝ることにした。
代わりに、という訳ではないが一応外の様子を窺っておくか、雨雲の様子は幾分薄くなっている気がする。
それにいてもあの伝承…
「姿見た者」
「怒りに触れて」
「王は追う」
まったく…厄介な伝承を残してくれたものだ、都合悪き事この上なし!姿を見た者を追って来るとか、もし懸念が現実になったとしたら…9割方
戦犯扱い濃厚!
なのだ!wwwww………笑えない…全く、話すんじゃなかった…
治癒士との面談まであと10日足らず…怪我を癒すのには丁度いい療養時間に思っていたが、あの伝承を聞いた今では10日間がとんでもなく長い日数に思えてきた…その日までは何事も起きないでくれ!
そんな事を念じながらもう一度、窓から外の様子を見る、薄くなったであろう雨雲から供給される雨が減り、小降りになっている様だった。
遠くにはこの街をしっかりと囲む石垣造りの防壁が見える。高さはどこも数メートル、城の様なとまではいかなくてもちょっとした砦よりは遥かに立派な防壁がこの街全体を囲んでいるのだ!
伝承の蟲の王が居たとしても大砲でも持たない限りはこの石垣が破られるとは考えにくい、いにしえに滅ぼされたとされる街だって大昔なのだ、こんな立派な防壁など無かったのだろう。
これが破られるなんてことはない!街は大丈夫だ!
そう言い聞かせて俺は床に就くことにしたのだった。
だが、心配だ…
なぜか胸騒ぎがする、確認しても仕方がない事だが、ついつい防壁を見てしまう。
これが破られるなんて事、あるのだろうか?元の世界の熊や象が突進しても、いや乗用車程度ならびくともし無さそうなのだが…
「まさか!まさかだよな…」
思わずそう呟いて改めてベッドに入るが人生には登り坂、下り坂、そして…
まさかがあるのだ…
第四話
その34 開戦当夜
終わり
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