第65話 第四話 その26 唄

「ふうだお…」


 ちゅん助は、ガリンの街の人工的に作られたであろう小川のある広場を訪れ、岸辺の石にちょこんと座っていた。


 小さい体がことさらに小さく見え、やはりかなりショックだったようだった。


 小川はゆっくりと流れ、これまた人工的に作られたであろうそこそこ大きな池へと流れ込み、池には10数羽のアヒルが群れを作って優雅に水面を行き来していた。


 アヒルの群れは楽しそうに、そして優雅に泳いでいた。殆どのアヒルは一団となって移動していたが、一匹のアヒルだけが群れの後を必死で追って、追いつこうと泳いでいるのだが不器用なこの一羽は、追いつくどころか群れからどんどん離れ、それでも一生懸命、追いつこうともがいていたが群れは離れていく一方であった。


 そしてその不器用な一羽はとうとう群れに追いつく事を諦め、離れた場所で静かに一人寂しく漂うのだった…


 ちゅん助はその一羽をずっと見つめていた。


「ふうだお…」


「よう!負け犬クン!川辺で佇むなんて、似合わないことしてるのね!」


「ぴよぴよ居たぽ」

「ぴよぴよ元気ないぴゅ」


 ちゅん助は、『ぼくのかんがえたさいきょうのびしょうじょ』が傍にやってきたというのにいつもどおり飛びつきもせず、チラリと一瞥しただけで再び視線を小川へと戻す。


 街の外ではグソクで大騒ぎが続いているのに、この小川一帯だけは緩やかに水と時間が流れていた。


 少女はそれ以上何も言わずに、ちゅん助の隣に座った。


 暫くすると、少女は右肩のコの字の弓を取り外すと胸に抱えた。旋風が揺らめくと、空気の弦が張られる。弓を展開するための弦ではなかった。


 ポロンポロン


 少女が風の弦をはじくと、美しい音色が発せられる。


 弓でなく竪琴。


 静かな美しい旋律を奏で、少女が歌い出した。


 天使の歌声!とか普段の声とがらり変わるプロ歌手の様な発声!と言うわけでなかったが美しい声であった。


 抜群の歌唱力がある!


とかそう言った類の歌声ではなかったかもしれないが、やけに聞かせる歌声だった。それは多分、歌のテクニックが云々というより、少女の歌には、声にはやけに感情が籠り、乗っていた事からくるものなのかもしれなかった。






 目の前の道を、これしかないって歩いてきたけど

 やりたい事とやらなければならない事がいつも違うわ哀しいわ


 でも進むしかない


 私にはそれしかできない


 選ばなかった選択肢

 選べなかったあの道も

 選んでくれなかったあの人も

 遥かに過ぎてた分かれ道

 気付かなかった可能性


 それは無かったのと同じ


 この先は行き止まりと言われたら、あなたは引き返す?

 それでも私は歩いていくわ、行き止まりをこの目で見ておきたい


 思ったようには生きられない

 満足も幸せも得られないかもしれないけど

 たった一つ手に入るものがあるわ


 この目で確かめさえすれば、それが分かると思うの


 私も貴方もみんなも、それを探して歩いてるのかもしれないわね





 ちゅん助を気遣って歌ったのか?自分自身に言い聞かせるため歌ったのか、あるいはその両方だったのか…


 炎と風は少女の両肩でうっとりと歌に聞き入り、


 ちゅん助の目に光るものがあった。








「まあ!あれよ!あんたはドスケベで変態だけれども!」

「手触りだけは悪くないわ!」

「いいえ、むしろ手触りだけなら凄く心地いいわね!」

「だ!け!は!ね!」

「どうして中身はこうも腐ってるのかしら?」

「あとアクリムのえげつないやり方!」

「イズサンだっけ?彼から聞いたけど」

「えげつないやり方!」

「だけど!むしろ感心したわ」

「よくもまあ、あそこまで狡賢い事考えられる物ね」

「ある種、才能だわ!」


「あと、あんまり言いたくないんだけれど」

「私達、遠距離攻撃には絶対の自信持ってた!」

「それは射程とか精度だけの話じゃない」

「感知とか位置取りとかそう言うの全て含めた立ち回りでね」

「だからどんな相手でも!」

「絶対に懐に入れない事に最大限注意を払ってたの」

「でもあんたときたら!それを易々と掻い潜って!」

「腹が立つったらありゃしない!」

「つまり!アンタはペットにしては出来過ぎ!」

「でたらめな程の能力持ってると思うわ!」

「認めたくないけどね!」


「でも!調子に乗るんじゃないわよ!」

「次、相まみえることがあったらホントに容赦しないし、こっちも対策、考えるからね!」

「あとこれ、あんたの通信石!確かにアンタは助ける必要なかったみたい、それは認めてあげる」

「でもね!ご主人様たる勇者さんの命を救ってあげたのは間違いない!」

「そこはアンタではアイツを救えなかったのも事実だからそれは感謝してもらうわ!」

「だから使った精霊石の代金と救命代金」

「あと!これが一番高いんだけど!」

「胸やお尻をいいように触ってくれた分!」

「この分は絶対請求するわ!」

「という事で、残高の半分は頂いたわ!残りは返してあげる!」


 少女はちゅん助の前に、ちゅん助の通信石を無造作に置いた。

 ちゅん助は通信石を見つめた後、じっと少女の顔を見つめた!


「なによ!文句あんの!?」

「言っとくけど!最後の請求だけで全額没収でも足りないんだから!」

「出血大サービスよ!」


「サービスぽ!」

「サービスぴゅ!」


 ちゅん助はさらに少女の顔をじっと見つめた。


「な!なによ?」


「という事はだお?」


「だから!なによ!?」


「残りの半分を差し出せば、もう一度抱き付いても構わんと…」


 グシャ!

「ぐえあ!」


「アンタ!話聞いてた?」


 少女は足でちゅん助を踏みつぶして言った。


「うぐぐ!金で買える女だったら、値段の付く女だったら!」

「そこまでの価値しかないお!うぐぐく、苦しい!」


「ふん!仕方なく!後付けの値段設定だから!仕方なくでしょ!」


「うぐぐ、美少女のぴっくざちぇりー、ぷらいずれす…ますたーずかーど…」


「まあそういう事よ!次は無いわよ!じゃあね!」


 少女はそう言うと、炎と風と連れてその場から去って行った。

 去って行く後姿をずっと見つめて、ちゅん助は後姿も美しい罪な女だお、ちゅん助はそう思った。


 第四話  

 その26 唄

 終わり

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