第46話 第四話 その7 大火力

「一度しか言わないからよく聞け!」

「伝言があるッピュ!一度しか言わないからよく聞けッピュ!」


「この間抜け!2回も助けてあげたのに!なにノロノロやってんのよ!」

「この間抜け!2回も助けてあげたのに!なにノロノロやってんのよ!ピュ!」


「良い事!?特別に大っきいの使ってあげる!でも二発しかないから!それでも逃げられなかったら諦めなさい!」

「良い事!?特別に大っきいの使ってあげる!でも二発しかないから!それでも逃げられなかったら諦めなさい!ッピュ!」


「死にたくなかったら死ぬ気で走りなさい!分かったわね!?この間抜け!」

「死にたくなかったら死ぬ気で走りなさい!分かったわね!?この間抜け!だそうだっピュー!」


「伝え終わったわね?」


「ハイだっぴゅ!」


「大きいの使ってやるっぽ?使ってやるっぽ?」

「使ってやるっぴゅ?使ってやるっぴゅ?」


 風と炎が悪戯っぽい声で少女の周りをクルクルと舞い踊る。その声は嬉しそうでもあった。


「あーもう!これとんでもない大赤字だからね!」

「あの間抜けを助けたら尻の毛まで毟ってやるから!」

「とにかく脱出経路作ってやりゃいいんでしょ!」

「ったく!今度こそ!ちゃんと逃げなさいよ!」

「じゃあ!」

炎陣風龍エンジンブロー!行くわよ!」


 少女はそう言うと、腰の矢筒からひと際矢尻が赤く光る矢を取り出すと弦につがえ弓を引き絞った。


「これは跳躍リープ出来ない…届けるまで時間がかかるんだから…」

「それまでに喰われるんじゃないわよ!あの間抜け!」


炎陣風龍エンジンブロー!」


 バシュ!


「発火!」

「ッポ!」


 放たれた矢が火を噴いてすっ飛んでいく。明らかに弓による投射エネルギーだけではなく、矢自体に推進力があった。


「あそこまで180秒ってところかしらね…」

「それまで死ぬ気で逃げなさいよ!」


 風連図フレンズは必死で足を引きずりながら逃げる青年達の映像を映していた。


「あの間抜け、何とか頑張ったわね、そんじゃあ!」

「セパレート!」


 少女が叫んでパチンと指を鳴らすと30km以上の距離を駆け抜けた矢が二つに分離し、青年達の上空を追い越していく。


双龍そうりゅう!点火!」

「ッポウ!」


 青年達を追い越しざまに二つに分離した矢は、地面に炎を吐きながら進んでいく。

 上空から見ると、それは二匹の龍が炎を吐き出しながら飛んでいる様だった。

 龍が通った後には、炎の壁に挟まれた道が出来ていた。


「さあロードトゥサバイバル、道は創ってやったわ!」


「あいつら助かるっぴゅ?」

「助かるっぽ?」


「さあね?どんくさいから無理かも?」


「灰色たちがまた動きだしたッポ!」


 炎の壁の外側のグソク達は青年達の出口で待ち伏せをするためか?

炎の道の出口へと向かって一斉に動き始めた。


 明らかに統率された動きだった。


 いくつかの個体は炎を恐れず、炎の壁に挟まれた道の中へと侵入していくものもあった。


 退路を断つべく明確な意図を持った追撃部隊であった。


「あれじゃあどっちが討伐隊なんだか…」

「でも、あんなグソクの動き…見たことない…」


 少女は風連図フレンズから視線を外すと、すうっと息を吸って言った。


「まあ、おかげで最後の一発、おあつらえむきの状況が出来そうね!」

「でも距離が足らない…詰めるわよ!」


 少女はコの字を肩に取り付けるとマントを翻して全速力で駆け出した。

 その駆ける速度は風の様に速く、また走る姿はアスリートの様であった。


 平地はスプリンター、岩はハードル走よろしく飛び越えて、谷は走り幅跳びの要領でグングンとスピードを上げて青年達の姿を追った。


「でぐちでもの凄い数のむしがみっしゅうしはじめたっポ!」


「あの蟲共もしつこいわね!」


「でもあれだけまとまったって事はっピュ!?」


「察しが良いわね、一網打尽、一攫千金、いーえ一攫億虫よ!」


「流石!ご主人サマっポ!」


「ふふん、戦いってのはね、いつも二手三手先を読んで行うものなのよ!」

「でもまだ距離が遠いわ、最後の締めは半分以上距離を詰めとかないと!」

「あの間抜け!これだけ人を走らせて、炎の中で焼かれたり喰われたりしたら承知しないわよ!」


 少女の疾走が続いた。


 山岳部をあっという間に抜け平原へ躍り出るとその速度をさらに上げ長距離走なのにスプリント以上の速度!


 あっという間に距離を詰めた少女は足を止めた。


「流石にここからならイケルでしょ!」

風連図フレンズ!上から曲げて!」


「ッピュウ!」


 少女の最初の攻撃位置に比べて今の地点は遥かに低かった。小丘や起伏に阻まれ、青年達の姿を直線距離で望むことは難しい。


 少女が叫ぶと旋風は上空に波打つ対物レンズを展開させ、接眼レンズを少女の顔の前に展開させ俯角での映像を映した。


 潜望鏡を兼ねたかのような巨大望遠レンズ。 


「そろそろ出て来ても良い頃よね、まさかやられてないわよね!?冗談じゃないわよ!」


「来た!出て来たっポ!」


「良かった!伝声!最後の伝言よ!」

「最後の伝言だっピュ!」


「この間抜け!鈍間にしてはよく頑張ったわ!褒めてあげる!最後の一発だから伏せてなさい!巻き添えになっても恨まないでね!」

「この間抜け!鈍間にしてはよく頑張ったわ!褒めてあげる!最後の一発だから伏せてなさい!巻き添えになっても恨まないでね!だそうだっピュー!」


「さあ最後よ!」

墜落火星ピーナッツ!」


 少女はひときわ赤く輝く矢尻を持った矢をつがえ仰角で天空に放った。


「発火!」

「ッポ!」


 ゴオッ!


 これまでにない大きな炎を吐きながら、さながらロケットの様に矢が空を駆け上がっていく!


 高高度に達したロケットが次第にその昇り角を緩やかにしたかと思うと今度は放物線で落下に入った。


 重力に逆らっていた矢は逆に重力を得てグングン加速し、瞬く間に高度を下げていく。


 高度300m!


「落火!」

「ッポオ!」


 パチン!


 再び少女が指を鳴らすと、真昼間でも鮮やかに目に焼き付く程の凶暴なまでに美しい花火が青空に咲いた。


 第四話 

 その7 大火力

 終わり

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