第24話 第二話 その3 ライジャー流

「!」


「なんか居るおイズサン!」


「わ、分かってる!」


 うわずった声で答えると剣の柄に手を掛けた。


 ガサガサガサッ!


「ウウウーーー!」


「!」


 隊の先に飛び出してきたのは禍々しい瘴気をうっすらと纏った犬型の幼人獣であった。


 確かに普通の犬ではない!一目見て魔物と分かる風貌をしている!


「普通こういう時、飛び出てくるのはウサギかネズミの小動物なのにいきなりかお!」

「お話の約束を守って欲しいお!」


「なんの約束だよ!」


 そうは言ったが正直ちゅん助と同じ感想で出来れば遭遇したくなかったのにいきなりの幼人獣でこちらも心の準備が出来てない、そんな事情を知ってか知らずか


「丁度いい、お前やってみろ」


とトニーガが無茶ぶりしてきた。


「は、はい~⤴お、俺がですかあ~⤵」


 思わず間抜けな声を出してしまった俺にキッとした感じでトニーガが睨んだ。


(愛する者が襲われた時でも同じように言うのか?)


 町で言われた事を思い出し逃げ場なんてない事を思い出した。


「な、なにか武器は無いのかお!」


「いやちゅん助君!俺さっきから剣握ってるし!」


「頭の上から降りてろ!」


「タイムトゥハント!狩りの時間だお!」


「何でお前がかっこよく言うんだよ!」


 そう言って俺はちゅん助を取り除くと剣を抜き両手で握った。俺の構えを見てトニーガが


「お!?」


そんな感じで見ていたが何故かは良く分からない。剣の扱いと言ったら中学体育の授業で習った剣道くらいしかないのだ。


 幸い飛び出て来たのは幼人獣1匹でトニーガが見守ってくれており他の隊員は周囲の警戒に当たってくれている。考えれば初戦としてはこれ以上ない条件だ、そう考えてでも覚悟を決めねば…


 思っていたより大型犬クラスの大きさはあるものの幼人獣は小さく感じた。トニーガがいる以上、命までは獲られんだろう…


ええい!ままよ!


「おらあ!面!」


 剣を上段から幼人獣目掛けて振り下ろす!


「ギャウ!」

スタッ!


「クソ!」


 思いっきり斬り付けたつもりだったが幼人獣は軽いステップでサイドに簡単に躱すとすぐに攻撃態勢を整えた。


 ブンブンブン!


「クソクソクソ!」


 やられる前にやる!そう言わんばかりの勢いで剣を振り回すが縦に振ろうが横に振ろうが切れるのは空ばかりで直前まで届きそうでも即座に躱されてしまう。


「幼人獣のくせにー!いい加減くらえや!」

「やあー!」


 ガッ!


「あ!」


 渾身のバットスイング軌道で斬り付けたが図ったかの様なバックステップで躱された上に剣は全力で樹に当たり刃がめり込んでしまった。


「ギャウギャウ!」


 今まで避けに徹していた幼人獣が、ここぞとばかり攻勢に転じ飛びかかってきた。


「わああああーーーーー!や、ヤバい!」


 慌てて樹に捕らえられた剣を外そうとするが上手くいかない、あっという間に幼人獣は目の前に迫りその攻撃が!


 ズシュ!

「ギャン!」


 幼人獣の攻撃が確実に俺の顔面を捉える寸前、いつの間にか間合いを詰めていたトニーガの剣が一閃!正確に幼人獣の首を突き刺した。


「あ、ああ~助かりましたあ~⤴」


 思わず尻もちをつく俺。


「まったくノボルク流の構えを取るからどんな腕利きかと思ったら…」

「イズサン!お前生兵法は怪我の元どころか命を失うぞ!」

「どこで聞きかじったのか知らんがお前みたいな駆け出しに異常に多いんだ!」

「基本の基たるライジャー流もまともに使えない癖に、恰好だけでノボルク流剣術を振り回したがるガキがな!」


「ぶわーはっは!」

「おーこられたーおこられたー♪いーずさんがおこられたー♪」


 遠巻きに見ていたちゅん助がムカつくリズムで楽しそうに囃したてる。


(あいつぅ!)


 イラっとして睨み付けるがちゅん助は全く悪びれていなかった。


「オイ!ド素人!よそ見してないでさっさと剣を抜いて持ち場につかんか!」

「あと剣は振り回すな!突け!突きこそライジャー流の基礎だぞ!覚えておけ!」


「そうやぞ!イズサン!」

「おまえ何うぬぼれて剣振り回してんねん!」


「くそっ!ちゅん助!お前どっちの味方だよ!」


「お答えします、わしは常に強い方の味方だおw!」


(あ~の~やーろー!!!!)


 他人事だとちゅん助はいよいよ調子付いていた、後で一発食らわさんと!


 ガサガサガサ!

 バババ!


 トニーガが幼人獣を刺したのを契機に、潜んでいたであろう10匹以上の幼人獣が飛び出してきた。


「ひえー!いっぱい来たお!」


 慌ててちゅん助がトニーガの足元に駆け寄った。俺の元に来ないところがまたにくったらしいたらありゃしない!


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「剣が取れたら後ろでちょっと見てろ!」


 そう言うとトニーガが幼人獣の群れへ颯爽と歩を進めた。俺は何とか剣を取り外すとその後ろに続いた。

 トニーガが腰を落として片手で剣道よりフェンシングに似たスタイルで剣を構える。


「いいか!剣術はライジャー流に始まってライジャー流に終わる」

「そいう言われてるほどこの剣は優れているんだ!」

「ライジャー流は突きが主体の剣術!見ていろ!」


 トニーガの構えはまさに達人といった品格で隙も無駄もなかった。さっとすり足で歩を進めたかと思うと鋭い突き、斜め下に一閃!俺があれほど剣を振るってもかすりもしなかった幼人獣が躱す間もなく串刺しとなった。


「す、すごい!」


「速いお!」


「ウウウウ…」


 幼人獣もこれまでの相手とは空気の違いを感じてむやみに間合いを詰めずトニーガを囲む形となりつつあった。


 しかし


「ライジャー流は先の先を取る流派、待ちはしない!」


 そして、風のようにするりと歩を進めるとまた一!!さらに一閃!次々と攻撃が当たっていく。


 幼人獣はさらに警戒し各々が細かくサイドステップを踏み始め何とか攻撃を躱そう、攻撃できる位置に付こうと移動するがトニーガはそれを許さない。


「こちらも常に移動しろ!」

「真っすぐ進むな!」

「真っすぐ下がるな!」

「常に相手の側面、死角を獲るべく位置を変えろ!」

「こちらが攻撃出来ても相手は出来ない、そういう位置に常に動け!」


「膠着したら誘いの突きで崩せ!」

「移動し誘い崩して、そして仕留める!」

「最速の剣技は突きだ!斬るな!突け!」

「突きを主体とするライジャー流は一対一」

「一対多どちらにも対応でき、体力消耗が少ない突き技だから持久戦にも強い!」

「最も優秀な流派と言われているんだ!」

「ノボルク流を軽視するわけではないが強力な魔物でも相手にしない限り必要ない!」

「とくにお前みたいなひよっこにはな!」


「そうやぞ!イズサン!わしはわかってたお!」」


「うそつけ!だいたいヒヨッコはお前の方だろうに!」


「は?」

「わしは鳥じゃないお!」

「あんなケツの穴に指ツッコまれて性別判定されて屋台でペンキ塗られて売られる可哀想な奴らと一緒にするなお!」

「それにわしはボクシング観てるからしっとるんだお!」

「世紀の一戦と言われた薬師堂対虎吉戦だって」

「線と円の戦いで滑らかな円の勝ち!」

「とかほざいてた識者に反論して!」

「円より直線の方が速く届くお!線の勝ちだお!」

「ってわしは言ってたお!」


「そりゃお前、薬師堂が地元出身だったからそう言ってただけだろうが!」


「とにかくジョー!」

「ジャブやジャブを出すんや!」

「死にたくなかったら常に左ジャブを差し込んでクレメンス!」


「あほか!誰がジョーや!」

「そして俺は右利きだっての!」


「お前ら!」

「おしゃべりはいいから集中しろ!」

「奴等は群れてる、次々来るぞ!後ろは任せる!」

「やってみろ!」


「は、はい!」


 俺はトニーガと背中合わせになる格好で再び剣を構えた。


「よいしょっと」


 剣を振りかぶらないと分かったちゅん助がまた頭上に陣取ってきた。第二ラウンドの開始だった。


「いいか!威力は求めるな!求めるのは常にスピード!最速で突け!」

「はい!」


「待つな!自分から仕掛けそして崩せ!」

「はい!」


「突いたら即戻しを意識しろ、戻しを!」

「はい!」



「肘を支点に牽制の突きは8割!」

「仕留めに行く時は9割!」

「次弾に備えてここぞ以外は突き切るな!」

「はい!」


 次々と飛ぶトニーガの指示に必死で答えながらなんとか後ろを守る。仕留められないまでも言われた通りにすると確かに牽制は出来た。


「攻撃を受けたらまともに受けるな!」

「撃ち合うな!あくまで衝撃をずらし受け流しを意識しろ!」

「受け流しさらに攻撃位置に移動すれば相手は崩れる!」

「其処を仕留める!」


 シュバ!

 ザシュ!

 ヒュン!

 ザシュ!


 トニーガの鮮やかなバックとフォアの受け流しの振りからとどめの突きが連続で決まる!ゆったりとして焦りブレなど微塵もない早業なのに鮮やかすぎてスローモーションの様にすら見える。


 俺はというと…受け流すどころか防御の時点で、こっちの体勢が崩れる始末…


「グウウ!」


「あ!」


 ズシュ!


 トニーガが受け流した1匹がバランスを崩した状態で目の前に現れ、俺は反射的にその個体を仕留めた。


「ほう、初の獲物だな?」


 皮肉たっぷりにトニーガが言う。


「コバンザメ殺法炸裂だお!」


「聞こえが悪すぎるぞ!その名前!」


 どんな形でも1匹は仕留めた!その事実が俺を勇気付け強気にさせた。


 この流派は先制する必要はあるが無理に仕留めに行く必要はないのだ。指導を受け戦ううちに何となくつかめて来る。


 今日、この状況の場合、自分が崩し切る必要もないのだ。ちゅん助のネーミングは悪意があるが一理ある。トニーガが崩した奴を狙えば!


 ザシュ!ザシュ!


「ふん!ずいぶんと要領が良いな?」


「ハイエナ戦法炸裂だお!」


「お前…怒るぞ?」


「イズサン!集中!はよ死肉を漁れってw」

「今日の飯が食えんぞ!わしの分まで稼いでクレメンス!」


「だったらもっとましな名前つけろや!」


「パラサイト剣術!」


「もっと悪くなってんだろ!」


 ちゅん助の悪ふざけには困ったものだが要領を得た俺は順調に狩っていった。もっともトニーガにすれば俺なんて必要なかったが…


 狩り進み、隊の者と順調に合流し一帯の幼人獣は駆除できた、そんな時だった。


 ズー!


 ぬうっと幼人獣より巨大な影が林から抜け出て来た。ほぼ完全な二足歩行、人獣だ!成人獣だ!一目で分かった!


 デカい!


 今までの奴とは大きさも威圧感も比べものにならない!


 第二話 

 その3 ライジャー流

 終わり

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