036 異世界人
「貴方は……」
視界の中に現れた己の常識から外れた異形。
その姿にマグが戸惑っていると、トカゲ人間とでも言うべき存在は口を開いた。
「俺の名はケイル・サジエス」
男性の声色による自己紹介。
しかし、そのまま性別を受けとめていいものか迷ってしまう。
「三十二歳、男だ」
表情から考えを読んだのか、あるいはよく質問されるのか続けて告げるケイル。
とりあえず彼と認識して問題なさそうだ。
「俺もお前達と同じ稀人だが、こことは異なる世界から転移してきた人間だ。更に細かい分類では異人となる。元の世界では鱗人と呼ばれていた」
「異世界……」
時空間転移システムは異次元から特殊なエネルギー
その影響はこの宇宙に留まらず、別の世界にまで及んでいるらしい。
地続きの世界の過去から転移してきたマグは旧人。
全く別の宇宙から転移してきた者は異人。そういうことになるようだ。
いずれにしても、言語を介して意思疎通できるのであれば外見は問題ではない。
何せ、機人と愛を育んでいるマグだ。
さすがに驚きはしたものの、異形の存在と対等に接することに拒否感はない。
「よろしくお願いします」
だからマグは気を取り直し、アテラと一緒に頭を下げた。
それから顔を上げ、軽く話題を振ってみる。
「ええと、探索者として主に活躍されているとのことですが……」
「ああ。元々危険なダンジョンに潜って宝を探すような仕事をしていたこともあってな。
「ケイルさんは威力の高い放出系の
補足するようにトリアがにこやかに告げる。
特別言及する以上、
となれば、実質二つの戦闘用スキルを持っていると言っても過言ではない。
少なくともマグ達よりも、分かり易く戦闘職に適性があると見なせるだろう。
「では、早速移動しましょうか」
立ち上がって受付の奥から出てきたトリアに促され、歩き出した彼女の後に続く。
向かうのはASHギルドの端の方にある扉。
どうやら、そこに件のシミュレーターがあるようだ。
「こちらです」
その扉を片手で開けたトリアが残る手で中を指し示す。
見ると、街の管理者と会った場所を思い出させる真っ白な空間が広がっていた。
異なる点は部屋の中にものが何もないこと。
四方の壁も天井も床も全て純白で、中心まで行くと方向感覚が狂ってしまう。
「VRギアとかはないんですか?」
「ええ。必要ありませんので」
トリアが微笑みと共に答えた正にその瞬間。
彼女の言葉を証明するように、周囲の光景が一瞬にして切り替わる。
直後。マグは自分が見知らぬ薄暗い通路に立っているのを認識した。
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