019 ヒンドランの目的
「大丈夫でしたか?」
ヒンドランの姿が視界から完全に消え去った後。
窓口の奥から出てきたレセが、そう事務的に問いかけてきた。
それを受け、アテラが黄色に染めたディスプレイを彼女に向ける。
「心配して下さるのなら、助け舟を出して下さってもよかったのでは?」
「申し訳ありませんが、途中までは法的に問題ない単なる交渉でしたので」
質問に質問で返したアテラに、レセは特に悪びれることなく答えた。
実際、いくらマグからすると悪徳商人という印象以外ない男であっても、さすがに公共施設の目立つ場所で初っ端から不法行為に出るはずもない。
彼女の言う通り、アテラを買おうとすること自体に違法性はなかったのだろう。
すげなく断られて激昂し、掴みかかってきた時点で正当性は崩れたようだが。
「それより、俺の方が罪に問われたりしませんか? アレ」
たとえ最終的にヒンドランの行動が不法になったとしても、図らずも彼に対して加えてしまった報復は過剰防衛や傷害に当たりかねないのではないか。
そう危惧したマグは、子供のように成り果てた彼の手を思い出しながら尋ねた。
すると、レセは何やら端末を確認するような素振りを見せる。
「……問題ないようです。手配はされていません」
それから彼女は顔を上げ、そう保証してくれた。
この時代。小さな揉めごとでも犯罪ならタイムラグなしにお尋ね者になるらしい。
端末を通じてリアルタイムで情報が共有されているのだろう。
「恐らく、明確に傷を負わせた訳ではないので犯罪にはならなかった、といったところでしょう。あちらも罪に問われていないので相殺されたのかもしれませんが」
「そうですか……」
この街の法律は分からないが、いきなり犯罪者にならずに済んでマグは安堵した。
と同時に、その辺りも調べなければと心のメモ帳に書き込んでおく。
そうしている間に、アテラが気になったところがあったのか小さく手を挙げた。
「ところで、EX級アーティファクトが高く売れるというのは? 嘘ですか?」
「ああ。それについては本当ですよ。この街の管理者でいらっしゃるメタ様がアーティファクトランク:EXの物品を収集していますので、その関連で」
「街の管理者……地方自治体の首長みたいなものですか?」
「いえ。現在の街は各々独立した国のようなものなので、国家元首が近いですね。それも、権力が一極集中しているので独裁国家レベルの」
アテラが続けた質問への返答を聞く限り。
金銭は勿論のこと、権力者とのパイプを得る目的も彼にはあったに違いない。
そしてそれは、強引な方法を取ろうとする程度には価値のあるものなのだろう。
となると……。
「もしかすると、また接触してくるかもしれませんのでお気をつけ下さい」
「……分かりました」
マグは嫌なフラグが立った予感を抱きつつ、今度こそ職業斡旋所を出たのだった。
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