第22話 チャイルド・プレイ

パイロンと如月は、これまでにあったことを

屋上で話し始めた。


『で、トラックでつっこんで・・・ちょっとだけど、

とてもいい人だったのがクマさんで申し訳ございません。』


え?・・・じゃぁ・・・私。。。

その人の頭を鉄の棒でブッ刺した・・・

なんて言えない・・・


そう、頭の中で思いつつも如月は笑顔で

『その人の為にも生き抜かなきゃね!』

と、シャーシャーと答えた。


『あ、でもそのお地蔵様に助けられた・・・

って考え方もアリだよね、なんつーの、望み持てるじゃん。

つか本心としてはお地蔵さんが歩き出して、バッカンバッカン

ゾンキーぶん殴ってさ!低い声でさ、どーぞお行きなさい~

ここはわたしにまーかーせーてーとか言っちゃってー』


『睦月それバカにしてない?』


『しーてーまーせーんー』


『絶対バカにしてるよね!』


『いあいあ、でもさぁ・・・その橋での約一時間のズレ?

それがなきゃまだ出会ってないんだよねきっと。

私が後から通ったのにパイロンより先で寝てるとか、

パイロンが色々と遠回りしたとか、そんなこう・・・

ね、ガーッつってバーッて運命がドーンなんだろうね』


『ふふふ、その擬音、ずっと聞きたかったよ』


『パイロンそれバカにしてるよね!』


『しーてーまーせーんー』


静かな笑い声が夜空にそっと舞い上がった。


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『羽鐘ちゃん、スタジアムには何人来るんじゃ?』


虎徹が羽鐘に興味津々に聞いてきた。

『こてっちゃん女子高生好きなの?』


『あ、あぁいや・・・まぁその・・なんだ・・・なぁ、いいもんじゃないかピチピチの・・・あ、いや、うん・・・』


『とびっきり可愛い子が2人くるから、死なないでよこてっちゃん!!!』


『おほーそうか!可愛いのか!うぬ!そりゃ死ねないのう!』


夜になることを懸念し、寝床の確保を考えていた2人。

大きなガラス窓が居間にない家・・・なるべくなら頑丈そうな家・・・

何より入るのを見られてはいけない。

ゾンキ-は音に反応するが、目が見えないわけではない。

先ずは音に反応する、それだけだ。

音の次に目も使う、見えないモノも居るのは確かだ。

当然のことだが、生前に目が不自由だとしたならゾンキーになれば目は見えない・・・確固たる確証はないが。

しかしこのゾンキーは感染すると聴覚に影響するらしい傾向にあるようには見える。つまり『音』への執着が見て取れるのだ。

見られずに隠れることができたなら、

音さえ立てなければなんとかなる・・・


いや、ならない。


次は臭いだ。

感染により、臭覚が鋭くなるらしいのだ。

調べたとか聞いたと言う話ではないのだが、逃げながら戦いながら、その習性を理解して導き出した答え、いや、この場合は【予想】と言うべきか。


『あ・・・ここ・・・』


気が付いたら【チャイルドプレイ】の前に到着していた。


亡き両親のバンドメンバー、チャッキーの経営する

スタジオ兼自宅である。

一晩お世話になるには頑丈過ぎるほどの建物で、まさに大満足の物件なのだった。チャイムも押せないし、ノックもできないので周囲を探りながら中の様子を伺う。


人の気配はなかった。

『ねぇこてっちゃん、気になっていたんだけれど、街灯がつくって事は電気が来てるって事だよね?』


『そうじゃのう、まぁこれだけ進歩したシテーじゃ、予備電源とか、ソーラーなんとかで蓄電しとったのかもな、災害用に。』


『災害・・・かぁ・・・』


ボソッと呟くと、ドアに手をかけた。


カチャ・・・


『あれ・・・開くじゃん・・・』


キィ・・・

『こんな展開って大体危ないっすよね…』


【ハァイ!アイムチャッキー!ハイディホー!ハハハハハ】


『うわぁ!!!!!びっくりした!!!!!』


『趣味悪いチャイムじゃのう・・・』


ガチャ・・・カラン・・・


『し!こてっちゃん・・・なんか居る…』

『そのようじゃの・・・・ここはワシに任せい。』

『任せいって、公民館で私にやられそうになったじゃない!』

『ありゃ策だ、油断させて相手の出方を見たんじゃ、それに・・・』

『それに?』

『女の子に殴られるなんてなかなか無いでの!』

『飽きれた・・・』


虎徹を抜く虎徹、シャリッと微かに鋼が鞘に触れる音がした。

静かに呼吸をし、右に構えて腰を落し、やや前傾姿勢を取った虎徹。

虎徹の構える虎徹は虎徹の鋭い眼光を受け止めたように、

キラリと光るのだった。虎徹の切先を少し前に傾けた虎徹、

虎徹は一歩前に進み、物音がした扉を蹴り開けた。


しかし暗闇で中はよく見えず、虎徹は虎徹を握りなおした。

虎徹を小指から順番にピアノを弾くように握ったのだった。

虎徹は少し額に汗を浮かべ、じりじりと前に進んだ。


この緊張感に羽鐘は『はよ行けや!』とは言えず、

まさかに備えてハンマーを握った。

羽鐘の構える鋼のハンマーと、虎徹の構える虎徹。


そこへいきなり何かが飛び出してきた!

『ウォオオオ!!!!』

その手には映画【チャイルドなプレイのチャッキー人形】が

握られていた。虎徹が即座に半歩下がって

振り下ろされたチャッキー人形を避け、虎徹は切先を優しく

ツン!と下から切り上げると、チャッキー人形の首が落ちた。

『うわああ!俺のチャッキーの首を斬りやがった!

この腐れジジィが殺すぞコラ!』


『あれ?チャッキーさんじゃない?』


その鋼のハンマーを握った羽鐘の声は聞こえず、

この家兼スタジオの主チャッキーは、

右手にチャッキー人形の足を掴み、虎徹を握る虎徹に、

そのチャッキーを振り下ろす!チャッキーのチャッキー攻撃を、

軽いステップでかわし、虎徹は虎徹を半回転ひねって、

外側から内側へ数字の9を書くような軌道で振った。

チャッキー攻撃をかわされたチャッキーは虎徹を振る虎徹の

滑らかな切先を間一髪でしゃがんで避けた、もう一度チャッキーを

握りしめてチャッキーの反撃!チャッキーの振り上げるチャッキーは

虎徹の刃の軌道に合わせて、虎徹に向かってチャッキーを

チャッキーして虎徹はその虎徹で、羽鐘は鋼の・・・


『やめーーーい!なんか想像しちゃったわ、ややこしいわ!

さっきからずっとややこしいっす!』


『おう?羽鐘じゃねぇかよ』


『なんじゃ、こやつが言っとったチャッキーか、

殺すところだったわい』


『うるせぇぞナマハゲジジィ!だれがてめぇなんかに

殺されっかよカメムシハゲが!』


『ナマハゲは良いがカメムシハゲはゆるせん!』


『まてまてまて、待つっすよ二人とも!ナマでもカメでもいいっすよ!』


『ところで羽鐘、なんだそのマルハゲジジィは彼氏か?』


『だれがこんなタコジジィを彼氏にするんじゃ!

私は女子高生だっつーの!』


『わしゃ構わんけどな』


『うるせぇドリルジジィ!』


『ドリルの要素はワシにはないと思いますけどもぉ!?』


『待てよ2人とも、まぁ話聞かせろよ、羽鐘。

その前におっぱい見せてくれや、

それを肴にウィスキーでもどうだクソジジィ』


『おおーうええのぉ女子高生のおっぱいか、

何カップじゃ?言うてみい羽鐘ちゃん』


『2人とも・・・いい加減にするっすよ』


『すまん』『すまん』


『まずね・・・チャッキーさん・・・・

私の両親の事なんだけれど。。。』


神妙な面持ちで口を開きなおした羽鐘に対し、

即察したチャッキーは立ち上がり、ろうそくに火を灯した。

その灯りに照らされたチャッキーの顔を見て虎徹は

『おのれ!やはり貴様ゾンキーとやらだな!』と虎徹を構える。

『お!なんだてめぇやんのか木っ端ジジィ!』

そう言うとチャッキーはチャッキーを構え・・・


『やめろって・・・気になってたんだけど、

ちょいちょい例えがおかしいから。』


羽鐘が早めに突っ込んだ。

チャッキーは『わかってるって・・・』

そう傷だらけの顔で微笑みながら羽鐘にウィスキーを少し渡した。

『未成年もクソも今は関係ねぇ、色々あったんだろ・・・・。酒飲んで少し楽になれや』


『うむ、羽鐘ちゃん、少し飲むとええ、落ち着くから』


お酒を飲んだことがない羽鐘だったが、

グイ!っと飲むと『おいしい!チョコレートみたいな味がする!』

と初めてのウィスキーにテンションが上がり、お代わりを貰うのだった。


そして1時間が経過した・・・。


『だからなチャッキー、てめぇどう思うよコラ、あぁ?

私な、この身長でな、Aカップなんよ、ちっちゃくね?

なぁ、A好きか?なぁA好きか?みんなDとかFとか好きなんだろ?

Aってなんだよクソが!おぉジジィ!ニヤニヤしてんじゃねぇよ

保険会社の新人に付いてくる主任かよ!』


『えらい酒癖悪いなお前・・・』


『あぁ?チャッキー、なんだその困り眉毛は、

上司に誘われたOLか!シャキッとせぇ!』


散々グチをまき散らして羽鐘は眠りについた。

ここで虎徹は羽鐘に聞いた今起きている事をチャッキーに話した。

ウィスキーを味わいながらゆっくりと。


朝になり、羽鐘が目を覚ました。


イイ匂いがしていた・・・チャッキーが朝食を作ってくれていた。

『匂いでゾンキーだっけ?が来たら困るけど、

腹が減っては戦ができねぇつってな』

塩コショウでザックリ焼いた厚みのあるハム、

そして傷だらけのあの顔に似合わずクロワッサンがついてきた。

塩加減が絶妙で最高においしい食事を楽しむと、

羽鐘はデスボイスについてチャッキーに説明した。


『信じてもらえる?』


『信じるも信じねぇもよ、声ってのは不思議な力があるもんさ、

声でグラス割る奴もいるし、電話かけちゃう奴もいる。

声でゾンキーの頭吹っ飛ばすとかあっても不思議じゃねぇ。

でも実際やって見せてくれねぇとな、そりゃな、うん』


チャッキーと虎徹はこっそり玄関の扉を開け、

丁度1体通りかかった主婦ゾンキーを捕まえた。

チャッキーが羽交い絞めにして虎徹が足を抱えて運ぶ。

チャッキーがゾンキーの胸を鷲掴みにしてみる。

『なんだよ、ただで触り放題と思ったけど、

死んでるから硬いんだな・・・・』



チャッキーと虎徹は主婦ゾンキーを椅子に縛り付けた。


『よし、羽鐘、見せてくれ、ここは防音設備が整ってる、

心配せずに思いっきり行け』


チャッキーは羽鐘に、デスボイスによるゾンキー破壊を

見せるように申し出た。

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