第2話 少年と少女(1)

青い空には白い雲がキラキラ輝き、心地よい風の音だけが静かに響く。

朱伎は寝転んでひと時の静けさと平穏を感じていた。この平穏が続くように心から願っているが、これから暫くの間は平穏な時間を持つことはできないだろうと覚悟していた。

里の行く末を案じながら静かな時間を過ごしている所へ元気な声が聞こえてきた。


「ねぇ。伯。待って。ここは立ち入り禁止よ。入ってはいけないわ。」

「知るかよ。嫌ならついてくるな。」

少女が息を切らせながら不安そうな表情で少年を追いかける。少年はイラつくように答える。


それでも諦めずに追いかけてくる少女をチラッと見た。そして少年は目の前の扉を開けて外へ出た。その瞬間に少年はドキッとした。

扉を開けたその先にいるはずのない人物がいた。


「なんだ。お前たちもサボりに来たのか。」

朱伎は身体を半分起こして穏やかに微笑んだ。


先程まで眉間にシワを寄せて考え事をしていたようには見えなかった。まだ昼前の時間で少年と少女は学校の授業があるはずの時間だ。


「七代目…。」

「ご頭首様…。」

少年と少女は伯と旭陽だ。2人の表情は緊張で硬直しているのが分かった。


この場所は立ち入り禁止の場所だ。誰もいるはずがないと思っていた場所に先客がいて、それは頭首だった。何を言われるのか2人は身構えた。


「私の特等席だと思っていたが違ったか。」

朱伎は明るい声で笑った。


2人の子供たちを優しい瞳で見つめる。この場所は自分の特等席で自分以外の人間がこの場所に来ることは、ほとんどなかった。


「頭首のくせにサボるのかよ。」

伯は怒られないと思った瞬間に悪態をついた。


相手を起こらせるような態度をわざと取っているようだった。悪気があるのか分からない。


「伯。何てことを言うのよ。」

旭陽は伯の言葉と態度に驚いて伯の腕を掴んだ。


里の頭首である人物を目の前にして言って良い言葉ではない。まして年上の人間に対する態度ではない。


「はは。伯は相変わらず威勢がいいな。」

朱伎はにっこり微笑んだ。


伯の態度に怒ることも諌めることもなく、何も気にしていないかのように優しく笑った。

伯はバツが悪そうに横を向いた。


「ご頭首様は、何をしているのですか?」

旭陽は不思議そうに首を傾げた。


「ん。ああ。ここからの眺めが好きなんだ。ほら。お前たちも見てみろ。この場所からは里が見渡せる。」

朱伎は立ち上がり子供たちに景色を見せた。


この場所からは森羅の里が一望できる。朱伎はこの場所から里を眺めるのが好きだった。

1人になりたい時や考え事をする時に来る場所だった。

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