第11話 真実
朱伎は自分の知る真実を話した。
彼らが知るべきだと思うが、本当に知るべきなのか疑問は残る。知らないままの方が良いこともある。
だが 四聖人である以上、知る必要がある。この話を真実として受け入れていくことが彼ら四聖人の責任でもある。
「…。何が正しいのか分からないね。」
八白が静かに呟いた。
朱伎から聞いた真実は信じがたい話だったが、どこか府に落ちた感じがした。ずっと感じていた違和感がなくなった気がする。
「そうだな。何が正しいのかは私にも分からない。だが、すべてが間違ってるとも思わない。」
朱伎は苦笑した。
白か黒か。すべてがはっきりすることはない。世の中にはグレーゾーンがあるち分かっている。どの立場から物事を見るかによっても変わってくる。
真実を知って自分の間違いに気付くこともあるだろう。そして自分の信じていたものが否定されて道を見失うこともあるだろう。
「それでも…。信じてきたのにな。」
棗は悲しそうに言った。
何だかとても悲しかった。自分は里を信じてきた。それが裏切られた気分だ。この気持ちをどこへ向ければいいのか。
「私たちが信じてきたものは造られたものということね。」
多岐が考えるように言った。
これまで信じてきたものが造られたもの。そう考えると何とも言えない気持ちになる。何を信じて護ってきたのか。
「すべては造られたモノではないでしょうか?」
須磨がにっこり微笑んだ。
まるで子供を諭すような優しい表情だ。
「え…。」
「造られたモノ…。」
棗と八白が同時に呟いた。
「すべての国は先人の知恵と努力によって造られたモノではありませんか?今の時代があるのは先人たちの想いです。その想いは少なからず未来を護ろうとしていたのではないでしょうか。例え、それが歴史をねじ曲げることであったとしても何かを。それでも護りたい未来があったのではないでしょうか。その時にでき得る最善の選択をしたのではないでしょうか。」
須磨はにっこり微笑んだ。
何が正しいのかは、どの立場に立つかによって変わる。最善の選択だと思っていても時として、それは最善ではないこともある。
だから、すべてを否定することはできないはずだ。
誰もが難しい選択をするときは迷うだろう。それでも決断をしなければない時がある。だから、正しいと信じて決断をする。
「ええ。」
崋山は静かに頷いた。
その言葉を頭の中で考える。自分がしてきた選択を思い出す。
「そう言われても、何だか納得できねぇ。」
棗はむくれた。
彼はまだ若く白黒はっきりさせたい人間だ。自分が信じるモノは正しく在ってほしいと願う。
大人たちは何となく納得していた。今の段階で何をすべきか。何ができるか考えるしかないと分かっている。
「過去や里の歴史ではなく私は朱伎様を信じてついていきますよ。」
亜稀がにっこり微笑んだ。
迷うことなく言葉にできる強さを彼女は持っている。そして一瞬で的確な判断を下し必要な言葉を使い朱伎を支える唯一無二の右腕だ。
「これからも貴方と共に。」
「ついていくしかないかぁ。」
「僕らは生きる道はここにしかないし、ご頭首についていくって誓ってるしねぇ。」
多岐、棗、八白が静かに微笑んだ。
四聖人である自分たちの生きる道は彼女だ。誓いを立てた主がいる。ついていく理由はそれで充分だ。
「ありがとう。」
朱伎は嬉しそうに笑った。
大河は若い世代の子供たちのやり取りに微笑んだ。自分にもこんな時代があったのかと懐かしむ。
今の時代を。そして今の里を護る彼らを見守ることが自分の役目だと分かっている。
正しい道か分からないが何かを示すことができればと思う。
「どこから始めますか?」
崋山が静かに尋ねた。
「夏輝の記憶を探れ。だが慎重に動けよ?まだ何の確証もない。私の勘だけだ。里の誰にも不審に思われるような行動は決して起こすな。何とか隠せ。」
朱伎は難しい指示を出した。
誰にも不審に思われないように動くことは難しいだろう。それでも確証のない今は慎重にならざるを得ない。
「御意。」
崋山は頭を下げる。
その命令は絶対だ。里を不安にさせてはいけないことは百も承知だ。だから必ずやり遂げる。
「そっか。こうやって造られるのか。」
棗は納得したように言った。
今、正に自分は話を造っているということに気づいた。真実を隠すつもりはないが、里を護るために必要な策だと信じている。
同じだと気づいた。その時、正しいと思うことをしているだけだ。
「そうね。」
「どの立場に立つか。だな。」
多岐が頷いて八白が静かに呟いた。
誰の心にも複雑な想いがあるが、先人の想いも分かる。そして、過去は変わらない。
「とにかく今できる最善のことをしよう。」
朱伎はしっかりとした口調で言った。
その瞳には強い信念を宿していた。誰にも見えない未来を見据えているようなそんな朱色の瞳だった。
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