幕間2※アレクシア視点
初恋の人レオンハルトがクラスに編入をしてくる。
担任のヘンドリックから「挨拶をしてください」と言われた彼は朗らかな笑顔で自己紹介を始めた。
「メテオーア王国からやって来ました。レオンハルト・フォン・ブリッツです。皆さん、よろしくお願いします」
眩しいくらいの笑顔にクラスの女子がそわそわする。
声を漏らしたり、表情に出さないのは貴族だからこそ出来る芸当だろう。
前世で勤めていた高校だったら格好良い人が転入してきたら教師の話も聞かず大騒ぎだった。
「レオン君の席はアレクシアさんの後ろですね」
ぼんやりと前世の事を思い出しているとヘンドリックからそう言われる。
レオンハルトが私の後ろ?
驚いてヘンドリックを見ると意味あり気に笑われた。
まるで私とレオンハルトが知り合いであるから気を使ったような雰囲気だ。流石に考え過ぎだろうか。
戸惑っている間にもレオンハルトはこちらに向かって歩いてくる。すれ違う際、目が合ったけど何事もなく逸らされてしまう。
「やっぱり覚えていないのね…」
自分だけが聞こえるくらいの小さな声が漏れる。
レオンハルトが記憶喪失になっている話は聞いていた。覚悟をしていたのに心が寂しい。
後ろから聞こえてきたのは隣の人に話しかけるレオンハルトの声だった。
「気軽にレオンと呼んでくださいね」
声変わりで低くなっているが昔と変わらない丁寧な口調。懐かしさに小さい頃の記憶が甦ってくる。
『大きくなったら結婚しよう』
別れ際にレオンハルトから言われた言葉だ。
子供の戯言だったと思う。それなのに今も忘れられない大切な思い出なのだ。
今こんな事を思い出しても仕方ない。それよりもレオンハルトと近い席になってしまった事を考えた方が良いだろう。
どうしようと助けを求めたのは離れた席のトルデリーゼとユリアーナだ。席が離れている人に助けを求めたところでどうにかして貰えるわけじゃない。
二人は困ったような表情を見せた。
「あの、すみません」
後ろから声が聞こえてびくりと身体が震える。
振り向くと前のめりになってこちらを見つめているレオンハルトと目が合った。
ああ、好きだわ。
何年経ってもこの気持ちは色褪せない。むしろ十年間かけて大きく膨れ上がっている。
「あ、えっと……お名前を伺っても?」
動揺したように見えたレオンハルトはぎこちない笑顔を浮かべて私の名前を尋ねた。
もしも運命というものがあるなら目が合った瞬間に記憶を取り戻すものだ。どこかドラマチックな展開を期待していた自分を殴りたくなった。
「あの…」
私が答えなかったからだろう。レオンハルトは不安そうな表情で首を傾げる。
「あ、えっと、その…私はアレクシア・フォン・フィンスターニスです」
焦り過ぎたせいで落ち着いた挨拶が出来なかった。
バタバタした挨拶にレオンハルトはくすりと笑う。
「アレクシアさん、僕はレオンハルトです。レオンと呼んでください」
「では、私の事もシアとお呼びください」
愛称で呼び合うのは過去を思い出すので苦しさもあるけど、それ以上に好きな人との距離が縮まったような気がして嬉しくなる。
「シアですね」
「はい、レオン様」
「呼び捨てで構いませんよ」
「ですが…」
流石にそれは不味いだろう。
そう思うのにレオンハルトは「学園内だけで良いので」と笑った。
本人に向かって愛称を呼ぶのは久しぶりだ。ドキドキして頰が熱くなる。
「分かりました、レオン」
照れ臭そうに笑った私にレオンハルトは一瞬目を瞠り、そして優しく微笑んだ。
挨拶が終わり前を向く直前レオンハルトが視線を向けたのはトルデリーゼの方だった。
「やっぱりリーゼが気になっているのかしら…」
小さな呟きは授業開始のチャイムに掻き消された。
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