第10話

左を見れば腕組みで顰めっ面をする父、右を見れば優しく微笑む母と真顔のアードリアン。

そして前には満面の笑みを浮かべるベルンハルトが座っていた。

この状況は一体何なのだろうか。


「あの、どうしてお父様達が…」

「それは」

「それは陛下に招かれたからだよ、リーゼ」


わざとベルンハルトの声に被せて笑いかけてくる父。こんな事で勝って喜ぶとはやる事が小さいと思ってしまう。


「レオンハルト殿下の出迎えは王族の方と私だけですよね?」

「実は」

「実は出迎えが終わった後に食事会が行われる予定で、僕達はそちらに招かれたんだ」


アードリアンまで被せて声を発した。しかも父同様に得意気な表情を見せている。

食事会の件は聞いていたけど家族が招かれている事は知らされていない。また陛下達のサプライズだろうか。


「お父様達はどうして食事会に招かれたのですか?」

「それは」

「それは旦那様が活躍してる宰相だからよ」


母まで被せてしまっている。しかもこれは天然だ。完全に父の自慢がしたくて乗り出しちゃった感じだった。

私の家族、そのうち不敬罪で叱られそうですね。

ふと後ろを見ると笑いを堪えているフィーネとユリアーナが立っていた。ベルンハルトが弄られているのが面白いのだろう。


「私とお父様だけが招かれたのでは?」

「陛下がどうせなら家族で来たら良いと言ってくれたのよ」


母はお茶会では影響力のある人だし、アードリアンも次期宰相候補として有力な人物。別に招かれてもおかしくはないのだ。

それは良いとしてベルンハルトが落ち込んでいるのが気になる。さっきまで笑顔だったのに。


「私、お父様達が食事会にいらっしゃる事を知らなかったのですが…」

「殿下、伝えてなかったのですか?」


父に睨まれたベルンハルトは「言おうと思っていたのだが…」と苦笑いを見せた。目が合った途端に自身の唇を指でなぞり始めた彼に頰が引き攣る。言うタイミングを逃すくらいイチャイチャしていたという事だ。

父達には言えないけどユリアーナとフィーネにはバレているので呆れた視線を頂いた。


「王太子妃の部屋に連れて行く時間はあったくせに」

「リーゼ、お部屋はどうだった?」


アードリアンの態度がいつも以上に悪い気がするし、母だけがこの場の癒しだ。居てくれるだけでこのギスギスした空気が軽くなるような気がする。


「あの、素敵な部屋でした」

「あらあら。それは早く住みたいわね~」


お母様、それは地雷です。

私の両隣に座ってる二人と私の後ろに立っている侍女を見て欲しい。護衛は今にも吹き出しそうな顔をしている。


「殿下、結婚前にやらかしたら許しませんよ」

「結婚後でも許したくないですけどね」

「許さなくていいと思いますよ」


過保護過ぎだ。それにしても今日は生々しい会話が多くて反応に困る。


「結婚前は許さなくてもいいが、結婚後は勘弁してくれ」


懇願するように言うベルンハルト。別にお願いするような事じゃないと思う。


「リーゼ、可哀想…」


ユリアーナだけは楽しそうにこの光景を見ていた。

私も傍観者側になりたいです。

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