第8話
ベルンハルトに連れて来られたのは行った事がない奥の区画。やたらと豪華な部屋だった。確かに来た事がない部屋だけど本当に控え室なのだろうか。
「ベルン様、ここは?」
「リーゼの部屋だよ」
首を傾げる私にベルンハルトは満面の笑みで答える。
私の部屋?どういう事でしょうか?
水色を多めに使った雰囲気はヴァッサァ公爵邸の私の部屋によく似ているけど。訳が分からず頭にはてなを浮かべる。
「ここは王太子妃の部屋だよ」
「えっ…?」
王太子妃の部屋って事は私がベルンハルトと結婚した後に住む部屋という事だ。
戸惑う私にベルンハルトは嬉しそうに話を続ける。
「ランベルトやガブリエラからヴァッサァ公爵邸にあるリーゼの部屋の様子を聞いて内装を整えたんだ」
ベルンハルトは楽しそうな笑顔で言っているけど、とんでもない事を言っている自覚がないのだろうか。
父やガブリエラ様に私の部屋の事を聞いたと言っているけど本人が何も聞かされていないのだけど。ユリアーナを見ると若干引いていた。流石にこのサプライズは受け付けられないのだろう。
「本当ならもっと早く連れて来たかったのだけど、機会がなくてね」
今まで連れて来なかった件は良いけど部屋を作った件は事前に言っておいてほしかったところだ。部屋の奥の方にある扉のところまで行ったベルンハルトはこちらに来いと手招きをしてくる。全員で駆け寄るとユリアーナとフィーネだけは離れるように指示を出した。
どうして近寄ってはいけないだろうかと首を傾げている。
「この扉、僕の自室に繋がってるんだ」
開かれた扉の向こう側に見えたのはこちらと負けないくらい豪華な部屋だった。普段ベルンハルトが使っている部屋。
私が見ても良いのだろうか。
「ここをユリアーナ嬢達に見せるわけにはいかないから」
「だから離れて貰ったんですね」
普通に考えたら王族の、しかも王太子の自室を見て良いわけがない。
彼の指示は間違っていないのだ。しかしそう考えるとやはり私が見て良いのか気になる。
「僕の部屋を見る事が出来て入る事が許されている女性はリーゼだけだ」
「私だけ…?」
「リーゼは僕の妃になるのだから当然でしょ」
ベルンハルトの妃になる人だから見る事も入る事も許されているのだ。彼の特別な存在であると自覚させられて嬉しくなる。
「勿論リーゼの部屋も入って良い男は僕だけだ」
後ろから抱き締めてくるベルンハルト。普段なら注意しているところですが今はそんな気持ちになれない。回された腕に手を添えて、顔だけ振り向いて笑った。
「嬉しいです」
本当に嬉しい。勝手に部屋を用意された挙句いきなり連れて来られた時は戸惑いしか感じなかったけど今は嬉しさが勝っている。
「僕も嬉しい。リーゼがこの部屋に居るってだけで嬉しくて死んじゃいそうだ」
「死なれたら私この部屋に住めなくなるわ」
「なら生きなきゃいけないね」
二人で笑い合う。幸せ過ぎてどうにかなりそうなのは初めの経験だった。
「これは嬉しいサプライズになったかな?」
抱き締められたまま尋ねられます。
そういえば、何年か前に私が嬉しいと思うサプライズをすると言っていた。本当に有言実行な人だ。
「最高に嬉しいサプライズです」
思わずキスをしてしまったのは私のせいじゃない。喜ばせたベルンハルトが悪いのだ。
「あーあ、またイチャつき始めた」
「ユリア様、後ろを向いてあげるのが優しさですよ」
「分かってるわよ」
そんな会話が繰り広げられている事も知らずに私達は何度もキスを交わしました。
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