第29話
午前の部は剣を使用した競技が行われる。
剣競技には一つも参加しない為、客席から見る事にした。
体育祭の会場として扱われるのは学園から離れたところに用意された円形闘技場だ。
前世で言う某有名ドームの倍の広さを誇っている。
「大きな会場ですね」
「この体育祭の為に作られたらしいわ」
フィーネの言葉に頷いて返事をする。
体育祭をする為だけに巨大な会場を作ったのはおそらく貴族が煩かったからだ。
平民と同じ席で観戦したくない。
狭くて汚いところに行きたくない。
詳しくは知らないがこんなくだらない理由だろう。
「リーゼ様」
「どうしたの?」
「あちらが騒がしいです」
フィーネが指差す方を見ると言い合いをしている人達の姿が確認出来た。
何をしているのでしょうか。
近づいて行くと騒ぎの中心に居る人物の顔がちらりと覗く。
その人物には見覚えがある。
「シェーン伯爵…?」
騒ぎの中心に居たのはシェーン伯爵。アンネの父親だ。
直接話した事はないが顔は知っている為、すぐに分かった。
どうして言い合いになっているのだと駆け足で近づくとシェーン伯爵の怒声が響く。
「ふざけるなっ!」
ベルンハルトの話によるとシェーン伯爵は物静かな方だと聞いていた。しかし今の彼は顔を真っ赤にして声を荒げている。
何を騒いでいるのでしょうか?
「どうして私の娘が平民に馬鹿にされている!」
走っていた足を止める。
シェーン伯爵の一言で事情は察した。
おそらくアンネが学園であった事を自分の都合の良いように改竄して話したのだろう。
娘から平民に苛められていると聞いたシェーン伯爵は怒り狂っているのだ。
「リーゼ様、どうしますか?」
「出ましょう」
生徒会の仕事はないけどトラブルを見つけてしまった以上は放置出来ない。
言い合っているところに近寄るとシェーン伯爵の話し相手である子爵が気が付いてくれた。
子爵の視線を追ってシェーン伯爵もこちら見てくれるので挨拶をする。
「初めまして、トルデリーゼ・フォン・ヴァッサァと申します」
礼を終わると二人は気不味そうな表情を浮かべる。
「お見苦しいところを…」
「騒がれていたようですが何か問題でもありましたか?」
「……っ、あの、ヴァッサァ公爵令嬢」
吃りながら話しかけて来たのはシェーン伯爵だった。
「私の娘であるアンネをご存知ですか?」
「ええ、知っていますよ」
嘘は良くないですからね、ちゃんと答えますよ。
仮に嘘をついたとしてもすぐにバレてしまいそうだけど。
「最近娘に悪い噂があるみたいで…その、理由を知っていらっしゃいますか?」
シェーン伯爵の様子を見るにやはりアンネは全てを話していないのだ。彼女が話したのは苛められているくらいだろう。
シェーン伯爵が私とアンネのあれこれを知った上で冷静に対応してくれてる可能性も考えられるけど。どちらにしても話さないという選択肢は無さそうだ。
「実は…」
学園で起きたアンネに関わる事を全て話すとシェーン伯爵も言い合いになっていた子爵も真っ青にかる。
この人達はまともな思考回路の持ち主のようだ。
「そ、それは申し訳…」
「いえ、謝罪は要りません」
「ですが…」
頭を下げようとするシェーン伯爵。
彼から謝罪を貰っても仕方ないし、全ては学園で起きた事だ。生徒だけで解決出来るのならそれに越した事はない。
それよりも…。
「先程アンネ様が平民の方に馬鹿にされていると聞こえたのですが」
アンネの方が心配です。
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