第25話
「何を騒いでいるのですか」
生徒の輪から姿を現したのはヘンドリックだった。
誰かが呼びに行ったか騒ぎに駆けつけたのか分からないが彼の登場に多くの生徒が焦り出す。
前に出て行ったのはベルンハルトだった。
「ベルン、何があったのですか?」
「学園に流れているとある噂の弁解をしていただけです」
「噂ですか」
ヘンドリックの視線がこちらに移動してくる。おそらく彼の耳にも私の噂が届いていたのだろう。
目が合ったので深く頭を下げる。
「確かに不穏な噂が流れているようですが大丈夫ですか?」
「大丈夫です、誤解は解けましたから」
「分かりました」
安心したように笑うヘンドリックは手を叩いて「そろそろ自分の教室に行きなさい」と全員に解散の合図を送った。
申し訳なさそうに立ち去って行く生徒達。私達も教室に戻ろうと歩き出した瞬間。
「リーゼ」
「はい?」
名前を呼ばれて振り向くとヘンドリックがこちらに駆け寄って来た。
何か用でもあったのだろうか。
「何か御用ですか?」
「聞きたい事があるのでお昼休みに私のところまで来てください」
「聞きたい事ですか?」
さっきの騒動の件だろうかと首を傾げて尋ねる。
「風紀委員会の資料を作ったのはリーゼですよね?」
「そうです」
「いくつか聞きたいところがあるのですが大丈夫ですか?」
風紀委員会の資料は既にヘンドリックに渡して貰っていた。個人的には分かりやすく書いたつもりだったけどこの世界の住人にとっては分かり難い部分があったのかもしれない。
拒否する理由もないので頷いて「大丈夫です、お昼休みに伺います」と返事をする。
「それではまた後で」
手を振って立ち去って行くヘンドリックの背中をぼんやりと眺めていると頰を突かれる。
「ユリア、痛いわよ」
「呆けた顔をしているから、つい」
「アンネ様の相手をしてちょっと疲れたのよ」
疲れたのは慣れない事をしてしまったからですけどね。
私が答えるとユリアーナもベルンハルトも苦笑いを浮かべた。私の性格を知っているからこその反応だろう。
「これであの子もしばらくは大人しくなるでしょ」
それはどうだろうか。私に絡む事はしばらくないと思うけどベルンハルト達に絡むのはやめない気がする。
一日寝たら嫌な事を忘れるポジティブな性格の方ですからね。
どちらかと言うとネガティブな思考の持ち主の私から見ると少しだけ羨ましい気がする。あんな風になりたいとは思わないけど。
「遅刻になってしまいますし、早く教室に行きましょう」
今日以上の厄介事が起こらなければ良いなと思いながら教室に向かった。
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