第9話

「いったぁい~」


地面に座り込んで膝を摩る仕草を見せるアンネ。

上目遣いで、瞳を潤ませる姿は庇護欲を唆られる。ゲームのベルンハルトが惹かれた理由もちょっとは理解出来てしまう。


「ベルンハルトさまぁ」


ベルンハルトを見るなり甘えた声を出す。

後ろでユリアーナが「うわぁ…」と気味悪がる声を漏らした。気持ちは分かるけど人前なのだから我慢しないと駄目だと思う。


「勝手に私の名前を呼ばないでください」


満面の笑みのベルンハルト。明らかに作り笑いだし、少しだけ怒りも感じられる。

普通の令嬢なら逃げるかもしれないがこの手の女子には効きません。むしろ逆効果だ。


「じゃあ、呼んでもいいですかぁ?」


ほら効かない。

凄い精神力なのか鈍感なのか。ある意味尊敬ものだ。


「許可はしません。リーゼ、行きますよ」


ベルンハルトは私の腰を抱いてアンネの前から立ち去ろうとする。


「痛くて歩けない〜」

「ベルン」

「放置で良いですよ。勝手に転んだのですから」


泣いているふりなのは分かる。ただ放置すると「ベルンハルト殿下は泣いている令嬢を放置する人間だ」とか騒ぎ立てる人が居そうなので対処した方が良い。

しかしどうやって対処するべきなのか。考えているとアンネの視線はベルンハルトから外れる。


「あ、アードリアンさまとディルクさまもいる!」


さっきまでベルンハルトに縋ろうとしていたのに今度はアードリアン達ですか。

名前を呼ばれた二人は驚いた表情を見せるが側に立っているユリアーナは冷たい眼差しを送っている。

前世の推しと好きな人が絡まれて嫌なのでしょうね。


「皆さん、おはようございます」


タイミングが良いのか悪いのかエリーアスがやって来る。凄いメンバーが揃いましたね。

アンネを無視しての挨拶が始まってしまう。

女の子を苛めているようであまり良い気分はしないのだけど仕方ない。


「相変わらずベルン様はリーゼ様と仲良しですね」

「羨ましいですか?」

「ちょっとだけ」


満面の笑みのベルンハルトと苦笑いのエリーアス。

会話の意味がよく分からないけどおそらくベルンハルトが揶揄ったのだろう。きょとんと二人を眺めているとユリアーナから「相変わらず鈍感ね」と聞こえてくる。


「リーゼの奴、まだ気が付いてないのか」

「鈍感なところも可愛いだろ」


後ろからディルクとアードリアンの会話が聞こえてくるがやっぱり意味が分からない。

鈍感?気が付いていない?

何の話をしているのだろうか。そう思っているとアンネの声が聞こえてくる。


「あっ、エリーアスさまだぁ」


地面に転がっていたアンネはいつの間にか立ち上がってこちらに笑顔を見せていた。

痛かったのでは?

名前を呼ばれたエリーアスは動揺した表情を見せる。


「一気に攻略対象者四人に会えるなんてラッキー」


主人公が小さく呟いた。

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