第6話

どうしてこうなったのだろうか。


「リーゼ、大丈夫?」


ここは王城からやって来た王族の紋章入りの広い馬車の中。

横にはベルンハルト。他の人は誰も乗っていません。

私をこの場所に連れて来たのは隣に座っている人だ。

騒ぎ立てるアードリアンとフィーネが居たけどフランメ兄妹によって他の馬車に連行されていた。


「どうして二人きりなの?」

「嫌?」

「嬉しいけど、どうしてなのか気になって」


馬車から二人で降りるところを誰かに見られたら学園の生徒に騒がれるし、更に二人きりだったとバレたら面倒な事になる。そのリスクを背負って二人きりになる必要はないと思う。

ただ二人きりになれたのは普通に嬉しい。


「主人公の事を話しておきたくて」


また主人公の話か。

真剣な表情をするベルンハルトに力なく「あぁ」と呟いた。


「面倒そうな顔をしないで」


どうして恋人と二人なのに他の女の子の話をしないといけないのだろう。きっかけを作ったのは私だし、彼は私の事を考えて話を切り出してきたので文句を言うつもりはない。ただ複雑な気分にはなる。


「普通は僕達の登校時間を知らないよね?会う事は…」

「強制力があるなら確実に会うわ。朝から待機している可能性もあるけど」

「朝から待機って怖くないか?」

「どうしてもイベントを成功させたくて動くのですよ」


朝から待機していたとしたらストーカー感があって怖い。

もっと怖いのは電波系が自分をゲームの主人公だと思い込んでいる節があるところ。何をしても許されると思っているのだ。


「近づいてこないように障壁を張れたら良いのに」

「学園は魔法禁止ですからね」

「変な女にぶつかられるのは勘弁願いたいな」

「避けたら良いのでは?」

「確かに」


避けて向こうが転ぶような事があったら助けないといけないと思うけど。


「電波系でなければ良いな」

「最初は大人しくしていて、味方が増えたら悪役令嬢を貶めていく可能性もあるけどね」

「悩みが増えたな」


電波系は分かりやすく対応が出来るけど策士の人間は厄介だ。私を王太子の婚約者としてよく思っていない人間が主人公を利用しようとする場合もある。

悩みは絶えない。


「主人公の事を気にせずリーゼと仲良く出来れば良いのに」


気にしなくて良いじゃない

そう言えたら良かったのに。主人公の事を考えたら不安になる。

表情に出ていたのだろうベルンハルトが手を握り締めて笑いかけてきた。


「大丈夫だ。リーゼを破滅に導くような事にはさせない」

「ありがとうございます」


ぎこちなく笑い返す。

彼の肩にもたれ掛かると不安を掻き消すように頭を撫でられた。


「お願いがあるの」

「お願い?」

「こうやって甘えている間は主人公の事を口に出さないで」

「もしかして妬いてる?」

「悪い?」


私は聖人じゃない。

どこにでも居るような普通の女だ。しかも恋愛初心者。好きな人が他の女性を気にかけている事を上手く割り切れるような人間じゃないのだ。


「我儘だと分かっているけど貴方の口から他の女性を気にかけるような事を言って欲しくないの」


本当に重い女だ。

ベルンハルトは嫌になったりしないだろうかと思っていると横から抱き締められる。


「急にどうしたの?」

「ヤキモチ妬いてるリーゼが可愛くて」

「面倒だなって、重いと思わないの?」

「思わないよ」


甘ったるいキスを貰いました。

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